Are Flying Cars Finally Here?
空飛ぶクルマがついに登場？
They have long been a symbol of a future that never came. Now a variety of companies are building them—or something close.
空飛ぶクルマは、決して実現しなかった未来の象徴だった。現在、さまざまな企業がそれを、もしくはそれに近いものを作っている。
By Gideon Lewis-Kraus April 15, 2024
１．
10 年余り前、起業家であり投資家であり右派リバタリアンとして有名なピーター・ティール（ Peter Thiel ）が率いるベンチャーキャピタルのファウンダーズ・ファンド（ Founders Fund ）は、「 What Happened to the Future?（未来に何が起こったのか？）」という文書を発表した。投資についても言及していて、バイオテクノロジー、エネルギー、インターネットを賢い賭けとして推奨していた。世間一般は、ある種の精神論的なものと見なしていた。ティールはフェイスブックの創業時に投資して大金を得たことで有名であるが、彼はアメリカ経済が停滞していると見なしていた。たしかに、月のテラフォーミング（ terraform：惑星地球化）や死の克服（ surmount death ）などでは全く進歩が無かった。大きな成果と言えばアプリ（ apps ）を作ったことくらいであった。彼の文書は、作家 F・T・マリネッティ（ F. T. Marinetti ）が 1909 年に発表した未来派宣言のようなものであった。マリネッティは、イタリアの堕落した博物館文化を捨て去り、鋼鉄の機械がもたらすスピードを崇拝すべきであると提案した。「我々はこれからケンタウロス（ centaur ）の誕生を目撃するのだ！そして、すぐさま最初の天使たちが空を飛翔するのを見ることになる！これまで築き上げてきた城は全て壊すのだ。それらの柱や梁のなんと脆弱なことよ！さあ、行こう！この星の初めての夜明けだ！」。ティールは詩人ではないが、彼の文書はもっとパンチが効いている。「我々は空飛ぶクルマを欲した。それなのに、代わりに手にしたのは 140 文字だ」。
「 Where’s my flying car ？（空飛ぶクルマはどこいった？）」は、シリコンバレーで広まったミームであるが、瞬く間に世界中に広まった。ティールにとって、その元凶の 1 つは規制当局であることは明らかであった。彼は、当時グーグル社の会長であったエリック・シュミット（ Schmidt ）と激しい論戦を交わした。その際に、シュミットのことを「グーグルのプロパガンダ担当として印象的な仕事をしている」と評した。同時に、グーグル社は規制当局の慎重な姿勢に屈していると指摘した。「我々は基本的に、モノの世界に関することはすべて違法としており、唯一許されているのはビットの世界である」とシュミットは言った。エコノミストのタイラー・コーウェン（ Tyler Cowen ）は著書「 The Great Stagnation（邦題：大停滞）」の中でより中立的な評価を下していて、「簡単に手に入る果実はほとんど摘み取られてしまった」のかもしれないと書いている。この不満には意外な味方がいた。人類学者の故デヴィッド・グレーバー（ David Graeber ）は、当時ティールのことを全く知らなかったのだが、「秘密の疑問が我々の上に漂っている。失望感しかない。子供の頃に与えられた、大人になる頃にはこうなるだろうという約束は何も実現していない。」と書いている。その疑問とは何か？ 「それは、空飛ぶクルマはどこにいってしまったかということである。力場（ force fields ）もトラクタービーム（ tractor beams ）もテレポーテーションポッド（ teleportation pods ）も反重力そり（ antigravity sleds ）もトライコーダー（ tricorders ）も不死の薬（ immortality drugs ）も火星移住（ colonies on Mars ）も何一つ実現していない」。グレーバーは、官僚主義的なリスク回避と、短期的な資本主義的インセンティブのみを重視する企業を非難した。2020 年には著名投資家マーク・アンドリーセン（ Marc Andreessen ）が、空飛ぶクルマがまだないと、いつものように愚痴をこぼした。とっくに出来上がっていなければおかしいと彼は考えている。
シリコンバレーには、空飛ぶクルマがいつまで経っても出来上がらないことを嘆く者が少なくない。一方で、空飛ぶクルマの開発に黙々と勤しんでいる者もいる。実際に空飛ぶクルマとは言わないまでも、少なくともそれに近いものを作っている企業がいくつかある。ファウンダーズ・ファンドの文書が公表されてからわずか 3 カ月後、カナダの発明家マーカス・レング（ Marcus Leng ）がオンタリオ湖の北にある彼の自宅敷地内に数人の隣人や友人を招いた。レングは 50 代前半で、白髪交じりのザラザラした髪をマッシュルームカットにしている。彼は招待した者たちに、乗ってきた車を一列に駐車し、その後ろに隠れるように指示した。彼はヘルメットを被って、地下作業室で作ったと思しき装置に乗り込んだ。狭い一人乗りのシャーシには前後に 1 枚ずつ、合わせて ２ 枚の固定翼が付けられていた。それぞれに 4 枚の小さなプロペラが備わっていた。まるでシャチの赤ちゃんに 2 台の除雪車をくっつけたような、スマートでありながら不格好なものだった。招待客たちは、良い例えが思いつかなかったため UFO のようだと表現した。レングはそれに「 BlackFry（ブラックフライ）」という名前を付けていた。
レングは 10 代の頃から飛行機に乗っていた。彼は、パイロット免許が不要でどこでも離着陸できるパーフェクト・エアクラフト（ perfect aircraft ）を完成させることを長い間夢見てきた。彼は過去の様々な空飛ぶクルマのデザイン案を研究したことがあった。いずれも推進システムが重すぎるように思えた。また、複雑過ぎるし、レスポンスも鈍く思えた。しかし、この日の数年前のことだが、彼は、フルサイズのリモコン飛行機の性能が格段に高まっていることに気付いた。ホバリングするのに十分なパワーを持ち、正確にコントロールできるようになっていたのである。とはいえ、人を乗せるとなると話は別である。先日、彼は私に言った、「普通の航空機には冗長性がまったく組み込まれていない。基本的には、一箇所で発生した不具合が機体全体の故障を意味する。根本的に安全ではないのである」。彼のデモンストレーションでは、ブラックフライのプロペラがキーンという音とともに作動し、次にゴロゴロという音を出しながら機体は地上約 1 メートルあたりをホバリングした。招待者たちに機体がよく見えるよう、彼は前方に進むように操縦した。彼はスキーヤーが横滑りしながら停止するのと同じイメージで機体を停めるつもりであった。しかし、機体を傾けてターンを始めた時、片方の固定翼の先端を芝生に引っかけてしまった。「これはうまくいかないなと思ったさ。」と彼は言った。しかし、機体は何とか安定を保ち、芝生に 30 フィート（ 9 メートル）のカーブした溝を掘った後に静止した。飛行時間は約 20 秒であった。誰もが知る限り、これは「電動式垂直離着陸機（ electric vertical takeoff and landing vehicle ）」、略して eVTOL (イーヴィートルと発音する）での初の有人飛行であった。
現在、次世代エアモビリティ（ advanced air mobility ）の開発を目指しているスタートアップ企業は 400 社を超える。この用語は、空飛ぶクルマのようなものだけでなく、より伝統的な外観の飛行機まであらゆるものをカバーするものであるが、一般的にはイーヴィトル（ eVTOL ）を意味することが多い。それは、ほとんどの場合、自動車というよりもヘリコプターと飛行機を合体させたものに似ていることが多い。公道上を走ることはできない。ホバリング機能があり、自動車のように手間がかからず気軽にどこにでも行ける柔軟性を備えた電動航空機と表現するのが良いかもしれない。中には一人乗りのおもちゃもある。スウェーデンのジェットソン・ワン（ Jetson One ）社が開発した機体は、小さな流線型の操縦室を備え、ルーク・スカイウォーカーが X ウィング（ X-wing ）を駆るような感じで操縦することができる。自動飛行する機体もある。 中国の億航智能（ EHang ）は、クアッドコプター型の自律飛行型乗用ドローンを開発している。ちなみに、社名の億航智能は幽霊インテリジェント空中ロボットを意味する。最初に広く普及するのは、エアタクシー（ air taxis ）であろう。最初はパイロットが付き、その後はパイロット無しで、近距離のバーティポート（ vertiports：垂直離着陸用飛行場）間で乗客を運ぶことになるだろう。MIT の航空工学博士過程に在籍するマシュー・クラーク（ Matthew Clarke ）は、「最良のシナリオでは、2 年後に認証され、その 2〜3 年後に実際に運行することになるだろう」と言う。2028 年のロサンゼルスオリンピックでは、選手村から競技場まで選手を空から運ぶことになるかもしれない。一般市民、あるいは少なくとも勇気のある市民は 10 年後までにはこのようなサービスを利用できるようになるかもしれない。ある企業は、マンハッタンから空港まで 7 分で到着することを約束し、セキュリティゲートを通過せずに他の航空機と乗り換えられるようにすることを目指している。サービスの価格は最終的にはライドシェアと競合するようになるであろう。この業界の関係者の多くは、安価で持続可能な空中輸送システム、つまりブンブンと音を立てる乗り物が頭上で多くのリボンが複雑に絡み合うように飛び交う未来を思い描いている。
現在、レングが率いるピボタル（ Pivotal ）社は、パロアルト（ Palo Alto ）の湿地帯の端にあるグーグルの本社社屋と NASA リサーチセンターの裏にひっそりと佇む目立たない建物を数棟所有している。先日、同社は個人向けにブラックフライの販売を開始した。それはモンスタートラック並みの大きさだが、重量は 350 ポンド（約 159 キロ）足らずである。今年 1 月にピヴォッタル社の COO であるクリスティナ・メントン（ Kristina Menton ）は、私を同社のトレーニングセンター（見込み客向けの飛行訓練用施設）に迎えてくれた。ロビーには太平洋の岩だらけの海岸線を飛行する同社の機体を映した巨大な CGI が映し出されていた。ショールーム自体も巨大で、そこにはデモ機が 1 台置かれていた。講義室、そして何よりも重要なシミュレーターもあった。初期にテストパイロットを務めたメントンは、私に言った、「 当時は今と違って大変だった。30 秒間の飛行のために何カ月も訓練し、サポート役が 15 人は必要だった。今は、できるだけ多くの人に操縦を覚えてもらいたいと考えている」。また、彼女は付け加えた、「初飛行から戻ってきた人たちは皆、まったく同じ顔をしている。飛べたことに感激している」。
ピボタル社の機体は、連邦航空局（ the Federal Aviation Administration ）の超軽量機（ ultralight ）に関する特別枠の下で許可されている。これは、芝刈り機のエンジンを凧に取り付けて人々の頭上を飛び回ることを連邦政府が阻止するわけにはいかないという現実に対応したものである。超軽量機のパイロットには、いかなる訓練要件も課されない。しかし、ピボタルl社の経営幹部たちは、たった一度の失敗が自社の軌道を回復不可能なものにすることを認識しており、潜在的な顧客には同社のトレーニングセンターで 2 週間のプログラムを修了してもらうようにしている。食事はケータリングされる。
私が到着する前に、ピボタル社の広報担当から電話があった。パイロットの体重制限である 200 ポンド（ 91 キロ）を超えていないか尋ねられた。同社は、1 週間もかからない短縮カリキュラムを開発したばかりで、それを試してみないかと誘ってきた。最後に、1 週間で私が最低限の操作ができるようになって、同社がそれを確認できれば、飛行の許可をもらえるとのことだった。その広報担当が指摘したのは、私が成功する確率は私のビデオゲームへの適性と相関関係があるということだった。私の子供たちはこの試みに乗り気のようだったが、妻はそうでもなかった。
トレーニング設備は歯医者の椅子のようなもので、2 本のジョイスティックとバーチャルリアリティ・ヘッドセットも使う。ピボタル社のソフトウェア開発者が念を押したのは、この設備は実際の機材を完全に再現できているわけではないということである。「あくまでシミュレーションだから、墜落する心配はない。」と彼は言った。実際のブラックフライは非常に繊細で、重大なミスを犯せば、地面に直接叩きつけられることとなる。トレーニングルームの入口で私が躊躇していると、メントンは私を安心させようとした。「シミュレーターは良く出来てるわよ。」と彼女は言った。「それは私が保証するわ。初めての人でも 1 人で操作できるのよ」。