グリーン成長は可能なのか?カーボンニュートラルを達成しようとした場合、その経済的コストは莫大!

グリーン成長は本当に可能か?

ヴォールラスの分析によると、すべての主要経済国で、人口が高齢化するにつれて経済成長率が低下しています。その現象が最初に見られたのは、1990年代の日本です。しかし、低成長といっても2%で馬鹿にできない数値です。米国経済が2%で成長し続けるとすると、2055年までに現在の2倍の規模に、100年後には約8倍の規模になります。他の先進国でも同様に成長し、発展途上国の成長率はもう少し高いことを考慮すると、22世紀末には全世界のGDPは50倍から100倍になると推測されます。
 そのような経済成長をすると、環境破壊が激しくなるのではないかという疑問もあります。現在多くの欧州各国の政府、世界銀行、経済協力開発機構、米国の民主党がグリーン成長を支持しています。彼らは、それが可能だと主張しています。適切な政策の実行と継続的な技術革新によって、炭素排出量を削減し天然資源の利用を削減しながら、永続的な成長と繁栄を享受できると彼らは言います。経済学者、政治家、企業家による国際的な団体であるGlobal Commission on the Economy and Climate(経済と気候に関する世界委員会)は、2018年の報告書で、次のように宣言しています。「私たちは今までとは違った全く新しい経済成長の時代を始めなければなりません。経済成長の為には、急速な技術革新と持続可能なインフラ投資と資源の有効活用の3つが必要です。」と。
 その宣言は、「absolute decoupling(絶対的デカップリグ)」という概念を反映しています。それは、炭素排出量を削減しながらGDPを拡大することは可能であるという概念です。環境経済学者のアレックス・ボーエンとキャメロン・ヘプバーンは、絶対的なデカップリングは比較的容易に実現できると予測しています。なぜなら、2050年までには再生可能エネルギーが化石燃料よりも大幅に安価になると予測しているからです。2人は環境に優しい技術に関する科学的研究と化石燃料への多額の課税を支持しています。しかし、経済成長を止めるという考えには賛成しません。なぜなら、景気が後退すると、企業が環境負荷削減に取り組む意欲が弱くなってしまうと考えるからです。
 しばらくの間、経済が拡大しても炭素排出量を減らすことが可能であることを示す状況が続いていました。公式な統計では、2000年から2013年の間に、英国のGDPは27%増加しましたが、炭素排出量は9%減少しました。それは、英国の経済学者ケイト・ラワースが、示唆に富む著書「Doughnut Economics: Seven Ways to Think Like a 21st Century Economist(邦題:ドーナツ経済学は世界を救う)」に記したことです。また、米国でもその期間は同様な現象が見られ、GDPが増加し、炭素排出量が減少しました。世界全体では、国際エネルギー機関の数値によると、2014年から2016年まで炭素排出量は横ばいでした。残念ながら、その傾向は続きませんでした。「Global Carbon Project(温室効果ガスの排出量とその排出元を調査している組織)」の最近の論文によると、世界全体の炭素排出量はこの3年間は毎年増加しています。
 景気が悪くなると一時的な生産減少により、炭素排出量の増加は一旦止まります。また、石炭から石油への転換が進んだことで炭素排出量も減りました(この効果が出るのは1度しかありません)。国連と多くの気候調査機関による最近の報告によると、2030年までに化石燃料の生産は50%増えるので、パリ協定で定めた産業革命からの気温上昇を2°C以下にするという目標は達成できそうにないことが予想されます。最近、グリーン成長に関する文献をギオルギス・カリスとジェイソン・ヒッケル(ロンドン大学ゴールドスミス校の人類学者)が精査しました。その結果分かったことは、グリーン成長という概念は、誤った方向に進む可能性のある目標であり、各国の政治家は他の代替戦略を考える必要があるということです。