Why Won’t America’s Business Leaders Stand Up to Donald Trump?
なぜアメリカのビジネスリーダーは誰もドナルド・トランプに歯向かわないのか?
From Disney’s capitulation on Jimmy Kimmel to tech moguls’ White House dinner, corporate élites are choosing self-preservation over principle.
ディズニーのジミー・キンメルの件での屈服から、ビッグテック企業経営者たちのホワイトハウスでの晩餐会まで、多くの企業経営者は理念よりも自己保身を優先している。
By John Cassidy September 22, 2025
元々わかっていたことだが、ここ数週間でより明らかになったことがある。「ドナルド・トランプ( Donald Trump )は、チャーリー・カーク( Charlie Kirk )の悲劇的な殺害事件を、専制主義的体制には付きものの弾圧の口実にしている」と、ダートマス大学( Dartmouth )で民主主義の崩壊を専門とする政治学者ブレンダン・ナイハン( Brendan Nyhan )が先週私に語った。連邦通信委員会( the Federal Communications Commission )のブレンダン・カー( Brendan Carr )委員長が ABC とその親会社であるディズニー( Disney )に対し深夜トーク番組の人気司会者ジミー・キンメル( Jimmy Kimmel )の降板を求める圧力をかけたことは、トランプ主義的行動( Trumpian initiative )が最も露わになった瞬間である。カー委員長自身は、こうした攻撃はまだ始まったばかりであると明言している。「まだ終わっていない」と CNBC に語り、報道メディア界隈のさらなる変化を示唆した。
もう 1 つ、明確になったことがある。それは、トランプが連邦議会と最高裁の支持が得られる前提で大統領令を乱用し続ける現状が続く限り、アメリカ資本主義下の巨人企業は全く彼に抵抗しそうにないということである。このことは、ABC がキンメルを停職にしただけでなく、アップル( Apple )のティム・クック( Tim Cook )、メタ( Meta )のマーク・ザッカーバーグ( Mark Zuckerberg )、アルファベット( Alphabet )のサンダー・ピチャイ( Sundar Pichai )を含む 20人 以上のテック業界の大物が出席したホワイトハウスでの直近の夕食会でより明らかになった。夕食会では、彼らは代わる代わるトランプを称賛した。大統領の類稀なリーダーシップを称え、感謝の意を表した
トランプ大統領が長らく法人税減税と規制緩和を支持してきたことを考えると、ビッグテック企業の経営者の卑屈さはそれほど驚くべきことではないのかもしれない。しかしながら、第一次トランプ政権時には、時折、批判したり反対運動を起こす企業経営者が出たものである。2017 年夏、シャーロッテビル( Charlottesville )の集会で白人至上主義者( white supremacists )と反対派が衝突した際、トランプが双方に「多くの素晴らしい人々( very fine people )」がいたと発言した。白人至上主義者も擁護したことを受けて、大統領ビジネス諮問委員会( White House business advisory council )では多くの委員が辞任した。委員会は瓦解した。2021 年 1 月 6 日、連邦議会襲撃事件が発生した日には、主要企業トップ 200 社の CEO で構成される財界ロビー団体のビジネス・ラウンドテーブル( the Business Roundtable )は声明を出した。トランプ大統領に対し「混乱に終止符を打ち、平和的な政権移行を促進する」よう求めた。しかし、現在、第 2 次トランプ政権下でいくつかの報道メディアが攻撃に晒されている中でも、アメリカの名だたる企業の経営者たちは、揃いも揃って沈黙を貫いている。
トランプと協調している、あるいは少なくとも過去には同調していた著名な企業経営者の中には、報道メディアのオーナーやそれを実質的に支配している投資家もいる。昨年 12 月には X のオーナーで言論の自由の擁護者( champion of free speech )を自認するイーロン・マスク( Elon Musk )は、X に「旧来のメディアは滅ぶべきである」と投稿している。その翌月には、トランプが再び大統領に就任した直後のことであるが、トランプはオラクル( Oracle )の共同創業者ラリー・エリソン( Larry Ellison )が中国のソーシャルメディアアプリ TikTok のアメリカ事業を買収すべきであると主張した。各種報道によれば、現在、 世界有数の富豪であるエリソンは TikTok 買収を目指すコンソーシアムに参加しているという。一方、エリソンの息子デビッド( David Ellison )が経営するスカイダンス・メディア( Skydance Media )は、CBS を所有するコングロマリットのパラマウント( Paramountg )の買収を先日完了したばかりである。が、次は CNN を所有するワーナー・ブラザース・ディスカバリー( Warner Bros. Discovery )の買収を検討していると言われている。ラリー・エリソンはパラマウント買収時に資金を提供したが、ワーナー・ブラザース・ディスカバリー買収の資金くらいなら余裕で捻り出せる。「最終的には、アメリカの 2 大ソーシャルメディア企業に加えて、CBS ニュースと CNN がトランプ支持者の手に渡ってしまう可能性がある」とブレンダン・ナイハンは指摘する。
この状況は、2010 年にハンガリーでオルバーン・ビクトル( Viktor Orbán)が首相に選出された後に起きたことと似ている。彼は地球上でトランプの次に強権的な権威主義的民族主義者である。「現下の状況を見ていると、トランプはオルバーンが突き進んだのと同じ道を進んでいるようにしか見えない。オルバーンは多くの報道メディアの経営者を脅迫した。経営が成り立たないようにしたり、他に経営する企業の活動を妨害するなどの圧力をかけた。名誉毀損訴訟( libel actions )を起こしまくって報道メディアを苦しめた。また、自分になびかない報道メディアを友人たちに買収させた」と、ブダペスト( Budapest )の 2 つの大学で教鞭を執った経験を持つプリンストン大学( Princeton )の社会学・国際関係学教授、キム・レーン・シェッペレ( Kim Lane Scheppele )は私に宛てたメールで述べている。その後、私は電話でシェッペレと話をした。彼は、オルバーンがしたことをつぶさに教えてくれた。オルバーンは、国営放送局を骨抜きにした。国営放送の政治的中立性を確保することを目的とした国家メディア委員会に自身の盟友を何人も送り込んだ。また、以前は活況を呈していたハンガリーの新聞業界を実質的に支配するようになった。ブダペストだけで少なくとも 9 つの新聞社、出版社を所有するに至った。これを受けて、ハンガリーの指導者は新聞社を上手く使って政治宣伝をしまくった。オルバーンは、新聞社等報道メディアの財政的な命綱を断った。その後、彼の側近連中に新聞社のいくつかを買収させた。ブダペストに残っているリベラル系新聞社は、ほんの数社のみである。いずれも小規模である。これらは、オルバーンが独裁者ではないことの証左となっているわけだが、しかし、首都ブダペストを離れると、どこへ行っても報道メディアは全て親オルバーン派である。
アメリカでは、現時点では事態はまだそこまで深刻化していない。しかし、シェッペレが指摘しているのだが、トランプが中央政府の財政力( financial power )と規制権力( regulatory power )を武器にしている点はオルーバンと全く同じである。復讐心に燃える人物がそれらの力を掌握しいるわけで、そら恐ろしい事態が迫っていると感じざるを得ない。「いくつもの大学が彼に屈服している。それは、トランプ政権が彼らを財政的に破綻させる力を持っていることを認識しているからである」とシェッペレは語る。「それは、法律事務所も同じである。もちろん、メディア企業も同じである」。
ABC がカーク殺害事件後の数語のコメントを理由に深夜トーク番組の出演者を停職処分にする決定を下したわけだが、それ以前からこの業界では現政権に服従の意を示す同様の行動が散見された。昨年 12 月、トランプは ABC の司会者のジョージ・ステファノプロス( George Stephanopoulos )を名誉毀損で訴えた。この司会者は、 E・ジーン・キャロル( E. Jean Carroll:トランプに性的暴行を受けたとして告訴し勝訴している)の判決に関してニュース番組で数語のコメントしただけなのだが、ABC は和解するにあたってドナルド・トランプ大統領図書館( Trump’s Presidential library )に 1,500 万ドルを寄付することに同意した。今年の 7 月には、パラマウントが CBS ニュースの「 60 ミニッツ( 60 Minutes:ドキュメンタリ番組)」の報道内容をめぐってトランプから損害賠償を求める訴訟を起こされた。パラマウントはトランプに 1,600 万ドル支払うことで和解した。同月、CBS は「ザ・レイト・ショー・ウィズ・スティーヴン・コルベア( The Late Show with Stephen Colbert )」を打ち切る計画を発表した。この番組はトランプを頻繁に風刺していた。当時はスカイダンスが CBS の親会社パラマウントの買収を完了させようとしているところだった。それにはトランプが委員長にブレンダン・カーを選任した連邦通信委員会( FCC )の承認が必要だった。
キンメルがチャーリー・カーク殺害についてコメントしたことで、既に多様性に対する取り組みをめぐって FCC の調査を受けていたディズニーは、さらなるプレッシャーにさらされることとなった。先週の水曜日( 9 月 17 日)に、保守系のポッドキャスト番組で、FCC のカー委員長が主張したのは、キンメルの発言は「ディズニーにとって非常に深刻な問題」であり、この芸人が出ている番組を流している各エリアのテレビ局のオーナーは「行動を起こす」べきであるというものであった。その数時間後、ABC ネットワーク系列の 20 以上の地方テレビ局を所有するネクスター・メディア・グループ( Nexstar Media Group )は、全テレビ局でキンメルの番組を無期限で放送中止にすると発表した。この行為を受けて、ABC とディズニー CEO のボブ・アイガー( Bob Iger )は否応なくビジネス上のリスクを強く認識するようになった。ネクスター・メディア・グループには何としてでも FCC に好感を持ってもらいたいという理由があった。同社は競合企業の 1 つの買収を目論んでおり、その取引には FCC の承認が必要だったのである。
私はイェール大学経営大学院( the Yale School of Management )の教授ジェフリー・ソネンフェルド( Jeffrey Sonnenfeld )に電話した。彼は、報道メディア業界に幅広い人脈を持つ。彼によれば、アイガーがキンメルの番組を中止したのはトランプに屈したからではなく、政治には無関心でファミリーフレンドリーという自社のブランドイメージを守ること、さらなる論争を避けることを優先したからであるという。しかし、私はそんな風には考えない。というのは、番組を中止したタイミング、キンメルの番組が 22 年間放送されてきたという事実を考慮すると、やはりアイガーが現政権に服従の意を示したと言わざるを得ない。バラエティ( Variety )誌が報じたところによると、金曜日( 9 月 19 日)にディズニーとキンメルの代理人が放送再開のタイミングについて話し合っていたという。ソネンフェルド教授が指摘するのだが、トランプ政権によるキンメルへの攻撃は、政府機関の力を利用して大統領が自分の敵と見なした者たちへの攻撃をしつつ友人に便宜を図る行為の一部でしかない。「トランプの手法は権威主義的なものであり、常に分断統治を標榜している」とソネンフェルドは語る。
見ての通り、トランプの脅迫戦術の矛先は報道メディア以外にも向けられている。先週、イェール大学経営大学院( Yale School of Management )に多くのアメリカビジネス界の重鎮とされる者たちが集まった。会合は非公開であったが、トランプ政権による恣意的な企業活動への介入について不満を表明した。関税導入、連邦政府によるインテル( Intel )と US スチール( U.S. Steel )の株式取得要求は特に不評である。また、エヌビディア( NVIDIA )に中国で販売する半導体売上の 15% を連邦政府へ上納させる措置も不評である。その会合にも出たソンネンフェルドによれば、多くの企業幹部が警戒感を抱いているという。経営する企業が期せずしてトランプと対立してしまう可能性があり、トランプ政権が強権的に「国家資本主義( state capitalism )」を掲げて混乱を巻き起こす可能性があるからである。
多くの企業経営者が一致団結したら、トランプの威圧的な言動や独裁主義的な傾向に抵抗できるのではないか?しかし、現実的にはそんなことは起こっていないし、起こりそうな雰囲気さえ無い。おそらく、原因は企業経営者のほとんどが利益追求を最優先することにあるのだろう。歴史を振り返ると、主要企業がビジネスを優先し権威主義的な政権に屈服するという事象は太古の昔から幾度となく発生している。それは、ムッソリーニ( Mussolini )統治下のイタリア、ナチス( Nazi )時代のドイツ、ウラジーミル・プーチン( Vladimir Putin’s )が君臨するロシア、現在の中国でも見られることである。しかし、同時にアメリカの多くの主要企業の経営者は、トランプがビジネスの基盤である法や規範を蔑ろにしていることをおそらく十分に認識しているはずである。企業経営者が現政権に屈服している現状に影響を与えている要因がもう 1 つある。それは、アメリカの多くの主要企業の経営者は、トランプ政権の横暴を止めたいという共通の目標を持っているが、同時にお互いに利潤を追求すべく競合しているということである。特にトランプ政権が企業を気まぐれに 1 社ずつ選んで攻撃しようとしている状況下では、多くの企業が協力して集団で行動することは難しい。今年 3 月には、トランプが民主党と関係の深い法律事務所ポール・ワイス( Paul, Weiss )を標的とする大統領令に署名した。その際、ポール・ワイス会長のブラッド・カープ( Brad Karp )は普段は競合している多くの法律事務所も同業のよしみで自社に協力してくれることを期待した。しかし、実際には多くの競合相手が同社の人員や顧客を引き抜こうとした。その後、ポール・ワイスはトランプ政権に屈服して投降を宣言した。その際、物議を醸すことになる合意を結んだ。それはトランプ政権に 4,000 万ドルの無料法律サービスを提供するというものである。
経済学では、上のような状況を「囚人のジレンマ( prisoner’s dilemma )」と呼ぶ。個人、企業、あるいは国家が理論的には互いに協力することで利益を得られることが分かっているが、協力しない者が利益を得る状況では互いに協力しなくなる、というジレンマである。このジレンマについての研究で明らかになっているのは、利己的な行動がいかに容易に全体にとって悪い結果をもたらすかということである。同時に、少しでも損失を被るリスクがチラつき始めると協調戦略を維持することが難しくなることも分かっている。トランプの絶対的命令に完全に従っている企業経営者が何人かいるが、少なくとも今のところは誰も拘束されていないし、監獄送りとなった者もいない。ソネンフェルドが指摘したように、彼らは協力して集団で行動するのが非常に難しい状況に耐えているのである。
どうやったら多くの主要企業経営者に勇敢な行動をとってもらえるのだろうか?どうやったら一致協力してトランプに公然と反旗を翻せるのか? ソネンフェルドとシェッペレは、外部からの圧力が企業経営者の意思決定に影響を与える可能性があるという点で意見が一致する。「トランプは経済戦争を巧みに利用している。ほとんどのアメリカ国民は自分たちに経済面での影響力があることを認識できていない」とシェッペレは述べる。「現在も政権に屈せず真っ当な記事を書いている報道メディアとの契約は継続し、トランプ政権に屈服した報道メディアとの契約は解約する必要がある」。企業経営者がトランプに抗議をする場合に協力することが可能な団体・組織がある、とソネンフェルドは指摘する。「同業だけではなく全ての企業との連携を模索すべきであるし、投資家、年金基金、労働組合、地方自治体などと協力することも可能である」と彼は言う。「とにかく一致団結すべきである」。
ボストン茶会事件( the Boston Tea Party )、今年初めにイーロン・マスクの政府効率化省( DOGE )での仕事ぶりに抗議してテスラ( Tesla )車を売却した人たちを思い浮かべるまでもなく、この国には経済的ボイコット( economic boycotts )の長い歴史がある。それらの中には、効果があったものもあれば、ないものもある。どういう行動をとるべきなのか。例えば、キンメルの番組が放送中止になった件では、一般人はどうするべきなのか。抗議する意志を表明するためにディズニーワールドでの休暇をキャンセルするなどの行動が考えられる。では、アメリカの企業経営者たちが勇気と気概を示すためにはどうするべきなのか。ここは彼ら自身が真剣に考えなければならない。一体、いつになったら行動するのか?時間の猶予など無い状況である。♦
以上
- 1
- 2