4.”broad spectrum” booster(”広範囲”に免疫力を強化する)ワクチンの開発が待たれる
旧来から存在している特定の感染症に効果があるワクチンを接種して、自然免疫を強化するというのは、なかなか良いアイディアです。特定の感染症の感染を防ぐために設計されたワクチンを使って、他のさまざまな感染症に対する防御力が高まる可能性があります。2016年にニューヨークを拠点とする人権派弁護士ジェイクマール・メノンは、医薬品開発において必要な医薬品の開発に資金が投じられていないという市場の不具合に対処するために、オープンソース・ファーマ基金を設立しました(2018年には、インドのタタ財閥の基金から資金提供を受けた)。その基金の目標の1つは、「超広範囲」ワクチンの開発でした。超広範囲ワクチンは、非常に沢山の感染症に対処する訓練免疫を強化するものです。ネテアは言いました、「そういう意味では、BCGワクチンは理想的なものではありません。というのは、BCGワクチンを接種しても、接種された者の半数くらいにしか訓練免疫が備わらないからです。」と。彼は、次の新たな感染症のパンデミックの発生に備えて、炎症や免疫応答など、自然免疫の異なる機能を強化することが証明されている4〜5種類のワクチンが開発されれば理想的であると考えています。
メノンは、そのようなワクチンが開発されたとしたら、発展途上国においては非常に恩恵が大きいだろうと考えています。1つのワクチンを接種すれば、新しい感染症が発生した際にも、その感染症のウイルスに対する防御力がある程度は高まります。彼は言いました、「実際、そうしたワクチンは既に存在しています。しかも、アジアやアフリカやラテンアメリカの人々が利用できるほど安価です。私は、そうしたワクチンを出来るだけ沢山の人たちに早期に接種することで、パンデミックを収束させることが出来るかもしれないと思います。」と。
もしメノンの研究が終了して、ワクチンを接種することで対象となる感染症以外のウイルスに対しても免疫力が高まることが証明されて、ワクチン接種が広範に行われるようになれば、新型コロナのパンデミックへの対処法も見直す必要があるかもしれません。もしも新型コロナのパンデミックが発生した初期の頃に、それ用のワクチンが開発されるまで、連邦政府が沢山の感染症に対応する訓練免疫を備えさせるワクチンを配布していたら、どうなっていたでしょうか?そうしていれば、新型コロナの感染拡大を防ぐことは出来なかったかもしれませんが、それをゆっくりにさせることは出来たかもしれません。また、最も脆弱な人たちが重症化した件数を減らすことが出来たかもしれません。今年初めに、コーネル大学とオックスフォード大学の研究者が共同で、米国科学アカデミー紀要(米国科学アカデミーが発行する機関誌)に論文を載せていました。その論文は、ワクチンを接種して他の感染症に対する訓練免疫を高めることでパンデミックを防げるか否かを疫学的に検証するものでした。それによると、2020年12月の時点でアメリカの成人の10人に1人に、それほど他の感染症のウイルスに対する訓練免疫を強化する効果の高くないワクチンを接種したとしても、その後の数カ月間で米国の新型コロナの死亡率を15%以上低下させ、8万人の命を救うことができたそうです。新型コロナ用のワクチンが開発されて普及した後でも、訓練免疫を強化するためのワクチンを接種することは、貧しい国の人々を守り、豊かな国の人々の免疫力をさらに高める可能性があります。
ギャロは、新型コロナ用ワクチンができる前に、MMRワクチン(3種混合ワクチン)の接種を受ける手配をしたそうです。そして、その後もそのワクチンを接種し続けているそうです。彼は言いました、「4カ月も5カ月もすると、抗体の量が減るんです。そうすると、私はMMRワクチンを接種するんです。誰かが訓練免疫を強化するワクチンを開発するのを待っている必要はないと思います。」と。彼が言うには、多くのグローバル・ワクチン・ネットワークの幹部たちも同じことをしていたそうです。将来、訓練免疫を強化するワクチンを接種することが、日常的に行われるようになるのでしょうか?毎年冬になったら生ワクチンを接種して、自然免疫を活性化させたいと考えている人もいるでしょう。しかし、そうしようと思ったら、毎年そうしたワクチンを接種しなければなりません。過去に実際にそれをしていた国があります。1960年代から70年代にかけてソ連で行われていたのですが、毎年インフルエンザが流行する前に経口ポリオワクチンが配布されていました。また、ネテアが生まれたルーマニアでも、毎年冬になると13種類の死んだ細菌やウイルスを混ぜた「ポリディン」というワクチンが使われていました。
訓練免疫を強化するためにワクチンを接種することが、日常的になるかどうかは、ギャロらの研究結果次第です。11月に、私はインフルエンザ用ワクチンの接種を受けました。それによって、インフルエンザに罹りにくくなるというだけでなく、経口ポリオワクチンのような生ワクチンに比べれば効果は小さいのですが、訓練免疫を高める効果が期待できると考えたからです。袖を捲りながら、私は注射してくれる人(薬剤師)と話を少しだけしました。インフルエンザ用ワクチンは新型コロナに対してもある程度の予防効果があると、私は言いました。また、それを証明するようなデータがいくつもあることも伝えました。彼女は私に、新型コロナのワクチンを接種したことがあるか質問してきました。おそらく、彼女は、私のことを、過度にワクチンを信奉する変わり者だと思ったでしょう。ワクチンには効果もありますが、副作用や副反応の懸念を持つ人も少なからずいます。中には、新型ワクチンを否定的に捉えている者もいます。接種すると自閉症になるとか、不妊症になるとか、マイクロチップが埋め込まれていると主張する人もいるようですが、全く根拠がありません。しかし、新型コロナワクチンの主目的は、新型コロナに罹りにくくするということですが、それ以外にも副次的な効果があります。それは、訓練免疫が備わるということです。ワクチンを接種するということには、私たちが考えている以上に恩恵が有るのです。
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