3.
チャールズ・スワントンの研究室は、キングス・クロス( King’s Cross )近くのフランシス・クリック研究所( Francis Crick Institute )内にある。サンフランシスコにあるバルメインの研究センターと同様、この建物には巨大なアトリウムがあり、ガラスの壁、いくつものエレベーターと連絡通路が設けられている。2 つの癌研究施設は、まるでクローンのようであった。
偶然にも、スワントンが研究しているのはクローンであった。癌生物学においてクローン( clone )とは、遺伝的に同一である個体や細胞(の集合)を指し、体細胞クローンは無性生殖により発生する。細胞の大家族のようなものである。曾祖父、その子供たち(祖父母等)、その子供たち(父母等)、その子供たち(自分や兄弟等)からなる大家族を想像してもらいたい。それらの中には、ランダムに起こる細胞分裂によって独自の突然変異を獲得した個体があることもある。それらはサブクローン( subclone )と呼ばれる。しかし、その集団は、クローン的に関連している( clonally related )。つまり、それらすべてを結び付ける遺伝系統( genetic lineage )が存在している。
針金のように細いが、スワントンはアスリートらしい身体をしている。余分なものをすべて取り除いたかのようである。頭髪も無い。しかし、筋骨隆々としていて屈強そうである。過去 10 年間にわたって行われた彼の独創的な研究は、腫瘍が成長する際のヒトの癌細胞のクローンの状況に注目したものであった。彼の説明によれば、癌はクローン間の競合( clonal competition )に影響して発癌過程を開始するという。癌が進行する際に、どのクローンが優勢になるのか? 彼の研究は、癌の進行に関する詳細を明らかにした。1 センチの腫瘍には、約 1 億個の細胞が含まれている。「これらの 1 億個の細胞は、すべて 1 つの細胞の子孫である。つまり、それらはクローン的に関連している。」と、スワントンは説明した。「しかし、腫瘍が進行する時点では、既に無数のさまざまなクローンが含まれている」。
これが癌のゾッとするような二重性である。個々の癌細胞は単一の細胞から発生したものであるが、それぞれの癌細胞には時間と空間の中で進化する数千個のクローンが含まれている。癌を治療または治癒するには、この信じられないほどの遺伝的多様性に対処する必要がある。それは、クローンとの戦いである。そして臨床現場では、敢然と戦いが続けられている。抗癌療法が施される。しかし、それに対する耐性を与える突然変異が生じたクローンが増殖する。それが、転移( metastases )を促進する。「常に全てのクローンに先回りして対処することは、不可能である。」とスワントンは言った。また、重要なのはそもそも腫瘍の形成を防ぐ努力であると強調した。
2019 年 6 月、スワントンは癌のクローン進化( clonal evolution )について講演するため韓国に飛んだ。時差ぼけで疲れきっていて、少々眠かったものの彼は講演を無事に終えた。それから、懇親会に参加した。それはルーチンのようなもので、とりあえず出席して、軽くおしゃべりして、ワインを一杯飲んで、軽く何か食べたら、部屋に戻って寝るつもりだった。
1 人の若い台湾の医師が彼に話しかけてきた。彼はスワントンが肺癌の突然変異について話すのを注意深く聞いていた。彼は、スワントンに 1 枚の地図を見せた。地球全体の微粒子による大気汚染状況が示されていた。次にもう 1 枚の地図を見せた。非喫煙者の肺癌の発生率が示されていた。「少し目が覚めたような気がした。」とスワントンは言った。顕著な相関関係が見られるエリアがあった。「中国南部、台湾、香港の南部と北部では、この 2 つの現象が重なっているように見えた」。
それは謎であった。これまでのところ、大気汚染に顕著な変異原性があることは示されていない。浮遊微小粒子状物質( tiny airborne particulate matter )は、そのサイズ( 2.5 マイクロメートル以下。2.5 マイクロメートルは人間の髪の毛の幅の約 30 分の 1)から PM2.5 とも呼ばれる。それは、肺の細い気道に入り込む。しかし、この物質は DNA に検出可能なほどの損傷を与えるわけではない。ひょっとすると、PM2.5 は潜在的な突然変異原であるかもしれないが、変異を引き起こすほど十分な濃度ではないのかもしれない。スワントンは、大気汚染と非喫煙者の肺癌との相関関係の根底にあるものは何なのか疑問に思った。
ロンドンに戻ったスワントンは、この件に関する調査・分析を 3 人の研究者に任せた。ウィリアム・ヒル( William Hill )とエミリア・リム( Emilia Lim )とクレア・ウィーデン( Clare Weeden )である。ヒルはランニング愛好家のウェールズ人であった。リムは陽気なカナダ人であった。彼女のシンガポール人の祖母は一度も喫煙したことがなかったが、肺癌で亡くなっていた。ウィーデンは探偵小説が大好きなオーストラリア人であった。喫煙経験が無い人に肺癌が発生する場合、悪性細胞の EGFR 遺伝子に変異が見られることがしばしばある(訳者注:EGFR 遺伝子とは、必要に応じて上皮細胞の増殖を促す上皮成長因子受容体タンパク質をコードする遺伝子)。リムは、疫学者の研究チームと協力し、英国、韓国、台湾の各種データを使用して、大気汚染と EGFR 遺伝子に変異がある肺癌との関連性を調査した。彼女は、これら 3 カ国のいずれにおいても、大気汚染レベルが高いほど、EGFR 遺伝子に変異がある肺癌の発生率が高いことを発見した。UK バイオバンク( the U.K. Biobank )は約 50 万人の被験者の健康状態を追跡している(バイオバンクとは、血液や組織などの試料(検体)とそれに付随する診療情報などを保管し、医学研究に活用する仕組みのことである。UK バイオバンクは、イギリスで長期にわたって大規模な研究を続けている)。UK バイオバンクが蓄積してきたデータが、追加データを生成し、大気汚染と非喫煙者の肺癌との関連性を確認するのに役立った。
曇った日の朝、私はフランシス・クリック研究所でヒルとウィーデンに会った。リムがいなかったのは、カナダに新しい研究施設を設立したからである。時刻は午前 11 時過ぎであった。研究所は活気に満ちていた。ヒルは私を研究室のベンチまで連れて行ってくれた。そこには、いくつもの箱が不安定に積み上げられていた。それぞれの箱には、スライスした組織が入った数十枚のスライドガラスが入っていた。それは、映画” Howards End (邦題:ハワーズ・エンド)”で本棚が哀れなレナード・バスト( Leonard Bast )に倒れた場面を彷彿とさせた。
ヒルは引き出しに手を伸ばし、石炭のように黒いスラッジが詰まった小瓶を取り出した。「これは粉塵( dust )と煤( soot )の浮遊粒子の溶液である。」と彼は説明した。「それは大気汚染を水に溶かしたようなものである」。
私は、小瓶が振られ、粒子が上昇したり沈降したりするのを観察した。それは、まるで私のニューヨークの部屋の窓枠に溜まった汚れを集めてスノーグローブ( snow globe )を作ったかのようだった。(訳者注:スノーグローブとは、球形やドーム形の透明な容器の中を水やグリセリンなどの透明な液体で満たし、人形・建物などのミニチュアと、雪に見立てたもの等を入れ、動かすことで雪が降っている風景をつくる物。日本ではスノードームとも言う)
「気をつけてください。」とヒルは言った。「これはアメリカ国立標準技術研究所( the National Institute of Standards and Technology )が売っているもので、この液体には大気に汚染された都市から収集した規定の組成の粒子が含まれている。1 ボトル当たり約1,500ポンドの費用がかかっている。恐ろしいほど高価な煤である」。
ヒル、リム、ウィーデンの 3 人は、化学的トリガーによって作動する変異型 EGFR 遺伝子を持つように遺伝子操作されたマウスを使った実験を開始していた。3 人がマウスの肺細胞内の癌関連遺伝子を活性化したところ、マウスにはまばらの腫瘍が発生した。それは、悪性腫瘍になる可能性が少なからずあるものであった。「次に、もっと難度の高い実験を進めた。」とヒルは言った。3 人は、多くのマウスの肺に大気汚染を溶かした薄黒い液体を注入した。マウスの群ごとに注入する用量を変えた。10 週間後、マウスを検査したところ、驚くべきデータが得られた。大気汚染の液体の用量が増加するにつれて、肺腫瘍が発生する頻度も増加した。最高用量 (つまり、注入された浮遊粒子が最も多い) の群では、肺腫瘍の数がほぼ 10 倍増加した。
どういうメカニズムだったのか?ヒル、リム、ウィーデンの 3 人は遺伝子配列解明技術( gene sequencing )を使用して、何もしなかったマウスに発生した腫瘍と PM2.5 を注入したマウスの腫瘍を比較した。いずれの腫瘍でも、意図的に活性化された EGFR 遺伝子の変異が確認された。また、いずれにおいても、予想通りではあるが、自然発生的に生じた追加の変異がいくつか確認された。
しかし、彼らが解明できなかったこともあった。解明できなかったことが重要であるのは明らかだった。「比較対象となる何もしなかったマウスの突然変異数と、PM2.5 を注入したマウスの突然変異数との間には有意な差は無かった。」とヒルは言った。PM2.5 を大量に注入されたマウスの腫瘍数が 10 倍に増加した原因が何であれ、癌細胞内に新たな変異を生み出したわけではない。ヒルたちは、注入した大気汚染物質は癌細胞の外側や周辺に影響を及ぼしたと推測した。「そこで私たちはマウスの組織を分析することにした。腫瘍を切り出し、それをスライス状にして顕微鏡で観察した。」とヒルは言った。大気汚染物質を注入されたマウスの肺は炎症細胞で満たされていることが判明した。
ヒルは私を机の上の顕微鏡の前まで連れて行った。この施設には強力な顕微鏡が数十台あったが、それは中学校の理科室にあるような平凡なものであった。私はレンズを通してマウスの肺の非常に薄い切片を観察した。「これは、大気汚染物質を最も多く注入したマウスの内の 1 匹から採ったものである。」とヒルは私に言った。スライドガラスの中央には、いびつな形の悪性細胞が詰まった円盤状の肺腫瘍があった。しかし、その腫瘍は沸き立つ炎症の海の上を漂う筏のようだった。ヒルたちの分析により、炎症細胞の詳細が明らかにされた。彼らは、特定の種類のマクロファージ( macrophage )を発見していた。マクロファージは、直径 15 ~ 20μm の比較的大きな細胞で、全身の組織に広く分布しており、自然免疫(生まれつき持っている防御機構)において重要な役割を担っている。マクロは「大量に」、ファージは「食べる」という意味で、異質粒子( foreign particles )を大量に食べることからそう名付けられたのである。特定のマクロファージが、強力な炎症シグナル( inflammatory signal )であるインターロイキン -1β ( interleukin-1 beta:略号 IL-1β )
を排出することで免疫反応を活性化させることが明らかにされた。インターロイキン -1β が抗体でブロックされると、大気汚染物資への曝露の影響は減弱された。そして、ヒルとリムとウィーデンが免疫不全のマウスを使って実験を再実行したところ、大気汚染物質の影響は消失した。特定のマクロファージとそれが出す炎症シグナルが、何らかの形で腫瘍の発生を促進していたのである。
「しかし、逆に謎は深まるばかりであった。」とウィーデンは言った。私たちは 2 階の研究室から 1 階のロビーに置かれたソファに移動した。ウィーデンは、そこでベビーカーの中で眠っている生後 4 カ月の娘を見守ることができた。娘は、クラッキーというアヒルのキャラクターのぬいぐるみと一緒に眠っていた。赤ちゃんが目を覚まさないように、私たちは静かに話した。「彼女が動くと、クラッキーは鳴き声をあげる。そしたら娘は目を覚ます。」とウィーデンは言った。「彼女が目覚めたら、すべては終わってしまう」。
ヒルとリムとウィーデンを当惑させたのは、肺癌の疫学的な側面であった。もし PM2.5 が突然変異原ではなく、単に元々存在していた変異細胞の増殖を覚醒させただけだとしたら、その変異細胞はどこから来たものなのか? ウィーデンは身振りで眠っている子供の真似をしながら、静かに話し続けた。声をひそめて話し合っていたので、知らない者が見たら謀議を図っているように見えたかもしれない。私たちは古い旧来の理論を追い落とさなければならなかった。「なんか不思議な感じがするわ?」と彼女は言った。「ほぼ 4 年間、私たちは遺伝学の研究室に部外者として加わって、他の皆が遺伝子配列を解読してクローンを探している間も汚染されたスラッジの研究に取り組んできた。そして今、状況が大きく変わってしまった。私たちはクローンを探している。部外者のような立場だった私たちが遺伝学の王道中の王道に戻って、突然変異体のクローンを探すことになった」。エレベーターが少し大きな音を出した。ありがたいことに、赤ちゃんは眠り続けていた。
元々あった変異細胞が PM2.5 に曝露される前から存在していたなら、稀なクローンを追跡するために数十年かけて開発された遺伝子分析手法を使ってそれらの細胞を見つけられたはずである。そこでヒルらの研究チームは、多数の被験者から採取した正常な肺組織の一部を検査した。最先端のディープシークエンシング法( deep sequencing method )を採用した。それは、ゲノム領域を何回も、時には何百回、何千回もシーケンス( DNA 配列解読)する手法である。高い精度を実現するために、何千もの DNA 鎖を何千回も分析し解析した。EGFR 遺伝子が変異した細胞は、かなり少数であるが発見された。研究チームは、EGFR 遺伝子が変異した細胞の発生率はおよそ 50 万個に 1 個であると計算した。発生するのは極めて稀なように思えるが、決してそんなことはない。肺細胞の数が数兆個にも達する可能性があることを考慮しなければならない。EGFR 遺伝子が変異した細胞は、適切な環境が整えば癌化する性質がある。
ヒルとリムとウィーデンは、組織内で休眠状態にある潜在的な癌細胞を発見した唯一の研究者ではない。2015 年、ある研究チームが日常的に紫外線にさらされる皮膚領域である瞼の細胞を研究していた。この研究で使われた組織は、”まぶたリフト手術( eyelid lift surgery:まぶたの垂れ下がりや腫れに対処し若々しく見せる手術)”を受けた患者から採取したものであった。調べた細胞のおよそ 5 分の 1 から 3 分の 1 が皮膚癌を引き起こす変異を有しており、これらの変異のいくつかを有するクローンが増殖しており、正の選択( positive selection:適度に自己と反応できるような T 細胞を選ぶ過程 )を示唆していた。しかし、組織を採取された者の中には明らかに皮膚癌を患っている者は 1 人もいなかった。この研究は、健康な人が潜在的に癌性のクローンを保有している可能性があることを示唆していた。
「それが答えである。」と、後で話した時にスワントンは言った。いささか激しい口調だった。「最も単純な説明は、喫煙しない者も喫煙する者も、元々肺に変異細胞を持っているということである。ただし、頻度としては非常に稀である。大気汚染によって引き起こされる癌の場合、PM2.5 (微小粒子状物質)が免疫細胞を活性化して炎症環境を作り出す」。そして、変異細胞は、煤によって炎症が引き起こされた辺りを住処にしようとする。
スワントンのモデルは、発癌の標準モデルとは一線を画している。このモデルでは、腫瘍は突然変異によって突然変異を進化させることはない(ただし、腫瘍が成長するにつれて、さらなる突然変異が蓄積する可能性はある)。変異体のクローンは元から存在しており、潜伏細胞( sleeper cells:スリーパーセルと称されることもある)の状態で活性化されるのを待っているのである。
「では、なぜ私たちは癌に侵されていないのか?」私はバルメインに聞いた説明を思い出しながらスワントンに尋ねた。私は数カ月前に小さな手術を受けたのだが、外科医は私の皮膚に医療用ステープルを 9 本残した。なぜ 9 個の腫瘍が出来なかったのか?
「不運でなかっただけである。腫瘍が成長するには、悪い条件が積み重ならなければならない。腫瘍になる可能性のある細胞を、悪いタイミングで悪い場所に長期間にわたって留める必要がある。」とスワントンは言った。「遺伝の影響も考えられる。また、一部の変異体クローンの成長を鈍らせたり速めたりする遺伝子と環境の相互作用もあるかもしれない」。発癌現象については、子供の成長と同じことが言える。子供が育つには、氏と育ち( nature and nurture )のいずれもが重要である。発癌現象も同様で、細胞が元々腫瘍になる可能性を有していると同時に適切な環境も必要なのである。
スワントンの研究室が大気汚染と肺癌に関する研究結果を発表した論文は、今年( 2023 年)初めにネイチャー誌( Nature )に掲載された。その論文は次のような不気味な言葉で締めくくられている。「我々が行った研究のデータは、以前から提唱されているように、大気汚染物質と肺癌との間に機械論的( mechanistic )関連があり、因果関係もあるということを示唆するものである。また、腫瘍促進に関する従前の知見を裏付けるものでもあり、都市部における粒子状物質の排出を制限する公衆衛生上の規制を正当化するものである」。大気汚染のリスクがあるエリアに住んでいる人口は非常に多い。「世界の総人口の 99% が、世界保健機関( WHO )が発表した安全基準を超えるレベルの大気汚染にさらされている。」とヒルは言った。喫煙は大気汚染よりも肺癌のリスクをはるかに高める。しかし、大気汚染にさらされる者の数は非常に膨大なので、それぞれがもたらす被害額はほぼ同じになる可能性がある。スワントンは、大気汚染によって引き起こされる肺癌により、毎年 700 万人か 800 万人が死亡していると推定している。
スワントンの大気汚染に関する論文が掲載された号のネイチャー誌の表紙には、スモッグに覆われた私の故郷であるニューデリー( New Delhi )の写真が掲載されていた。この記事を書いている時点、つまり 2023 年 11 月であるが、大気汚染のレベルが人間の居住にとって危険とされる限界に達したため、ニューデリーは部分的に封鎖されている。私は若い頃に見た悲喜劇的な光景を思い出した。インド政府がニューデリーで最も交通量の多い交差点の 1 つに大気汚染計測器を設置した。たくさんの車、バイク、トラックが煙を吐き出しながらその交差点を通過していた。たくさんの工場が灰を含んだ薄黒い空気を大気中に吐き出していた。高速道路沿いの木々が煤で黒くなって幽霊のようなシルエットを見せていた。ある朝、私は顔を上げて大気汚染計測器を見てみた。数字が読めないことに気づいた。計測器前面のガラスは真っ黒だった。煤を測定する装置は煤で見えなくなっていたのだ。
「一握りの疫学者だけが認識している事実をお教えする。」とスワントンは私に言った。1960 年代中頃のことであるが、イギリスの疫学者リチャード・ドール( Richard Doll )とオースティン・ブラッドフォード・ヒル( Austin Bradford Hill )が肺癌の原因を特定しようとしていた時、彼らは主な原因と疑われる候補を 2 つに絞り込んでいた。その 1 つはタバコの煙であった。今でも 2 人はタバコと癌との関連性を初めて明らかにしたとして称賛されている。しかし、スワントンによれば、2 人は論文で、他にも癌と相関関係があるものを列挙していたという。主要な道路、ガス工場、大型化学プラント、石炭火災発電所への近接と癌との間に相関関係があると指摘していたのである。高レベルの大気汚染への曝露が癌の原因になりうることを示唆していたと言える。「当時の生物学者がその原因を調査するツールを持っていたら、癌予防の歴史はもっと違ったものになったに違いない。」とスワントンは思いを巡らせながら言った。