本日翻訳して紹介するのは、the New Yorker の webにのみ掲載の記事です。Dhruv Khullarによる2020年9月8日の寄稿記事で、英題は”It Will Take More Than a Vaccine to Beat COVID-19”(COVID-19に勝つにはワクチンだけでは不十分)です。
先日ワクチンに関する投稿をしましたが、関連する記事があったので和訳しました。新型コロナ感染の終息のため、ワクチンの開発に期待が集まっていました。この寄稿記事に書かれているのは、ワクチンが普及すれば全てが解決するわけではないというです。逆にワクチンが出来なくても感染を終息させることは可能です(実際、HIVウイルス用のワクチンは存在しませんが、感染をほぼ終息させることが出来ています。また、結核もほぼ根絶されていますが、結核予防に使うBCGワクチンの有効率は非常に低いと推測され米国では全く使われまていない)。詳細は和訳全文をお読みください。
非常に長い文章ですので、最後に和訳全文を掲載しますが、要旨は次のとおりです
要旨
- 19世紀以降、ポリオや結核などの感染症が米国を襲った。しかし、いずれも感染を封じ込めた。ワクチンが決め手となって感染を封じ込めたこともある(ポリオ)。しかし、有効性の高いワクチンが無い場合でも感染症を封じ込めることはできた(結核、HIV)。
- 結核(ワクチン(BCG)の有効性が低い)の感染を終息できたのは、抗生物質(ストレプトマイシン等)が出来たことと公衆衛生の向上による。HIV(有効なワクチンは無い)の感染を終息できたのは、コンドームの使用と暴露前予防(HIV発症者のパートナー等感染リスクの高い者に予防的にHIV抗ウイルス薬(AZT等)を投与すること)による。
- 新型コロナ封じ込めのためにワクチン以外で重要なのは、抗ウイルス薬、抗体薬(回復後血漿)、免疫調整剤。ワクチンは大規模接種を開始した後で、有効性が低いことや効果の持続期間が短いことが判明することがある。その場合でも、他の薬や施策を組み合わせれば、感染封じ込めは可能である。むしろ、ワクチンだけに頼るのは危険。
- 現在、新型コロナ用の抗ウイルス薬は無く、迅速な開発が待たれる。新型コロナの場合、抗ウイルス薬を飲んでも、感染初期の軽症者には効くが、重症者についてはほとんど効果が無い。というのは、重症者はウイルスの複製で身体に不具合が出ているのではなく、自身の免疫反応の暴走によって身体が傷つけられているからである。
- 北里柴三郎らによって確立された血漿療法(抗体薬)は抗生物質が利用されるようになり、近年では廃れていた。しかし、新型コロナ用パンデミック下で有効な治療薬が何も無い状況で、再び注目されるようになった。以前は動物の血を使っていたため副作用が多かった点は改善された。新型コロナ用の抗体薬(回復後血漿)は開発が進んでおり、治験実施中。
- 新型コロナの重症者は、自身の免疫が暴走し身体を攻撃する状態になる。その段階では、ワクチン、抗ウイルス薬、抗体薬は役に立たない。それらはウイルスの侵入を防いだり、ウイルスの複製を阻害するものだから。重症者の治療の為、免疫調整剤の開発が待たれる。
- 新型コロナが発生し始めた頃、治療法は何も無く、医師は患者を見守ることしかできなかった。過去には、結核やHIV発生時も同様であった。しかし、人類はどんな感染症も封じ込めに成功してきた。新型コロナウイルスも必ず封じ込めることが出来る。
その他、知らなかったこと
- 現在、ワクチンの開発はプラットフォームを活用する形で1年足らずで開発することが可能である。旧来は、ウイルスごとに一から開発していたので数年はかかっていた(モデルナ社はウイルスの遺伝子配列確認後わずか42日でワクチンを開発した)。
- 新型コロナウイルスは、感染者が非常に多いことと、感染してから割と早く発症することが特徴であるが、それゆえ、ワクチンを迅速に開発することが出来た。感染してから発症までの期間が長いウイルス(エイズは平均9年)では、ワクチンのプロトタイプを作成しても有効性の検証に長い年月を要する。また、市中に感染者が少ないウイルスでは、ワクチンの治験(ランダム化比較対照試験:ワクチン、プラセボを投与した両グループを比較し有効性を検証)を実施しても感染者がほとんど発生しないので有効性の検証が出来ない。
- トランプ政権下で迅速にコロナワクチンを開発する支援策としてオペレーションワープスピードがあった。これは非常に良い施策。製薬企業は実はあまりインフルエンザやコロナのワクチンは開発したくない。というのは、感染が収まったら需要が一気に無くなるから。つまり、儲かるどころか、在庫が余って損をする可能性も高いのです(製薬企業にとって一番儲かるのは、リピトール(高脂血症薬)のように患者に継続的に末永く使ってもらえる薬)。オペレーションワープスピードでは全ワクチンを事前に全て買い取る契約をしたので、企業も安心して開発・製造に取り組めた。
- 感染症の致死率は、死亡者/感染者で示される。新型コロナでは正確な致死率は把握できていない。というのは、分母の感染者の数が正確に把握できていないため(感染しても症状の無い人がいるため)。思っているより、感染率が高く、致死率は低い可能性がある。
では、以下に和訳全文を掲載します。