AI ブームは AI バブルになりつつあるのか?残念、それは誰にもわからない!

The Financial Page

Is the A.I. Boom Turning Into an A.I. Bubble?
AIブームはAIバブルに変わりつつあるのか?

As the stock prices of Big Tech companies continue to rise and eye-popping I.P.O.s reëmerge, echoes of the dot-com era are getting louder.
巨大テック企業の株価が上昇を続け、目を見張るようなIPOが復活するにつれ、ドットコムバブル時代の残影が少しずつ見え始めている。

By John Cassidy August 11, 2025

 チップメーカーのエヌビディア( Nvidia )の最高経営責任者 CEO のジェンスン・フアン( Jensen Huang )が先週ホワイトハウスでドナルド・トランプ大統領と会談した。彼が明るく振る舞ったのには理由がある。エヌビディアのチップは生成型 AI モデル( artificial-intelligence models )のトレーニングに広く利用されており、そのほとんどはアジアで製造されている。今年初めに同社はアメリカでの生産を拡大すると約束した。水曜日( 8 月 6 日)にトランプが発表したのだが、アメリカで製造することを約束したチップ製造企業は、導入を準備していた半導体への新たな高率関税を免除される。翌日、エヌビディアの株価は史上最高値を更新し、時価総額は 4 兆 4,000 億ドルに達し、同様に AI に深く関与しているマイクロソフト( Microsoft )を上回り、再び世界で一番となった。

 AI ブーム( A.I. boom )は喜ばしいことなのか?それとも AI バブル( A.I. bubble )を警戒すべきなのか?ドットコムバブル( dot-com bubble )の崩壊から四半世紀以上が経った。当時、数百もの採算の取れないインターネットスタートアップ企業がナスダック( Nasdaq )に上場していた。多くのテクノロジー企業の株価は成層圏へ駆け上がっていた。2000 年 3 月と 4 月には多くのテック企業の株価が暴落し、続いて多くの(全てではないにせよ)インターネットスタートアップ企業が倒産した。ここ数カ月、ウォール街では、現在のテック企業株の急騰は当時と同じ軌跡を辿っているのではないかという議論が交わされている。3 月に発表された「 25 年後:テクノロジーバブル崩壊の教訓( 25 Years On; Lessons from the Bursting of the Technology Bubble )」と題された調査報告書の中で、ゴールドマン・サックス( Goldman Sachs )の投資アナリストチームは、バブルではないと主張する。「近年、テクノロジー株への関心は急上昇しているが、株価上昇は堅調な利益基盤によって正当化されている。これはバブルではない」と結論付けている。報告書が指摘しているのは、いわゆるマグニフィセント・セブン( Magnificent Seven companies )の収益力の高さである。たしかに、アルファベット( Alphabet )、アマゾン( Amazon )、アップル( Apple )、メタ( Meta )、マイクロソフト( Microsoft )、エヌビディア( Nvidia )、テスラ( Tesla )の利益率は頭抜けている。2022 年第 1 四半期と今年第 1 四半期を比べると、エヌビディアの売上高は 5 倍、税引後利益は 10 倍以上となっている。

 そのゴールドマン・サックスの報告書には、有益な歴史の教訓が 1 つ記されている。1995 年から 2000 年の間にハイテク株の構成比が高いナスダック総合指数は 5 倍に上昇した。ピーク時には、ナスダックに上場する株式の評価指標として広く用いられている株価収益率( price-to-earnings ratio, or “P/E” :日本では PER )は 150を超え、これはそれ以前にも後にも見られなかった水準であるという。これと比較すると、2020 年 3 月から 2025 年 3 月までの 5 年間は比較的穏やかな推移である。確かにナスダックはほぼ倍増し、PERも大幅に上昇したわけだが、3 桁には程遠い。

 私はドットコム・バブルとその崩壊( the dot-com boom and bust )について幅広く執筆してきた経験から、ゴールドマン・サックスの分析には説得力があると感じる。ドットコムバブル時代に起きた極端な状況は、多くの人が忘れてしまっている。もしくは、当時まだ若かったせいで覚えていない。投機的ヒステリー( speculative hysterias )というロジックが存在している。17 世紀のオランダのチューリップ・バブル( tulipmania )から Pets.com (アメリカのペット用品を扱うドットコム企業。ドットコムバブル崩壊の最大の被害者の 1 つとされている)の隆盛没落に至るまで、バブルが弾ける際に必ず起こる現象がある。次第に、強欲( greed )、 FOMO ( Fear Of Missing Out の略で、取り残されることへの不安や恐怖 )、そして投資における「※大馬鹿理論( greater-fool theory)」がはびこるようになる。それらが、最終的には慎重さ( caution )、常識( common sense )、そして金融重力( financial gravity:富を引き寄せる力)を消し去ってしまうのである。3 月にはウォール街で FOMO 的な行動とトレンド追随が随所で見られたが、1990 年代後半の水準と比べると程遠い。しかし、それから 5 カ月が経ち、ドットコムバブル時代の残影が少しずつ明確に見えるようになりつつある。
(※大馬鹿理論とは、金融において、本来の価値を大幅に上回る過大評価された資産を購入し、後にさらに高値で転売できれば儲かる場合があるという考え方。ある「愚か者」が高値の資産を購入し、それをさらに「より愚かな者」に売却して利益を得ようとすること)

 パランティア・テクノロジーズ( Palantir Technologie )の例を考えてみたい。同社の AI ソフトウェアは、国防総省( Pentagon ) 、中央情報局( C.I.A. )、移民税関捜査局( ICE )はもちろん、多くの民間企業でも利用されている。エヌビディア CEO のフアンがホワイトハウスを訪問する数日前、パランティアは好調な業績を発表した。Yahoo!ファイナンスのデータベースによると、その週の終わりまでに株式市場での同社の評価は高まり続け、株式時価総額は過去 12 カ月間の利益の 600 倍以上、同期間の売上高の約 130 倍に上昇した。1990 年代後半でさえ、これほどの数字は眉をひそめるものであった。

 ドットコム時代のもう 1 つの特徴である、目を見張るような IPO も復活しつつある。7 月末、インターネット関連事業者向けソフトウェアを開発し、自社製品群に AI 機能を追加しているフィグマ( Figma )社は、ニューヨーク証券取引所( New York Stock Exchange )に 1 株 33 ドルで株式を公開した。取引開始と同時に株価は 85 ドルまで急騰し、終値は 115.50 ドルであった。公開価格から 250% 上昇した。これは 1995 年 8 月 9 日にネットスケープ( Netscape )社が上場した時のことを彷彿とさせる。同社は、ネットスケープ・ナビゲーターというウェブブラウザを開発したことで知られる。同社の株式は 28 ドルで公開された後、75 ドルまで上昇し、58.25 ドルで取引を終えた。この急騰はパーセンテージで見るとフィグマ社の株価の初日の上昇率よりは小さいわけだが、ドットコムバブルの端緒であったと指摘する者も少なくない。

 フィグマの株価が IPO 以降、80 ドル付近でとどまっていることは注目すべき点である。これは健全な状況が続いていることの表れとも解釈できる。しかし、株価が依然として公募価格の 2 倍以上で推移していることを考慮すると、他の非上場 AI 企業の株式市場への参入が後押しされるであろう。IPO 専門の調査会社ルネサンス・キャピタル( Renaissance Capital:千代田区の似た社名の企業とは無関係)は、オープン AI ( OpenAI )、アンスロピック( Anthropic )、コヒア( Cohere )、データブリックス( Databricks )、シンフォニー AI ( SymphonyAI )、ウェイモ( Waymo )、スケール AI ( Scale AI )、パープレキシティ( Perplexity )の 8 社を有力候補として挙げる。これらの企業のほとんどはユニコーン企業であり、ベンチャーキャピタリストやその他の初期投資家との資金調達契約で 10 億ドル以上の評価額が付けられている。しかし、調査会社トラクソン( Tracxn )によれば、アメリカには約 7,000 社の小規模で知名度の低い AI 企業があり、その内の 1,000 社以上が既に外部の出資者からシリーズ A ( Series A:企業が最初の重要なベンチャーキャピタル出資を受ける段階)の資金調達を受け、事業資金を調達しているという。

 初期段階の資金調達が容易な状況であるが、これはドットコムバブルのようなバブル形成に必要な条件が整っていることを意味する。さらに 3 つの条件も整っている。画期的なテクノロジーに対する投資家の熱狂(たしかに生成型 AI がアメリカ経済の広範な領域に影響を与える可能性が高いが)、ウォール街の投資銀行がこぞって IPO の仲介手数料を稼ぐことに前のめりになっていること、そして緩和的な金融政策である。先月、トランプ政権は「 AI 行動計画( AI Action Plan )」を発表した。目的は、新技術の導入の障壁を取り除き、各州が厄介な AI 規制法を導入することを阻止することにある。一方、連邦準備制度理事会( FRB )は来月に利下げを準備している模様である。これが市場にさらなる押し上げ効果をもたらす可能性がある。

 しかし、現在と 1990 年代の間には重大な違いがいくつかある。その 1 つは、もはや AI やネット関連の新規ビジネスは、挑戦心に富んだ個人が何もない地平に天に届くような城を築こうとするような企てではなくなったことである。築かなければならないのは独占資本主義下の要塞であるが、既に巨大テック企業( Big Tech )が地平線の強固な支配を確立している。ドットコムバブルの時代、あるいは少なくともその初期段階では、小規模なスタートアップ企業が先行者利益を享受し、早期に事業を拡大して永続的な事業基盤を築くことが十分に期待できた。現在、多くの AI 関連企業が大競争を繰り広げているわけだが、大規模 AI モデルを構築・維持する余裕があり、市場支配力と財政力を笠に着て潜在的な競合企業を排除、あるいは買収できる少数のトップ企業だけが莫大な利益を得る可能性が高まっている。強硬な反トラスト政策を志向すれば、おそらくこのような事態を阻止できるであろう。しかし、ウォール・ストリート・ジャーナル( the Wall Street Journal )が先週報じているように、トランプ政権が表向きはそのような政策を推進すると公約しているのだが、大統領と密接な関係を持つロビイストや実力者たちによってその公約は脅かされている。もし、多くの投資家が AI 主導型経済の未来は独占状態( monopoly )になると判断すれば、株式市場では既存の巨大企業にさらなる利益がもたらされる可能性が高くなる。そこは、無数の多種多様な企業が潤ったドットコムバブルと違う点である。

 とはいえ、確かなことなど何も無く、そうなると決まっているわけでもない。AI ブームはまだ大規模言語モデルの学習、データセンターの構築など、インフラ構築の段階にある。AI アプリケーションはようやくアメリカ全体に普及し始めたレベルであり、この技術がどれほど変革的で収益性が高いものになるのか、現時点では確かなことは誰にもわからない。このような環境下で、多くの投資家がゴールドラッシュ時にもてはやされた古臭い戦略を採用している。重機メーカーや大手鉱山所有者を買収するような戦略である。しかし、歴史を見れば明らかであるが、この戦略はそれほどリスクフリーではない。世界中の投資家が利用するオンライン投資コミュニティのシーキング・アルファ( Seeking Alpha )に、KCI Research と名乗るアナリストが投稿した興味深いアナリストレポートがある。エヌビディアを 1998 年から 1999 年にかけて株価が急騰した企業の 1 つであるシスコシステムズ( Cisco Systems )と比較している。エヌビディアの GPU ( graphics-processing units:グラフィックス・プロセッシング・ユニット)が AI インフラの必須コンポーネントとして広く認識されているのと同様に、シスコシステムズのルーターやその他のネットワーク機器もインターネット構築に不可欠なコンポーネントと見なされていた。少なくとも当時はそれらの需要は事実上無限であると思われていた。エヌビディアと同様に、シスコシステムズは革新的で非常に収益性の高い企業であった。しかし、2000 年 4 月には株価が 40% 近く下落し、1 年後には約 80% 下落した。それから四半世紀が経った今でも 2000 年初頭につけた高値まで回復していない。最近になってようやくそれに近づいている状況である。

 エヌビディアとシスコシステムズとの比較は有益である。ウォーレン・バフェット( Warren Buffett )の師で、先駆的な株式アナリスト、経済学者、プロの投資家でもあったベンジャミン・グレアム( Benjamin Graham )の格言を思い出させてくれる。「株式市場は短期的には投票機だが、長期的には企業が生み出すキャッシュフローを計量する計量機である( In the short run, the stock market is a voting machine, but in the long run it is a weighing machine that weighs the cash flows that companies generate. )」というものである。皮肉なことにエヌビディアとシスコシステムズの比較で意図せずして示されたことがある。短期的な動きが永遠に続くわけではないことを暗示しているし、また、その終わりを予測することが非常に危険であるかも示している。このアナリストレポートは昨年 2 月に投稿されたものである。それ以来、エヌビディアの株価はさらに 150% も上昇している。♦

以上