DeepSeek ショック!中国の AI がアメリカの AI を凌駕?眉唾な部分もあるが、ちょっと凄くね?

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Is DeepSeek China’s Sputnik Moment?
DeepSeek はスプートニクショックの再来か?

The Chinese company’s low-cost, high-performance A.I. model has shocked Silicon Valley, and a longtime China watcher warns that the West is being leapfrogged in many other industries, too.
中国企業の低コストで高性能な AI モデルはシリコンバレーに衝撃を与えている。長年の中国ウォッチャーが警告しているが、西側諸国は他の多くの業界でも既に追い抜かれている。

By John Cassidy February 3, 2025

 先週、中国の大半が 7 日間閉鎖される春節が始まる直前であったが、中国国営メディアがテック系スタートアップ企業のディープシーク( DeepSeek )を称賛した。同社は低価格で高性能な最新の AI モデル「R1」を発表した。ウォール街のハイテク株は大きく売られた。中国中央電視台( China Central Television )は、DeeoSeek の眼鏡をかけた創業者の梁文峰( Liang Wenfeng )が中国共産党ナンバー 2 の李強( Li Qiang )首相と対談する映像を放映した。その数日前、中国共産党が運営する英字ニュースサイト のチャイナ・デイリー( China Daily )が、AI モデルの訓練に使用される高性能半導体チップのアメリカの輸出規制を無力化したような DeepSeek の成功を「個社の偉業ではなく、むしろ中国の AI エコシステム全体にみなぎる活気を反映したものである」と称賛した。この主張を補強するかのごとく、巳年の初日である水曜日( 1 月 29 日)に中国のテック企業大手のアリババ( Alibaba )が、独自に開発した新しい AI モデルを発表した。同社は、このモデルが「ほぼ全面的に」アメリカ企業の OpenAI や Meta などの競合製品を「上回っている」と主張した。

 現時点ではアリババの主張が正しいか否かが客観的に検証されていないわけだが、DeepSeek の発表を受けてアメリカのテック企業の株価は暴落し、さまざまな議論が巻き起こっている。DeepSeek がどうやって AI 開発を遂行したのかということが話題となっており、AI におけるアメリカのリーダーシップが万全のものでないことが判明した。また、ハイテク関連輸出を制限することで中国のハイテク産業を減速させようとする試みの是非も問われ始めている(この政策はトランプ第 1 次政権もバイデン政権も推進していたものである)。ダボス( Davos )で開催された世界経済フォーラム( World Economic Forum )で、マイクロソフト CEO のサティア・ナデラ( Satya Nadella )は、R1 を「非常に印象的」と評し、「中国の AI 開発の進展を真摯に受け止めるべきである」と主張した。しかしながら、シリコンバレーのほとんどの経営者の反応はそれとは違うものであった。OpenAI は、「 DeepSeek が当社のモデルを不適切に模倣した可能性があるという兆候を調査中」であると述べた。DeepSeek は R1 を開発するために 560 万ドルしか費やしていないと主張している。アメリカで OpenAI と双璧を為す AI 企業のアンスロピック( Anthropic )CEO のダリオ・アモデイ( Dario Amodei )は、「その金額は進行中のコスト削減曲線上の将来の到達点に過ぎない」と指摘し、アメリカ企業もすぐに追いつくと予測している。アモデイは中国企業が「予想されたコスト削減を最初に実現した」ことの意義は大きいと認めているが、DeepSeek の躍進が明らかになったことで「輸出規制政策が 1 週間前よりもさらに存在意義のあるものになった」と主張する。

 さまざまなコメントが溢れているが、DeepSeek のストーリーをどのように見るかは、見る者の視点次第である。太平洋の反対側からの非公式な見解を得るために、私は長年の中国ウォッチャーであり、香港に拠点を置く金融サービス会社ガベカル( Gavekal )の共同設立者のルイ=ヴァンサン・ガブ( Louis-Vincent Gave )と Zoom で通話することにした。50 歳のガブはフランス出身で 1997 年に香港に移り住んだ。イギリスが香港を中国に返還する直前のことである。それ以来香港に住み続け、世界第 2 位の経済大国となり世界最大の輸出国となった中国の目覚ましい変貌を分析している。執筆もしている。アメリカの AI 企業の多くが頼りにしているハイエンド・チップを製造している半導体大手のエヌビディア( Nvidia )の株式時価総額が 1 日で 0.5 兆ドル以上吹き飛んだ月曜日( 1 月 27 日)に、ガブは「スプートニク・ショックの再来( Another Sputnik Moment )」と題したレポートを世界中の顧客に送った。投資銀行、ヘッジファンド、保険会社などである。なお、DeepSeek に関連して「スプートニク・ショック( Sputnik Moment )」という言葉を最初に使ったのは、シリコンバレーのベンチャーキャピタリストのマーク・アンドリーセン( Marc Andreessen )である。中国のコンピューター工学と基礎科学研究力の圧倒的な強さを考慮すると、「中国と技術面で戦うことは、常に近視眼的な戦略に思えた」との記述がガブのレポートにある。ガブは私と話した際に、この主張を繰り返した。中国に輸出規制を課したことは大きな間違いだったという。「なぜなら、それによって中国がアメリカとの競争にいっそう集中するようになったからである」。

 ガブが言及した規制は 2018 年に始まった。トランプ政権が国家安全保障を理由に、中国の通信企業やチップメーカーへの半導体の主要部品の一部の輸出を禁止したのである。バイデン政権はこの規制を数回にわたって強化し、エヌビディア製の最も強力なチップも規制対象になった。トランプ大統領の 2 度目の就任式を 1 週間後に控えた先月、ジーナ・ライモンド( Gina Raimondo )商務長官(当時)は最新の規制を発表する際に「アメリカは現在、AI 開発においても AI チップ設計においても世界をリードしており、その状態を維持することが極めて重要である」と述べた。しかし、その時点では DeepSeek はすでに大規模言語モデル「 V3 」をリリースしており、さらに機能を強化した R1 のリリースを目前にしていた。同社によれば、両モデルともアメリカの輸出禁止措置に抵触しない下位の Nvidia 製チップを使って開発したという。

 「 DeepSeek は規制にもかかわらず R1 を作り出したのか、それとも規制があったからこそ作り出せたのか?」とガブは私に尋ねた。ガブは自らの問いに答えるために、過去の事例を引き合いに出した。第二次世界大戦中に配備されたドイツの戦車ティーガー 1( Tiger 1 )である。アメリカやイギリスの戦車に搭載されたディーゼルエンジンよりもパワーも燃費も劣るガソリンエンジンを搭載していたにもかかわらず、両国の戦車よりも優れた性能を発揮した。「歴史を振り返ると、必要が発明の母であるという例は何百もある」とガブは言った。「あなたが 10 フィート( 3 メートル)の壁を作れば、私は 11 フィート( 3.3 メートル)のはしごを作る。それが中国が行ったことである。それに世界中が驚いているのが現在の状況である」。

 アメリカのハイテク業界にも同様の発言をする者がいる。インテルの元 CEO のパット・ゲルシンガー( Pat Gelsinger )は X への投稿で「エンジニアリングとは制約である。中国の研究者たちはリソースが限られていたため、クリエイティブな解決策を見つけざるを得なかった」と書いている。アメリカの輸出規制の影響下で、DeepSeek は R1 が実行する演算回数を同等モデルよりも少なく制限したと伝えられている。また、中国企業が入手できるチップの演算能力を最大限にする方法を編み出したとも伝えられている。OpenAI の共同設立者であり、テスラの元 AI 開発責任者でもある著名なコンピューター科学者のアンドレイ・カルパシー( Andrej Karpathy )も X に DeepSeek に関する投稿を残している。「 DeepSeek は最先端レベルの大規模言語モデルを冗談のような予算で開発することで簡単に見せている」。

 リソース制約を課すことがイノベーションを促進するという理論が広く受け入れられているわけではない。しかし、さまざまな産業でそれを証明する事例が見られるし、それを支持する科学者も少なくない。2014 年にスイスの製造業者を対象に実施した調査では、この仮説を裏付ける証拠が見つかった。直近でも、12 月に発表されたアメリカのソフトウェア開発スタートアップ企業に関する研究で、ハーバード・ビジネス・スクール( Harvard Business School )とテキサス大学オースティン校( University of Texas at Austin )の 2 人の研究者が発見したことがある。開発の後半まで外部資金を一切受け取らなかった企業は「技術的な実験をより多く行い、重大な技術的な問題に対する斬新な解決策を見出す傾向が強い」という。

 その研究を決定的に証明するものはないし、反論する者も多い。直感的に考えると反論したくなる。というのは、技術的・資金的資源を十分に利用できる方が、不足している状況よりも実験が容易になるからである。しかし、ガブが主張しているのだが、いずれにせよ多くの欧米人が中国企業が単なるコピーをしているだけだと考えており、中国のイノベーションを起こす能力を過小評価し過ぎているという。ガブによれば、こうした中国を過小評価する傾向があらゆる産業で見られるという。原子力( nuclear power )、鉄道( railways )、ソーラーパネル( solar panels )、電気自動車( electric vehicles )などである。実際には、深圳(  Shenzhen )に本社を置く BYD はテスラ( Tesla )を追い抜いており、既に世界最大の EV メーカーになっている。ガブは AI 業界と自動車業界を比較した。「もし OpenAI がなかったら、DeepSeek もなかったという批判をよく聞くが、自動車産業でもまったく同じことが言える」と彼は言った。「テスラがなければ BYD も存在しなかった。たしかにそうである。しかし、 BYD が実際に存在しているという事実を覆すことはできない。BYD はより良いクルマをより安い価格で売りまくっている」。この主張にイーロン・マスク( Elon Musk )は激しく異論を唱えるかもしれないが、BYD などの中国 EV メーカーの台頭に続く Deepseek の突然の登場は厄介な問題をいくつも提起するものである。「これは西側諸国にとって、100%  安全な業界など存在しないという警鐘である」とガブは言った。アメリカの AI 業界では、AI ハードウェアに十分な投資をすれば、大きな堀を築くことができ、永続的に寡占状況を維持することが可能であると信じられてきた。「その神話はもろくも崩れ去った」とガブは付け加えた。

 私は彼に、ワシントンの新政権にどのような政策提言をするのか尋ねた。「私の仕事は、政策立案者に何をすべきかを教えることではない」と彼は答えた。「私の仕事は、率直に実際に起こっていることを伝え、どうすればそこから利益を得られるかを考えさせることである」。それでも、ガブはどのようなアドバイスが適切かを教えてくれた。「まず第一に、中国が今や次々とさまざまな産業で西側を追い抜いているという現実を認めることである」と彼は言った。彼の意見では、中国の成功は、中国のいくつかの基本的な特徴を反映したものであるという。中国の数学系、理科系、工学系の大学卒業者数は、西側トップ 5 カ国合計の 2 倍以上である。また、大規模な国内市場が存在しているし、政府が国内銀行に融資を要請するなどして先進企業に広範な支援を提供している。「中国共産党は、不動産への融資を止めて工業大国になる必要があることを認識している」。

 ガブの主張によれば、中国の戦略はすでに成功しており、DeepSeek の出現は最新かつ最も劇的な証拠であるという。私と会話する際の彼の態度は真剣そのものであったが、辛辣でもあった。彼が言ったのだが、時折 YouTube に中国の経済発展に関する自身の主張を投稿すると、中国共産党( CCP )のプロパガンダを垂れ流しているとの批判的なコメントが大量に寄せられるという。しかし、彼はそれを心配するどころか、むしろ面白がっているようである。「中国に関しては、人々が単純な事実を受け入れるのを難しくする感情的な反応がある」と彼は語った。♦

以上