Ukraine Dispatch ウクライナ侵攻開始から1年!悪目立ちするプーチンの無能ぶり!

Comment February 27, 2023 Issue

A Year of Putin’s Wartime Lies
プーチンの嘘が始点の侵攻から1年

Every credible analyst of the invasion of Ukraine has been stunned by the scale of the Russian President’s folly—and his failure extends well beyond the battlefield.
ウクライナ侵攻を分析すると、プーチンの空前絶後の愚かさに驚愕させられます。彼の盛大なやらかしは、征服の失敗だけではないのです。

By David Remnick February 19, 2023

 2022年2月24日、ロシアのウラジミール・プーチン(Vladimir Putin)大統領はウクライナへの侵攻を命じ、無抵抗の隣国に対して彼の軍隊の全力を解き放ちました。また、自国民に向けて盛大にプロパガンダを行いました。彼は自分の将来についてほとんど疑いを持っていませんでした。長年にわたり、彼は世界のマスコミから類まれな狡猾な戦略家として評価されてきました。彼は、自国の市民社会の声を整然と鎮圧すると同時に、クレムリン内の反対意見も封じ込めたのです。

 では、どうしてプーチンはウクライナの首都キエフを素早く制圧することができなかったのでしょうか?ドナルド・トランプ前大統領は特に邪魔をしたわけではありません。トランプは大統領在任中に、NATOの結束に亀裂があることを暴露し、その亀裂を何故か楽しそうに広げていました。ジョー・バイデン政権も特にプーチンの前に立ちはだかったわけではありません。バイデンが大統領に就任後、アメリカ軍は混乱したアフガニスタンからの撤退を余儀なくされ、国内では分断が深まり、海外での軍の行動を控えざるを得ない状況だったからです。ウクライナはほぼ無抵抗でした。ウクライナという国は、絶望的に腐敗が広がっており、元喜劇俳優のヴォロディミル・ゼレンスキーが率いていましたが支持率は30%に満たず、必ずしも一枚岩ではありませんでした。プーチンの事前の見積もりは、侵攻から1週間以内にロシア軍がキエフを制圧し、ゼレンスキーと彼の側近を拘束して、代わりにロシアの代弁者を送り込むというものでした。プーチンは、後世の歴史家が帝政ロシアの復活を祝ってくれることを期待していたのです。

 侵攻開始から1年経ちましたが、プーチンの妄想の影響は甚大で、おびただしい量の血が流れました。死傷者の正確な数は分かりませんが、25万人以上であることは間違いありません。プーチンは自国民に多くの犠牲者が出ても、ましてやウクライナ側に多くの犠牲者が出ても動じることなく、紛争地域に多くの手下を送り込み続けています。まだまだ戦争は続き、犠牲者の数は増え続けるでしょう。プーチンの戦略実行能力は高いのでしょうか?彼は何年も前にクレムリンに君臨して以降、軍の近代化および強化を推し進めてきました。しかし、今回の侵攻を分析したアナリストは一様に驚いています。というのは、プーチンがあまりにも愚かな行動を重ねていたからです。そもそも侵攻の計画自体が杜撰なものでしたし、諜報能力も乏しく、兵員の熟度も低く、兵站も不十分で、軍幹部の訓練も行き届いていませんでした。プーチンの戦略は、非常に低レベルのものであったことが判明しています。この侵攻はそもそも国際法に著しく抵触するもので、学校、病院、集合住宅、発電施設、橋など、民間の建造物を意図的に狙う計画でした。ブチャ(Bucha)、ケルソン(Kherson)、イジュム(Izyum)などでは、ロシア軍や傭兵が拷問を行っていました。その様子はジャーナリストや人権団体によって記録されています。

 1年経って、プーチンは何を達成したのか?この本格的な侵略の本質を見極めるためには、2014年にプーチンが兵を送ってクリミアを占拠し、ドンバスにも侵入したことを思い出す必要があります。当時、彼は長文で時代錯誤的な内容のマニフェストを発表していました。その中で、彼は何年も外国の指導者たちに伝えてきたことを主張しました。すなわちウクライナ国民など存在しないと断言したのです。しかし、プーチンがウクライナに侵攻し、残虐な行為を行ったことで、ウクライナ人の結束はより強まりました。ロシアを憎み、自由で独立したヨーロッパの国家としての未来を作ろうとの思いが、ウクライナの人々を団結させたのです。

 ロシアの政治的宣伝者(プロパガンディスト)は、アメリカの共和党のプロパガンディストと全く同様なのですが、バイデン大統領のことをロシア軍に効果的に抵抗することもできず、まとまった文章を作ることもできない、よぼよぼの老いぼれだと非難しています。しかし、この1年、バイデン大統領は、巧みに脅しと交渉と妥協を使い分けながら、効果的で道徳的で明瞭な外交政策をとってきました。プーチンに侵攻の意志があることが明らかになった後、バイデンは下院の支持をとりつけて、ウクライナに300億ドル近い援助を申し入れ、同国軍に重要な防空システム、移動式多連装ロケットランチャー等を供給しました。そして、直近ではM1エイブラムス戦車の供給も決めました。バイデンは、この紛争でウクライナが敗れることで被る痛手が非常に大きいことを認識し、それを喧伝しています。同時に、ロシアとの直接的な衝突が引き起こされないように細心の注意を払っています。欧州各国も同じような覚悟を持って行動しています。ウクライナ支援に反対しているのは、今のところ主に共和党の右派とそれに付随する報道メディアに限られています。

 プーチンの失敗は、戦況が良くないということだけにとどまりません。プーチンは、ロシアを世界から孤立させてしまいました。ロシアの評判は落ち、経済は不調になり、将来性も棄損しました。何十万人ものロシア人が国外に流出しました。技術、学術、芸術の分野で最も優秀な人材が国外に流出してしまいました。プーチンの最も強力な政敵であるアレクセイ・ナヴァルニー(Alexey Navalny)が収容所に閉じ込められ、独立系メディアは閉鎖されているため、一見するとプーチンは国民からの批判を浴びない体制を構築したように見えます。しかし、不穏な兆候が無いわけではないのです。テレグラム(Telegram)などのソーシャルメディアでプーチンに反抗的な内容が散見されます。この1年間でロシアで最も売れた本の1つが、ジョージ・オーウェルのディストピア小説の「1984」です。侵攻後間もなく、イワノボ(Ivanovo)市の路上でそれを無料配布していた2人が当局によって拘束されました。あまりの売れ行きの良さに、外務省のマリア・ザハロワ(Maria Zakharova)報道官は、この小説がプーチンの支配に似ているという噂を否定せざるを得ませんでした。彼女は言いました、「学校で、オーウェルは全体主義の恐ろしさを描いていると教えられました。しかし、これはあくまで空想の話です。 むしろ、オーウェルが強調したかったは、 自由主義がいかに人類を行き詰まらせるかということです。」と。

 プーチンが侵略を開始して1年となる日は、死者に厳粛な敬意を表し、ウクライナの驚くべき回復力を祝う瞬間となるべきです。プーチンの無分別や過信を祝う瞬間であってはなりません。この戦争は非常に長く続く可能性があります。アメリカの保守系シンクタンクのランド研究所(RAND Corporation)のロシア軍に詳しいダラ・マシコ(Dara Massicot)がフォーリン・アフェアーズ(Foreign Affairs)誌の最新号に書いたように、「ロシア軍は完全に無能なわけでもないし、学習能力が全く無いわけでもない」のです。彼女の記事ではロシアの失敗が巧みに分析されています。しかし、同時に、ロシア軍指導部が巧みに何十万人もの新人を呼び寄せたこと、広大な国土の資源を賢く利用してウクライナに大きな痛手を与えたこと等についても、驚くほど深く掘り下げて説明しています。重要なのは、プーチンがロシア軍に多数の犠牲者が出ていることを全く気にかけていないように見えることです。つい最近も、ウクライナ東部のヴフレダール(Vuhledar)で、ロシア軍のある幹部の説明によれば「射撃場の七面鳥のように」数百人の兵士が殺されたばかりです。プーチンは、この作戦失敗を伝え聞いた際にぞんざいな受け答えをしていました。プーチンは、壊滅状態に陥ったロシアの精鋭部隊である第155海軍歩兵部隊が「あるべき姿」で活動していたとだけ述べました。

 ゼレンスキーとウクライナ国民のこの1年間の行動は、賞賛に値します。彼らは勇気と正義を体現していると言えます。彼らが最も素晴らしかったのは、プーチンの妄想をくい止めたことです。プーチンは、ウクライナは独立国家ではないと言っていました。ウクライナは、それが間違いであることを証明しようとしたのです。オーウェル(George Orwell)が「1984」に書いていました、「世の中には真実もあれば、虚偽もある。全世界を敵に回しても、真実にしがみついているならば、あなたは狂ってはいないのだ。(There was truth and there was untruth, and if you clung to the truth even against the whole world, you were not mad.)」と。♦

以上