実録!米国の養子縁組詐欺!残酷!悲惨!極悪!人生の充実を願い養子縁組を望んだゲイカップルは大金を失った!

A Reporter at Large October 25, 2021 Issue

How an Adoption Broker Cashed In on Prospective Parents’ Dreams
ある養子縁組斡旋事業者がお金に眼がくらんで養親の将来の夢を踏みにじった実録

In just a few years, a Michigan woman took in millions of dollars, faking adoptions and ruining families’ lives along the way.
わずか数年の間にミシガン州の女性は養子縁組斡旋で詐欺を働き数百万ドルの報酬を得た。養子と迎えて充実した生活を送りたいという夢は台無しになった。

By Sheelah Kolhatkar October 18, 2021

1.アダムとカイルのゲイカップルと養子縁組斡旋を生業とするタラ・リーとの出会い

 カイル・ベルツトーマスが思い描いていた理想的な家庭は、子供がいる賑やかな家庭でした。彼はかつて自分のことを「家族を守り支えるためには何でもする、屈強で意志が強くて思いやりのある人物である」と書いていました。彼は、セントクレア湖のほとり、デトロイト市郊外のニューボルチモアで3人兄弟の末っ子として育てられました。彼の母はイタリア人でした。彼女は、カイルをカトリック系の男子高校に入れました。その高校にカイルはあまり馴染めず、苛められたりしました。カイルは20歳の時にアパートを借りて1人暮らしするようになりました。それで精神的にも落ち着きました。2014年にはデートアプリを使って、アダムという画家(本職は銀行員)の男性と知り合いました。翌年には、徐々に親密になって、デートをすることになりました。最初のデートの際には、アダムはカイルにおおよその住所だけを教えて、「是非、会いに来て下さい。私は庭で芝刈りをしていますので、私を見つけて気に入ったら声を掛けて下さい。」と伝えました。その1週間後、2人は意気投合しディナーに出かけお酒を酌み交わしました。アダムはその時のことについて私に言いました、「カイルはとても思いやりのある人物だとすぐに分かりました。とても気が利くし、何より僕たち2人はとても波長が合ったんです。」と。2016年、2人は結婚し、3匹の犬と一緒にデトロイト市郊外の自然に溢れたところに2エーカー以上の土地に建つ寝室が4つある家に引っ越しました。当時、カイルは35歳でIT部門のマネージャーとして働いていました。結婚した翌年には、養子が欲しいと思うようになりました。しかし、カイルは自分たちのようなゲイのカップルが養子に来てくれる子供を見つけるのは難易度が高いく、時間もかかるだろうということは認識していました。

 アダムとカイルは養子縁組斡旋事業者を調べ始めました。すると、カイルの友人の1人が、中学時代の同級生でタラ・リーという名の養子縁組斡旋事業を営んでいる女性を紹介してくれました。2017年1月にアダムとカイルは彼女に会うために近くのティムホートンズ(ドーナツチェーン店)に車で行きました。

 リーは座って待っていました。テーブルの上にマニラ封筒に入れた書類を置いていました。彼女は35歳で小柄で、髪は光沢のある色で、黒い目をして、鼻にはピアスが光っていて、子供のように甲高い声でした。リーは、自分は資格を持った社会福祉士で、AlwaysHope(以下、オールウェイズ・ホープ)という養子縁組斡旋事業所を運営していると言いました。彼女は、一般的な養子縁組斡旋機関の職員とは明らかに雰囲気が異なりました。両腕にはみっちりとタトゥーが彫られていました。非常にラフないでたちでしたが、リーに言わせると、そうした雰囲気のおかげで沢山の若い妊婦と懇意になることが出来るということでした。養子縁組を望む若い妊婦は、薬物中毒や貧困や様々な問題を抱えている者が多いとも言っていました。そこで3人で話し合った際にアダムが気付いたことがありました。それは、リーの手首に巻かれていた腕時計が非常に高価なものであるということでした。およそ彼女の雰囲気とは似つかわしく無いものでした。

 多くの養子縁組斡旋機関は教会が運営しています。そうした機関はゲイのカップルには養子の斡旋をしていません。リーは過去に同性愛者のカップルに養子斡旋をした実績は無いが、特に反対しているわけではないと言っていました。アダムはそれを聞いて斡旋はリーに頼もうと決めました。アダムとカイルは、その日の内に契約関係書類に署名し保証金として2千5百ドルをリーに渡しました。アダムとカイルは、養子を迎えるにあたり、どんな家族にしたいかをイメージしたり考えたりして、さまざまな記述や写真からなる22ページの冊子を作りました。どんな家にするかとか、兄弟は何人にするかとか等が書かれていました。カイルが新生児を抱きしめているイメージ画や、アダムがスタジオに籠って子供用のおもちゃを作っているイメージ画等がありました。

 リーは、生まれる子供を養子に出す可能性のある妊婦のプロフィールを数人分送り始めました。2017年4月には、エンジェルという妊婦の情報をeメールで送りました。7月8日が出産予定日でした。リーの説明によれば、妊娠したのは性的暴行が原因で、エンジェルは生まれてくる赤ちゃんを育てることは無理だと判断していました。というのは、21歳で女手一つで2歳の息子を育てていたからです。リーはアダムとカイルに彼らが作った冊子をエンジェルに送るよう提案しました。その冊子が決め手となったのでしょうか、エンジェルは養親としてアダムとカイルを選びました。そのことをリーから聞いた2人は大興奮でした。養子縁組にかかる総費用は約2万5千ドルでした。それにはエンジェルの生活費の8千ドルも含まれていました。州法の規定で生母の生活費(家賃、食事代、出産費用等)を負担することは問題ありませんでした。

 アダムとカイルは、レッドロビン(高級ハンバーガーチェーン店)でエンジェルとリーと会って昼食を食べました。そして、エンジェルが産科で超音波検査を受けるのに立ち会ったりしました。アダムは私に言いました、「子供を受け入れる準備を大急ぎでやる必要がありました。部屋は自然をテーマとした飾り付けにすることに決めました。それで壁紙には木々やキツネの模様をあしらったりしました。彼らは、エンジェルと息子がデトロイトのダウンタウンのアパートに引っ越すための費用を負担しました。また、家具や冷蔵庫を買い揃えたり、食料品を買ったり、ウーバーを使った費用も負担しました。しかし、2人はエンジェルに直接お金を渡したことはありませんでした。常にお金はリーに支払う形でした。リーは、その方が手続きが簡単に済むと言っていました。アダムは言いました、「私たちは絶えずお金を渡し続けているような感じでした。」と。

 6月23日、エンジェルは男の子を出産しました。アダムとカイルは病院に急行しました。そこでリーの代理人のトーニャ・コラードから養子縁組に必要な書類をいくつか渡され、それらにサインしました。アダムとカイルは生まれた赤ちゃんをマクスウェルと名付けました。エンジェルもその名前を気に入ったようでした。また、2人が赤ちゃんを家に連れ帰った際もエンジェルは落ち着いていて悲しんだりしませんでした。アダムとカイルの生活は一変し慌ただしいものとなりました。哺乳瓶を温めたり、オムツを替えたりして、すっかりマクスウェル中心の生活になりました。

 2018年1月にアダムとカイルにリーから電話がありました。リーが言ったのは、エンジェルが再び妊娠し、今度の赤ちゃんも彼らの養子にしたいと希望しているということでした。その時点では、マクスウェルは満7カ月くらいでしたが、ちょっと前に呼吸器系に問題があることが判明し、病院に入院し、1週間ほど集中治療室で酸素投与を受けました。それで、アダムとカイルは住宅ローン以外にも約3万ドルの借金を抱えていました。だから、アダムとカイルはもう1人養子を受け入れるのは現実的では無いと判断しました。しかし、リーは彼らにもう1人養子にするように執拗に説得してきました。2人はリーに次のように言われたことを鮮明に覚えています。「将来、妹と一緒に暮らせる可能性があったのにその可能性をあなたたちが排除したことをマクスウェルが知ったら、あなたちはどうマクスウェルに釈明するの?」と言われたのです。それで2人は次の赤ちゃんについても養親になることにしました。今回は、リーから斡旋費用の半分と妊婦に掛かる全ての費用を前払いするよう指示されました。それで、1月20日に2人はリーに小切手を切りました。額面は1万ドルでした。

 2人は、次に迎え入れる赤ちゃんのための子供部屋の装飾に取り掛かりました。壁紙には人魚と海賊を描きました。また、その赤ちゃん用のドレッサーを購入して備え付けました。それには、買ってきたブロック文字を貼り付けて名前が書かれていました。名前はアレキサンドラでした。しかし、1万ドルを渡して以降、アダムとカイルはリーからエンジェルの妊娠の経過に関する情報をほとんど得ることができませんでした。2月にカイルは両親と兄弟を招いてみんなで夕食を囲みました。母親にはマクスウェルを抱っこしてもらいました。次にマクスウェルが着ていたトレーナーを脱がすよう母親に頼みました。トレーナーを脱がせた下にはTシャツを着ていたのですが、それには「僕はお兄ちゃんになるんだ!」と書いてありました。その一部始終をカイルの姉がiPhoneで動画撮影していましたのですが、カイルは嬉しくて涙を流していました。彼らは嬉しくて、これもリーのおかげだと言い、動画をリーにも送信しました。

 3月にアダムとカイルはリーに追加で3千ドルを支払いました。エンジェルの出産までの生活費名目でした。しかし、それから約1カ月後、リーからエンジェルが養子縁組を取り止めたがっていると知らされました。アダムは言いました、「それは本当に辛いことでした。」と。辛い上に、モヤモヤする感じもありました。というのは、アダムとカイルはエンジェルの生活費として既にお金を支払い済みでしたが、それが一銭も戻って来ないからでした。

 それから間もなく、リーからアダムとカイルに再び電話がありました。リーは、赤ちゃんを養子に出すことを希望している妊婦を見つけたと言いました。その妊婦の名前はエイプリルで出産予定日は年末でした。エイプリルに関する書類が準備されており目を通すと、リーと近しい間柄であると記されていました。エイプリルは、リーにとって妊娠する前から毎日連絡を取り合うような知り合いで、とても性格が良いということでした。リーは、今回の養子縁組の費用は今までよりも高額になるほのめかしました。約3万5千ドル必要とのことでした。その内の1万5千ドルは出産関連費用で生母となるエイプリルに渡すとのことでした。その1万5千ドルはすぐに支払わなくてはなりませんでした。そこで2人は再びリーに小切手を切りました。