5.タラ・リーが悪事が露見し始める
2018年10月初旬のある夜のことでした。ゲティングは仕事を終えて帰り支度をしていると、コラードが電話で話しているのに気付きました。何だか少し非難されているような感じに見受けられました。電話の向こうで叫んでいるのはサウスカロライナ州在住のジュリー・フォールケンベリーという女性で、以前からリーに養子縁組の斡旋を依頼していました。ゲティングがコラードが電話している部屋に入っていくと、コラードは電話をスピーカーモードにして他の者にも聞こえるようにしました。フォールケンベリーは叫んでいました、「あなたは自分のしたことを恥じるべきです!人を騙してやましくないのですか?よく平気で枕を高くして眠れますね!」と
ゲティングとコラードはその電話の対応に1時間を費やしました。フォールケンベリーは看護師で既婚で3人の実子を育てていましたが、夫婦で話し合って4人目の子供を作ることにしたのですが、3回の流産と1回の死産を経験した後にリーに養子縁組の斡旋を依頼していました。2017年5月に、リーはフォールケンベリーにフロリダ在住で男児を身籠っているというマライアという名の妊婦との養子縁組を仲介したいと提案しました。フォールケンベリー夫妻は、その男児の名をイライジャにすると決めました。そして、約1万5千ドルをリーに送金しました。名目はマライアの出産費用でした。しばらくして、マライアの出産予定日の少し前になって、リーから連絡がありました。リーが知らせたのは、超音波撮像したところマライアの胎児には重篤な疾患があることが判明したということでした。その後しばらくしてリーからフォールケンベリー夫妻に伝えられたのは、マライアは男児を出産したものの生まれた男児はたったの35分しか生きられなかったということでした。フォールケンベリー夫妻と子供たちはそのニュースを聞いて非常に落胆しました。リーはイライジャの出生証明書と死亡診断書といくつか写真を見繕って夫妻に送ると約束しましたが、それらが夫妻の元に届けられることはありませんでした。フォールケンベリーは、マライアとイライジャの話はでっち上げの嘘ではないかとの疑念を抱きました。というのは、リーがテキストメッセージで何度も「私が詐欺師で嘘を言っているなんて疑わないでね。」というメッセージを送ってきたからで、逆に怪しいのではないかと思い始めたのでした。それで、フォールケンベリーはFBIに電話をかけて捜査を依頼しました。それから、Facebookを通じて他のオールウェイズ・ホープに斡旋を依頼した者と連絡を取り始め、自分とほとんど同じような経験をしている者が沢山いることが判明しました。フォーケンベリー曰く、ある事例では、養親になる予定だった夫婦は、リーから大変悲惨なニュースを知らされました。夫婦の養子となる予定の赤ちゃんを身籠っていた妊婦が銃撃され、母体も胎児も助からなかったという内容だったそうです。また、フォールケンベリーは養親となる者だけでなく、我が子を養子に出した生母、もしくは養子を出す予定の生母たちからも話を聞いていました。それで判明したのは、彼女たちの生活環境はとてもみすぼらしく悲惨なものであるということでした。なぜなら、リーから彼女たちには1円もお金が渡されていなかったからです。また、リーは養親となることを希望する者の何人かに、自分は癌を患っているとか、脳卒中を起こしているとか吹聴していたようですが、それは真実はないことが判明しています。
ゲティングとコラードは、リーからの依頼を受けてオールウェイズ・ホープが斡旋した多くの養子縁組に関して法的に必要となる書類の作成に弁護士として携わってきました。ですが、リーが着手金を受け取っていた多くの養子縁組斡旋案件が赤ちゃんが死んだ等の理由で反故にされていたということについて、ゲティングとコラードは全く認識していなかったと主張しています。なかなか信じがたいことです。しかし、ゲティングは自分は本当に知らなかったと言いました。また、そうした事実を知って非常に驚かされたし、悲しかったし、今でも信じられない気持ちがあると言っていました。ゲティングは不安に駆られてリーに過去に依頼された仕事の内容、やり取りした内容などを調べ始めました。ゲティングはリーの人柄とやってきたことを思い出しながら言いました、「彼女が全てを仕切っていました。養子となる赤ちゃんの生母側には弁護士とか代理人とか法律に詳しい者は誰もいません。養親側だってそうです。1人も法律等に詳しい者がいない中で、頼れる情報源と言えるのはタラ・リーだけという状態が生み出されてしまったのです。それで、みんながタラ・リーを頼り、誰もがタラ・リーのことを信じてしまったのです。タラ・リーはそうした状況を利用して好き放題にしたということです。」と。
マリア・パンチェンコは昨年5月から弁護士としてリーのために仕事をしていました。裁判所から出る時に、携帯に着信がありました。ゲティングからの電話でした。ゲティングとコラードの事務所まで来て欲しいとのことでした。当初、パンチェンコは、リーが養子縁組に関して不正を行っているという疑いは事実に反しているのではないかと思っていました。というのは、養子縁組が上手くいかないことは日常茶飯事ですし、そうした際には養子を迎えられなかった者が感情的になったり、不満を抱くことは良くあることだからです。この時、パンチェンコは言いました、「タラ・リ-は悪事を働いていないはずよ。」と。渋々ですが、パンチェンコはゲティングとコラードの事務所へと車を走らせました。パンチェンコが到着すると、ゲティンゲはフォールケンベリーに電話をし、リーが悪事を働いているという主張をパンチェンコに電話口で聞かせるよう依頼しました。
電話口からのフォールケンベリーの話は続いていましたが、途中でパンチェンコは気分が悪くなりました。それでゲティングの方を向いて、口パクで「一体どうなってるの?」と言いました。フォールケンベリーの主張が終了した後にパンチェンコは言いました、「全てのファイルを引っ張り出して調べ上げるしかないわ!」と。3人の弁護士はさまざまな書類をチェックしていましたが、数時間経ったところでゲティングが思い出したことがありました。それは自分がリーが使っているeメールアカウントを開けることが出来るということでした。それで、それからの数日間を使って3人は何千ものメールを調べ上げました。その結果、1人の赤ちゃんしかいないのに、リーが複数の養親になることを希望する者に対して養子縁組を持ちかけていた事例があることが分かりました。しかもそんな事例が数えきれないほどありました。パンチェンコは言いました、「私たち3人はとても困惑しました。ちょっとどうして良いか分からないような状況でした。」と。
パンチェンコは、Instagramを通じて、デトロイトのFBIで人身売買捜査班で働いていた友人と連絡を取りました。その友人はパンチェンコの話を聞いた後、マシュー・スラスという捜査官を紹介してくれ、スラスはパンチェンコに電話を掛けました。スラスは2017年からFBIに所属しており、数多くの詐欺事件の捜査に携わってきました。パンチェンコは当時のことを回想して言いました、「私は知っていることを全てスラスに話して吐き出しました。」と。パンチェンコはスラスに話した際、リーが行っていたことは「養子縁組詐欺」だと訴えました。