A Message for the Federal Reserve in the New Inflation Data
FRBは、最新のCPI報告書の数字を良く見るべき
As a new report shows price pressures easing, should the central bank rethink its strategy of raising interest rates?
最新のCPI報告書は物価上昇圧力が弱まっていることを示しています。中央銀行は金利の引き上げを再考する必要があるのでは?
By John Cassidy January 12, 2023
1年前とはかなり違います。12ヶ月前の今頃は、ガソリン代が高騰し、他の多くの品物の価格も急上昇していました。共和党はこのインフレはバイデン政権に責任があるとして、バイデンフレーション(Bidenflation)と揶揄していました。現在、事態は全く逆方向に動いています。木曜日(1月12日)の朝、12月の消費者物価指数(CPI)が発表されました。総合インフレ率(headline rate of inflation)は前月(11月)の7.1%から6.5%に低下していました。6月に9.1%とピークを付けた後、6ヶ月連続で低下しています。また、CPIの報告書の詳細を見ても、米国のインフレ率は依然として低くはないものの、峠を越えたとみられます。
総合インフレ率は、物価の上昇度合いを表す指標で、前後1年間のCPIを比べて算出します。ですので、今回発表された12月の総合インフレ率は、2021年12月から2022年12月の間にどれだけ物価が上昇したかを示すものです。物価の直近の動向を知るには、1年間の上昇率を見るだけでなく、もっと短いスパンの1ヶ月間とか3ヶ月間の物価の上昇率を見ることも必要です。いずれにしても、数値を慎重に見る必要があります。ガソリン価格をはじめとしてエネルギーコストが大幅に低下したことにより、CPIは前月比で見ると0.1%低下しました。確かに、これは小さな変化かもしれませんが、新型コロナのパンデミックが始まった2020年4月以降でCPIが前月比でマイナスとなったのは初めてのことです。
過去3ヵ月の数字を見ると、物価上昇圧力が急激に減衰しているわけではないのですが、ゆっくりと減衰していることが明らかです。10月から12月にかけてのインフレ率は年率換算で約2%でした。ジョー・バイデン大統領がホワイトハウスでの記者会見で指摘したように、昨年の1〜3月のインフレ率は年率換算で10%以上だったわけで、インフレが抑制されつつあるのは間違いないようです。
ガソリン価格が下落し、新型コロナのパンデミックに起因する世界的なサプライチェーンの問題も緩和されたため、CPIの総合指数はかなり低下しています。しかし、食品やエネルギーなど価格の変動が大きい品目を除いたコア指数はどうなっているのでしょうか。バイデン政権は、こちらの方をより注意深く監視しているはずです。コア指数も、9月には6.6%でしたが12月には5.7%に低下しました。さらに、直近の3カ月間に限れば、コアインフレ率の低下は極めて急激です。年率換算で3.1%まで低下しています。FRBの元エコノミストで、調査会社マクロポリシー・パースペクティブス(MacroPolicy Perspectives)のジュリア・コロナードは、ツイッターに「これは非常に良いニュースだ」と書いていました。
もっとも、より慎重な見方をするエコノミストも少なくありません。しかし、そんなエコノミストたちも、物価の下落傾向が続いていることは認めています。ムーディーズ・アナリティクス(Moody’s Analytics:ムーディーズ・コーポレーションの子会社)のエコノミストのマット・コーリャー(Matt Colyar)は述べました、「最新のデータは、米国経済を苦しめてきたインフレが2022年の終盤に収束に向かったことを示しています。」と。また、バイデン大統領は、「政権には引き続き一段の仕事が残されている」と認めながらも、「データが明確に示しています。インフレ率は、他の主要国では依然としてが高いが、アメリカでは毎月下がっています。」と述べました。まさしく彼の言う通りで、バイデン政権の経済運営は見事だったのではないでしょうか。
実際のインフレ率は、労働省が発表するCPI報告書で示されているよりも速く低下している可能性があります。というのは、労働省が物価を計算する際の住居費の扱いには癖があるからです。CPI報告書をよく見ると分かるのですが、住宅費(家賃や外出先での宿泊費を含む)が先月は0.8%上昇しています。過去12ヶ月では7.0%上昇しています。住宅費はCPI全体の約3分の1を占めるため、その上昇はCPIの数字に大きな影響を与えます。その影響だけで、12月のコアインフレ率は0.3%押し上げられました。実際、CPI報告書には、「食料とエネルギーを除くと、総合指数が前月比で上昇している主たる要因は、住宅費であった。」との記載がありました。
この問題は、エコノミストの間でも広く認識されていることです。労働省がCPI を算出する際には住宅費も加味しているわけですが、実際に住宅市場で起こっていることが住宅費に反映するまでにタイムラグが出てしまっているのです。実際には、直近の金利の急上昇の影響で住宅市場の減速は鮮明で、家賃の上昇も鈍化しています。新型コロナのパンデミックが発生して以降の2年間で急激に上昇した住居費は、既にピークアウトしていると思われます。労働省のCPI報告書では住宅費がまだ上昇していると示されているわけですが、リアルタイムで市場動向を探る種々の民間調査では既に下降に転じています。マーケットが非常に信頼しているS&Pコアロジック・ケース・シラー住宅価格指数(S& P CoreLogic Case-Shiller Home Price Index:いわゆる、ケース・シラー指数のこと)は、7月以降は下がり続けています。また、Zillow(アメリカでオンライン不動産データベースを運営する企業)によると、全米の募集賃料は10月、11月ともに下落しています(12月の数値はまだ出ていません)。
労働省のCPI報告書では住宅費を反映させる際にタイムラグが発生しているわけですが、2つ認識しておくべきことがあります。1つは、CPIに民間の調査で示された家賃の下落が反映されていれば、総合インフレ指数とコアインフレ指数はもっと低くなっているはずであるということです。もう1つは、今後数ヶ月で、労働省が認識している住宅費と民間が示しているそれとのタイムラグは解消していきますので、CPI報告書の数字にさらなる下方圧力がかかるということです。パンセオン・マクロエコノミクス(Pantheon Macroeconomics:経済調査コンサルタント会社)のチーフエコノミストのイアン・シェファードソン(Ian Shepherdson)は、「急激な家賃の上昇によって物価が大きく押し上げられていました。それが大きく下落し始めたわけですから、物価も大きく下がり始めるはずです。」と言いました。
パウエル議長らFRBの理事たちは、このことを十分に理解しているのでしょうか。あくまでインフレ退治を最優先するつもりのようですが、見直す必要があるのではないのでしょうか?多くのエコノミストが今年後半には景気後退に陥ると予測しています。FRBがインフレ退治を優先してFFレート(federal funds rate)を上げ続ければ、景気後退を回避することは不可能です。パウエル議長たちは、来月も利上げを実施すると示唆しています。おそらく、FFレートをさらに0.25ポイント引き上げ、4.5%を超える水準にするでしょう。しかし、RRBは、足元の数字をつぶさに見て本当にそれで良いのか熟慮すべきです。2020年と2021年にインフレ率が急上昇した際のFRBの対応は、残念ながら非常に拙い上に後手を踏みました。現時点では、物価上昇圧力は弱まっているわけですから、景気後退局面に陥らないように注意する必要があります。♦
以上
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