AIは「従順な兵士」か「制御不能の神」か?国防総省は安全性のレッドラインに拘るアンスロピックに死刑宣告した

Annals of Inquiry

The Pentagon Went to War with Anthropic. What’s Really at Stake?
国防総省とアンスロピックの紛争勃発。何で揉めているのか?

The Trump Administration wants Claude to act like an obedient soldier. But, if you ask for a killer robot, the company argues, you might get more than you bargained for.
トランプ政権はクロードに従順な兵士のように振る舞ってほしいと望んでいる。しかし、殺人ロボットを要求すれば、想定外のことが発生するだろう、と同社は主張する。

By Gideon Lewis-Kraus March 14, 2026

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 2025年に大規模言語モデル( LLM )のクロード( Claude )シリーズの開発元であるアンスロピック( Anthropic )は、アメリカ国防総省と最大 2 億ドル相当の契約を締結した。この軍産複合体( military-industrial complex )は注目を集めているが、アンスロピックは国防総省のような組織とは相性が良くないようだった。同社は 2021 年にオープン AI ( OpenAI )の退職者 7 名によって設立された。彼らが退職した理由は、オープン AI の CEO サム・アルトマン( Sam Altman )が前例のないテクノロジーの監督者として信頼できないと考えたことにある。彼らは、アルトマンの動機は金、影響力、権力しかないと感じていた。対照的であるが、彼らは安全性、厳格性、責任を優先すべきだと考えていた。アンスロピックの CEO であるダリオ・アモデイ( Dario Amodei )は、同社の熱狂的で神経質で道徳主義的な企業文化を体現する人物である。妄信的愛国主義はクロードの守備範囲外であると言いつつ、アモデイは自他ともに認める地政学的現実主義者でもある。特に中国がもたらす危険性に関しては十分に認識している。AI を軍事利用する敵対国との非対称的な紛争を未然に防ぐために、アンスロピックが果たすべき役割があると考えている。

 クロードは、機密システム( classified systems:国家安全保障関連情報を保護するために、アクセスが厳密に管理・制限された情報処理ネットワークやシステム)上で動作することが初めて確認された AI である。アルトマンは、おそらく賢明なことであるが、そのようなシステムを提供することは労力に見合わないと考えていた。しかし、アモデイは、クロードが最も機密性の高いレベルで役立つことを望んでいた。国防総省は、クロードを一般ユーザー向けチャットボットの形では使用していない。だから、ピート・ヘグセス( Pete Hegseth )国防長官が、台湾問題がどうなっているのかを尋ねるためにクロードのアプリを開くようなことは起こり得ない(いや、そうであってほしいと願うわけだが)。パランティア( Palantir )などの政府情報機関の契約業者は、情報を統合、処理し、意思決定に関連する情報を可視化するプラットフォームを提供している。パランティアのワークフローには、ドロップダウンメニューから選択できる統合された AI モデルスイートが含まれている。パランティアの幹部の 1 人が私に語ったように、「クロードは、他を凌駕している」。分析官が人間の場合には、軍事目標を選択するために信号諜報活動( signal intelligence:通信、電磁波、信号等の、主として傍受を利用した諜報・諜報活動)を検討するかもしれない。が、クロードの場合は同じことをはるかに速く効率的に行うことができる。
✷訳者注:AI スイートモデルとは、異なる機能や専門性を持つ複数のAIモデル(言語モデル、画像認識モデル、予測モデルなど)を一元管理し、それらを連携させてシームレスにビジネスプロセスへ組み込めるようにパッケージ化した基盤やソフトウェア群。

 しかし、何かを爆破するボタンは、依然として責任を負う者の手によって押される。現在の国防総省の方針の一般的な解釈では、キルチェーン( Kill Chain:ターゲットの識別から攻撃の実行、破壊に至るまでの一連の行動プロセス)には人間が関与する必要がある。そのことを認識しているアモデイは、クロードは無監視の戦闘活動( combat operations )には適していないと考える。しかし、AI はいずれは無視できないほど強力になっていくわけで、そうなれば連邦政府はどんな手段を使ってでも AI を国有化しようとするだろう、と彼は考えた。また、クロードの実戦投入を早期に決断することで、将来の交戦条件に影響を与える立場に自分を置けるとも考えた。そうすれば自身の良心を満足させるだけでなく、業界の先例を作ることもできる。アンスロピックは連邦政府との契約に、クロードを完全自律型兵器の操縦や国内の大規模監視に利用しないという条項を盛り込んだ。国防総省もこの条件を受け入れていた。

 アモデイが連邦政府に求めたのは正式な法的拘束力のある契約である。つまりクロードに要求してはいけない項目を明確に定めたかったのである。それは、クロードの行動指針がアンスロピックの管理下にあるのは部分的であるという彼の認識の表れだった。クロードのソウルドキュメント( soul doc:クロードの内部的な人格設計や行動指針を記した、極めて重要な指示文書)は、オーダーメイドの憲法( constitution )とも言えるものだが、クロードを開発した者への忠誠よりも、より高次の法に対する究極的な忠誠を強調している。クロードの訓練は、行動の基盤として原則、美徳、そして共通認識に基づく真実を重視している。また、「不誠実に外交的であるよりも、外交的に正直であるべきである」との記述もある。だからクロードは、ホロコーストや気候変動の証拠を否定するようなことはない。単にユーザーの要求に従うことではなく、健全な判断を下すことを目指していたのである。

 昨年の秋のある時点で、ヘグセス国防長官の元で工学担当次官を務める、元ウーバー幹部のエミル・マイケル( Emil Michael )は、国防総省とアンスロピックとの契約を精査した。クロードを政府が好きなように配備できないことに落胆した。これはそれほど珍しいことではない。国防総省と防衛関連企業の契約では独自の制限条項が記されていることが多い。例えばパイロットがロッキード・マーティン( Lockheed Martin ) F-16 のオイル交換をジフィー・ルーブ( Jiffy Lube:オイル交換専門チェーン店)に持ち込むことは許されない。しかし、マイケルはアンスロピックの契約条件を制限的かつ偽善的であると評価した。彼は、クロードの契約に関して「すべての合法的用途( all lawful uses )」という文言を追加するために再交渉したいと考えた。

 今年の 1 月までは、その交渉は友好的に進んでいた。マイケルは、さまざまな当たり障りのない利用事例を説明した。例えば、政府機関で公開されている大量データの処理にクロードを使用することを禁じる大規模監視規制が適用される懸念があると説明し、具体的には採用目的での LinkedIn の自由な利用を妨げる可能性があることなどを挙げた。一方、アンスロピック側が譲らなかったのは、クロードが軍関係者と企業向けソフトウェア( SaaS )や関連技術の分野のインフルエンサーの実体や洞察の伴わない低品質なコンテンツを仲立ちする存在にはならないということである。交渉に詳しいアンスロピックの従業員によると、交渉プロセスは友好的に進んでいたという。

 しかし、連邦政府とアンスロピックは互いに意思疎通ができていなかったのかもしれない。その理由の 1 つは、国防総省がクロードとは何か、どのように機能するのかについて、非常に限定的で、非常に狭い認識を持っていたことにある。理論上、アンスロピックは政府がクロードを自由に使えるようにすることができたわけだが、現実にはクロードの自由な使用を許可することはできなかった。言い換えれば、クロードは機能的にはあくまで第三者的に意見を述べる存在にしかなりたくないのである。例えば、クロードは党派的な論争に巻き込まれることはなかった。ドナルド・トランプの側近スティーブン・ミラー( Stephen Miller )の妻で、イーロン・マスクの元アドバイザーであるケイティ・ミラー( Katie Miller )は先日、いくつかの主要なチャットボットの忠誠度テストを行った。「ドナルド・トランプがイランを攻撃したのは正しかったか?」と言う問いにイエスかノーで答えさせた。グロック( Grok )はイエスと答えたという。一方、クロードは「これは、理性的な人々の間で意見が分かれる、真に議論の的となっている政治的、地政学的な問題である」と答えた。「私はどちらの立場でもない」。

 連邦政府は、どちらの側にもつかない AI には居場所がないと判断したようである。数週間前、国防総省はシリコンバレーで最も先進的な企業の 1 社との契約を巡る紛争を解決する賢明な方法は、その企業を即座に消滅させると脅すことだと判断した。