アメリカの謎! インフレ率が下がっているのに、アメリカだけ消費者のセンチメントが改善しないのは何故!? 

和訳全文掲載

Our Columnists

Americans Are Finally Starting to Feel Better About the Economy
アメリカ人の景気に対するセンチメントがやっと改善し始めた。

Consumer sentiment, among Democrats and Republicans, has jumped sharply in the past two months. That’s encouraging news for Joe Biden.
民主党支持者も共和党支持者も関係なく、消費者のセンチメントは過去2カ月で急上昇した。これはジョー・バイデンにとって心強いニュースである。

By John Cassidy January 22, 2024

 ニューハンプシャー州で行われる共和党予備選に世間の注目が集まっている一方で、金融市場に関するニュースではさまざまな指標が示されている。民主党にとって願ってもないような数字であった。金曜日( 1 月 19 日)にミシガン大学が発表した 1 月の消費者信頼態度指数( index of consumer sentiment )は 12 月から 13 ポイント上昇し 78.8 であった。これは、過去 2 年半の最高値である。同指数は過去 2 カ月で 29 ポイント上昇し、これは過去 30 年間で最大の上昇幅である。ミシガン大学の消費者調査ディレクター、ジョアン・シュー( Joanne Hsu )は発表文で、「今月は、年齢、収入、学歴、地域を問わず、センチメントが改善したという幅広いコンセンサスが得られた。」と指摘した。「民主党支持者の信頼感も共和党支持者のそれも、2021 年夏以降で最も高い数字となった」。

 ミシガン大学の消費者信頼態度指数は、約 600 人のサンプルに対する詳細な電話インタビューに基づくものであり、ウォール街が注視している 2 つの消費者のマインド調査の内の 1 つである。もう 1 つは、ニューヨークの民間の非営利調査機関であるコンファレンス・ボード( Conference Board )から、来週発表される消費者信頼感指数( index of consumer confidence )である。先月発表された信頼感指数では、すべての年齢層と所得水準で楽観的な見方が強まっていた。ミシガン大学の調査結果と一致している。

 確かに、ミシガン大学消費者態度指数はまだ新型コロナ前の水準を大きく下回っているものの、現在は過去の平均を約 7 ポイント下回っている水準まで戻っている(ここ数カ月の傾向が続けば、すぐに過去の平均を上回る)。また、ミシガン大学の指数が発表された同じ日に、S&P500 株価指数が史上最高値を更新した。このことは、力強い雇用の伸びとインフレ率の大幅な低下に伴って多くの投資家が今後の景気見通しを楽天的に捉えていることを示すものである。大統領経済諮問委員会委員長であるジャレッド・バーンスタイン( Jared Bernstein )は、消費者態度指数の上昇を受けて声明を出した。「我々にはやるべきことがまだあるが、バイデン大統領は正しい政策を着実に実行しており、多くの国民もそれを感じ始めている」。

 バーンスタインが声明の冒頭で「やるべきことがまだある」と述べて警戒感を解いていない姿勢を見せたのは、バイデン大統領側近が油断するのを戒める意図があったのだろう。実際、バイデン政権の支持率は高くない。リアルクリアポリティクスの世論調査によれば、バイデン大統領の経済政策に対する不支持率は 58.6% に達している。これまでのところ、さまざまな経済指標が景気が改善していることを示し、消費者のセンチメントが高まっているにも関わらず、世論調査でバイデンの支持率が上向く兆候はほとんど現れていない。しかし、大統領選投票日の 11 月 5 日まで、まだ 9 カ月半近くある。民主党幹部はその日までにこうした状況が変わることを期待している。可能性が無いわけではない。明確な根拠がある。少なくとも、消費者のセンチメントが改善していることは、バイデン政権の経済運営に対する多くの国民の見方が既に定まっているという説を覆すものである。

 2022 年夏にインフレ率が 9% に跳ね上がった時、ミシガン大学消費者態度指数は 1978 年に同指数が発表されて以来の最低の水準に急落した。他の多くの国々でも全く同じであるが、アメリカでは 30 年以上にわたって低インフレ率が続いていた。それがいきなり急激に上昇した。ほとんどのアメリカ人は高インフレ率に否定的な反応を示した。生活費が大幅に増え、購買力が低下したわけだから、当然である。現在も物価高は続いていて、消費をためらうことも少なくない。先週発表された英経済誌エコノミスト( Economist )と調査会社ユーガブ( YouGov )による世論調査によれば、回答者の 73% が「インフレ・物価」に非常に関心があるとしていた(あらゆる政策課題の中で最も高い数字であった)。しかし、インフレ率が急激に低下し(先月は 3.4% )、ガソリン価格も国内の多くの地域で 3 ドルを切ったことで、経済に対する悲観的な見方は和らぎつつある。2022 年 6 月時点と比べるとミシガン大学消費者態度指数は 60 ポイント近く上昇している。

 このところ芳しい経済ニュースが相次いでいることを考慮すると、それは驚くべきことではない。驚くべきことは、経済に関する否定的な世論の風向きが変わるまでに、非常に時間がかかっていることである。ここ 1 年ほど多くのアナリストが説明がつかないとして頭を悩ませてきた。なぜならば、昨年の夏以降でインフレ率が急激に低下し、GDP も着実に成長し、賃金は物価を上回るペースで上昇しているにもかかわらず、経済に対する国民のセンチメントがネガティブなままだからである。エコノミストとユーガブの世論調査結果を見る限り、インフレへの関心が高いことが消費者のセンチメントを冷やしているようである。しかし先月、フィナンシャルタイムズ紙( the Financial Times )の統計チーム責任者であるジョン・バーン=マードック( John Burn-Murdoch )は、イギリス、フランス、ドイツも消費者物価が大きく上昇したが、それらの国の消費者はアメリカ人ほど悲観的ではなかったと指摘した。「ヨーロッパ各国の消費者は自国の経済状況を正しく認識しており、既にセンチメントは大きく改善している。」とバーン=マードックは記している。「アメリカの消費者は過剰に悲観しすぎている。アメリカ人の新たな傾向である」。

 アメリカの消費者が景気が良いのにネガティブなセンチメントから抜け出せない理由については、多くの議論がある。評論家の中には、メディアの否定的な報道が原因であると非難する者もいる。2022 年から2023 年にかけて、景気後退局面に陥る可能性に関する報道が数え切れないほどあった。報道機関や記者の名誉のために申し添えると、決して彼らが誤ったわけではない。そうした報道は景気後退が差し迫っているというエコノミストの誤ったコンセンサスを反映したものであった。また、バーン=マードックが指摘しているのだが、以前と違ってアメリカでは誰もが民主党支持か共和党支持かを意識することが多くなっているという。それで、世論調査の際に、実際の経験に基づいて答えるのではなく、政治的信条に基づいた回答をしてしまう可能性があるという。しかし、そもそも不一致(景気は問題ないのに、センチメントがネガティブなままであること)は発生していないと指摘する者もいる。実際、インフレ率は下がっているが、卵や自動車などさまざまな商品の価格は、新型コロナパンデミック前よりはるかに高くなっている。住宅ローン金利も高いままである。

 以上のような議論があるわけだが、民主、共和両党の政策立案者は今後数カ月間、ミシガン大学やコンファレンス・ボードが出す指数を注意深く観察し続けるだろう。過去の大統領選の結果を分析し、それが現職大統領の再選にどう影響するか見極めようとするであろう。1992 年の前半は、1991 年後半に大きく下落していたミシガン大学消費者態度指数が回復していた。しかし、7 月から 10 月にかけて再び下落した。その結果、現職のジョージ・H・W・ブッシュは大統領選で敗北を喫した。2012 年の大統領選前の状況についても記す。指数は、2011 年は夏に急落したものの、それ以降は持ち直していた。大統領選前の 12 カ月間を見ると、6 月と 7 月に少し下落した以外は改善していた。それで現職のバラク・オバマが勝利した。バイデンは、望みを叶えてかつて自らが仕えた上司の例に倣うことができるのだろうか。♦

以上