2.たしかにオミクロン株の重症化率は低い。しかし、感染者数が多いので、入院患者数は少なくない。
“endemic”(風土性)という語は、”in people”もしくは”among people”を意味するギリシャ語が語源で、病原体と宿主が均衡状態を保っていることを意味します。マラリアはアフリカの一部の地域でのみ感染がありますが大きく広まりませんので、まさしく“endemic”という語が当てはまります。また、世界中で流行する季節性インフルエンザも毎年のように感染を繰り返えして、ある意味で均衡を保っていますので“endemic”です。オミクロン株の感染力の強さが認識されるにつれて、新型コロナもそろそろ“endemic”という語が当てはまる状態になりそうであると考える人が増えているようです。ビル・ゲイツやスペインの首相が、その可能性を指摘していました。また、BBCは「オミクロン株が英国をパンデミック収束に向かわせそうであるという確信が高まっている」と報じていました。今月初めには、かつてバイデン大統領の顧問だった3人の公衆衛生専門家が、新型コロナウイルスと共存・共生する「新たな日常」を目指して、新型コロナ対策を転換すべきであると主張していました。“Omicron party” (オミクロンパーティー:故意に感染者を増やすことによりコミュニティ全体の免疫保持者を増やし、新型コロナの収束を早めようとして集うこと。)をする人たちがいることを私はニュースで知りました。オミクロン株はそれまでのウイルスよりもマイルドですし、今後もずっと向き合うことになるのだから、さっさと新型コロナを収束させたいと考えているのでしょうか?
重症化するリスクが小さいオミクロン株の感染が広がることによって、免疫を獲得する者が急増し、パンデミックの収束が劇的に早まる可能性が無いわけではありません。ですので、希望を持ちたくなります。しかし、現実はそれほど甘くはないかもしれません。現在でも、ワクチンを接種していない者や持病のある者の中には、オミクロン株感染拡大で危険な局面を迎えている者も少なからずいます。オミクロン株は重篤な症状や入院に至る可能性が低いというデータが沢山あるわけですが、そのほとんどは、あくまでデルタ株と比較したものです。しかし、デルタ株は新型コロナの初期のウイルスと比べると重症化率はほぼ2倍でした。つまり、オミクロン株は、初めて武漢で出現した新型コロナウイルスとほぼ同じ程度の重症化率を保持したまま、感染力ははるかに強いのです。
オミクロン株の初期の臨床データで重症化率が下がったということが示唆されました。しかし、それが全てに当てはまるわけではないという可能性もあります。どんな感染症でも、その重症化率は感染した集団によって異なります。現在、数十億人がこれまでに感染したかワクチンを接種したことによって、新型コロナに対してある程度の免疫を持っています。しかし、免疫がどの程度高まっているかということは、国やエリアによって大きく異なります。南アフリカは平均年齢が低く、新型コロナに対する免疫が比較的高まったと考えられています。また、英国はワクチン接種率が米国よりも高いので、米国よりは免疫が高まっていると思われます。さて、米国では、高齢者、ワクチン未接種者、複数の疾患を持つ者など、必ずしも免疫の高まっていない者の集団がいくつもあります。ですので、オミクロン株が重症化しにくいとしても、米国ではそれが全ての人に当てはまるわけではないのです。
また、オミクロン株の感染力の強さが、過小評価され過ぎているような気がします。米国でのデルタ株の感染は8月6日にピークを迎えました。その日の1日あたりの新規感染者数は約25万5千人でした。仮にデルタ株感染者の2%が入院したとすると、ピーク時には1日で入院患者が5千人増えたことになります。一方、米国のオミクロン株新規感染者数は1月10日には137万人でした。オミクロン株の入院化率がデルタ株の半分だとしても、たった1日で1万3,700人も入院患者が増えることになります。また、米国軍医総監によれば、オミクロン株の感染者数はまだまだ増える見通しです。