Economists Struggle to Come to Terms with “Immaculate Disinflation”
エコノミストは「無原罪のディスインフレ」との折り合いに苦心している
Experts said that inflation couldn’t be conquered without a lot more economic pain, but it’s happening.
多くの経済専門家が、不況入りせずにインフレ退治はできないと主張した。しかし、現実には退治した。
By John Cassidy November 17, 2023
1年余り前、ウォール・ストリート・ジャーナル紙(the Wall Street Journal)が多くのエコノミストに2023年の見通しを聞いた。回答した70人超の専門家(学者、財界人、ウォール街の投資家など)が、連邦準備制度理事会(FRB)がインフレを抑えるために金利を高めに維持する見通しであるため、景気後退に陥る公算が高いと答えた。彼らは、今年前半のGDPはわずかに縮小し、雇用の伸びはマイナスに転じると予測した。つまり、インフレを抑える代償として、景気が低迷するとしていた。「ソフトランディングが巷では期待されているようだが、実際には実現しない可能性が高い。」と、ある回答者は言った。
同紙が次の調査を行った今年1月も、たくさんのエコノミストが景気後退と雇用悪化を予測していた。「2023年全体では、雇用者数は月平均7,000人減少すると多くのコノミストは予想している」と、同紙は報じていた。この予測はまったく正しくないことが明白になりつつある。エコノミストたちの予測で唯一正しかったのは、インフレ率が低下し続けることだったが、それさえも低下ペースを過小評価している。今週初め、労働省は10月の消費者物価上昇率が3.2%に低下したと発表した。ガソリン価格の下落が依然として続いていることから、11月の消費者物価上昇率は2%代になる可能性も十分ある。
ここ数年間、経済ニュースの主役だったインフレの脅威がようやく去ったようである。物価上昇率は、FRBが目標とする2%よりもまだ少し高い。しかし、昨年6月に9.1%とピークをつけてから、インフレ率はほぼ3分の1に低下した。インフレ率の大幅な低下は、景気後退を伴うと予測されていた。しかし、実際にはGDPの成長と持続的な雇用創出を伴っている。これは多くのエコノミストの予想とは全く逆のことである。
商務省によれば、2022年のGDP成長率は年率1.9%だった。今年第1四半期から第3四半期までの年率成長率は、それぞれ2.2%、2.1%、4.9%であった。アトランタ連銀の予測モデル「GDPナウ(GDPNow)」は第4四半期の成長率を2.0%と予測しており、2023年年間の成長率も2%を上回りそうである。雇用に関しては、今年最初の10ヵ月間に非農業部門で約240万人の雇用が創出され、失業率は4.0%を下回り続けている。雇用が悪化するとの予測に反して、かなり強いと言える。
今から新年を迎えるまでに、景気が急激に悪化する可能性が無いわけではない。先月は小売売上高がわずかに減少した。先週にはターゲットとホーム・デポが、一部の消費者が高額商品の購入を控えていると報告したばかりである。しかし、何かのきっかけで金融危機が発生したり、中東やウクライナの戦争が急激にエスカレートしない限り、アメリカ経済が急激に悪化することはなさそうである。10月の小売売上高の落ち込みは、夏場の急増の反動によるもので、他の指標は引き続き問題無い状況である。金曜日(11月17日)に発表された住宅統計は市場予想を上回っている。
これらの数字を総合すると、アメリカ経済はこの1年間で予想を大きく上回っている。このことは、インフレを脱却するには大幅な景気減速と雇用の悪化が必要だと主張していた人たちに衝撃を与えている。 「アメリカ経済は、力強い成長、低い失業率、インフレ率の低下を同時に実現している。誰も予測し得なかった ”無原罪なディスインフレ(immaculate disinflation)” のように見える」と、フィナンシャル・タイムズ紙のチーフエコノミスト、マーティン・ウルフ(Martin Wolf)は先週書いている。元財務長官で現在はハーバード大学教授のラリー・サマーズ(Larry Summers)でさえ、昨年、「インフレ率を大きく下げる際に、失業率は6%まで悪化するだろう」と予測していた。しかし、失業率は低いままである。今週初め、サマーズはブルームバーグ(Bloomberg)に、「経済が引き続き好調であることを考慮すると、インフレ率が低下したことは非常に驚くべきことである」と語った。
インフレ・タカ派(inflation hawks)の予測が大きく外れてしまったわけだが、それを非難することはできない。彼らの肩を持つわけではないが、ウルフの言う”無原罪のディスインフレ(immaculate disinflation)”は、近年の歴史において前例がなく、FRBの政策立案者たちでさえ予測できなかったのだ。2022年12月のFRBの政策決定会合でジェローム・パウエル(Jerome Powel)理事長たちは、2023年のGDP成長率を0.5%、第4四半期の失業率を4.6%と予測した。この2つの予測は、良い方向に大きく外れた。
これほど大きく経済予測を名だたるエコノミストたちが外してしまった理由は何か。可能性の1つは、彼らの悲惨な予測は不正確だったわけではなく、時期尚早だったということである。つまり、いずれ金利上昇の悪い影響が顕在化し、不況に陥る可能性があるということである。もう1つの可能性は、そもそも多くのエコノミストが急激なインフレの本質を見誤ったということである。つまり、インフレの原因を新型コロナの余波による供給不足が原因ではなく、主に過剰な需要にあると見なしたことである。現在は新型コロナによる供給不足は解消されている。今だから言えることであるが、おそらく、エコノミストたちは急激なインフレの本当の原因を読み間違えたのであろう。
景気は本当に良くなったのかとか、バイデン政権の経済運営は問題無いのか等々の議論が続いている。世論調査によれば、多くのアメリカ人が景気が悪化していると感じている。それが影響して、ジョー・バイデンに否定的な評価をする者が少なくない。まだまだ多くの人々が食料品価格、住宅ローン金利の水準に不満を抱いている状況で、致し方ないのかもしれない。しかし、だからといってインフレを克服しつつ経済成長を成し遂げたという歴史的快挙を過小評価して良いわけではない。本当に難しいことを課し遂げたことを認識すべきである。快挙であり、これは誇るべきことである。♦
以上
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