7.タラ・リーの事業所がFBIが捜査を受け、起訴されて有罪判決を受ける
コラードとゲティングとパンチェンコは、2週間かけてエクセルでFBIに提出する資料を作成しました。エクセルシートには、オールウェイズ・ホープが斡旋した養子縁組事例で3人が認識していたものを全て列挙し、それぞれの事例について詳細を付記していました。認識していた問題点も列挙していました。また、3人は手分けして養親になりたくてリーに養子縁組の斡旋を依頼した者すべてに電話をかけ始めました。それで、リーが詐欺的なことをしていたことを事実として伝えました。実在しない妊婦の赤ちゃんとの養子縁組を持ちかけていたとか、1人の妊婦しかいない場合にも複数の者に養子縁組を持ちかけていたということも伝えました。パンチェンコは私に言いました、「あの時、電話を掛けるのは本当に辛い仕事でした。」と。
スラスを含むFBIの捜査班の数名がコラードとゲティングに会いに来ました。リーの斡旋により実子を養子に出した経験もあり数ヶ月リーの助手を務めていたコフマンにも会いました。また、サラ・ウッドワードという検察官も捜査に加わりました。夏の間、コフマンは毎日のようにリーを車に乗せてあちこち走り回っていました。リーは車の中では電話ばかりしていました。回った先で多かったのは妊婦がいる家や病院でした。コフマンは助手をしていてある事実を知って辞めることにしました。それは、コフマンがお金を僅かしか受けとっていないにもかかわらず、リーは養親から多額をコフマンに渡す名目で受け取っていたということでした。他の妊婦たちも同様でした。彼女はスラスにリーの家のレイアウトを教えました。また、リーが自分用のパソコンや書類等をどこに置いているかも説明しました。翌日、11月9日のことでしたが、スラスやFBI捜査班の者がリーの家を急襲し玄関のドアをノックしました。捜索令状を携えていました。デトロイトのテレビ局の1つが取材班を送り込んでいました。何らかの方法で逮捕劇があるという情報を得ていたようです。FBI捜査班は、書類箱やファイルやパソコンを押収していきました。急襲されたリーはパンチェンコに「自宅にFBIの捜査員が来やがった!」というテキストメッセージを送りました。その時、パンチェンコには裁判所にいて弁護士として裁判に出席している最中でした。
取材に来ていたテレビ局はWXYZでした。WXYZはFBI捜査員が急襲する場面を記録しましたが、容疑者は誰でどんな人物なのかということも、どんな罪を犯したのかということも認識していませんでした。数日後、WXYZのベテラン調査報道記者であるヘザー・カタロは執務室で勤務中に上司から急襲されたリーの自宅の住所を書いた紙を手渡されました。それで、「どんな事件が起こったのか取材してきてください。」との指示を受けました。
ちょうどその頃、カイルが進行中だったレニーとの養子縁組が疑わしいと思い、調べている最中でした。カイルはSNSを調べていて、レニーの姓と、レニーの主人の名前を突きとめました。Facebookでレニーのプロフィールページを見ると、妊娠中のお腹の写真等がありました。また、ある女性の投稿があったのですが、その女性はレニーに赤ちゃんの養親に選んでくれたことへの謝意を述べていました。その女性が教会で主催した費用を集めるための募金活動の詳細を示した投稿もありました。カイルは直ぐにその女性にメッセージを書いて送信しました。それで、自分とパートナーもレニーの赤ちゃんの養親になるべく手続きを進めていることを知らせました。レニーの主人がカイルと女性のそうしたやり取りを知ることとなり、カイルに連絡をとりました。それでカイルに次のように言いました、「ええ、数週間前にレニーがカイルさんとパートナーに会ったということは聞いていますよ。しかし、養子縁組は他の家族とすることに決めたんです。そのことは、タラ・リーから聞いているはずだと思うんですが?」と。
カイルはリーと直接会って話をしました。リーが言ったのは、レニーが嘘を言っているということでした。レニーにはカイルが先払いしたお金を先月に渡し済みなのに、それも返済されていないと言っていました。また、リーはゲティングとコラードのことについても言及し、2人はリーに濡れ衣を着せて事業を無茶苦茶にしようと企んでおり、過去に養子縁組が成立しなかった養親の数家族を煽って騒ぎ立てていると言いました。そうした騒ぎが元でFBIがオールウェイズ・ホープの捜査に乗り出す事態に陥ったとも言いました。結局その場では、リーはカイルたちに別の赤ちゃんを養子縁組すべく斡旋すると約束しました。カイルはその時のことをはっきりと覚えていますが、リーは既にカイルたちから預かったお金は次の養子縁組の際に充当する形にすると明言していました。
12月4日、WXYZのカタロはオールウェイズ・ホープの養子縁組の不正を報道しました。カタロの報道の後、直ぐに沢山の連絡がありました。リーの仲介で養子を出した者も養子を受け入れた者も養子縁組が成立しなかった者もいました。その中には、養子の生父も居て、自分が知らない内に勝手に実子が他州の養親の元に送られたことで怒り心頭でした。
アダムとカイルは、リーから何度か連絡をもらいましたが、リーは非常に落ち込んでいました。リーが愚痴をこぼしていて、カタロの報道が流れた後、過去にお世話をした養親家族や生母の多くに急に非難されるようになったと愚痴をこぼしていました。リーは、FBIの捜査は既に中止されたと言いました。また、アダムとカイルのために養子を検討している妊婦が見つかったとも言っていました。カイルが当時のことを私に教えてくれたのですが、リーが電話してきて、死にたいと漏らすことも有ったそうです。カイルはリーが落ち込んでいたので心配になりました。それで元気づけようとして、マクスウェルを車に載せてリーの家を急遽訪れました。
2019年1月11日にリーは起訴されました。カイルが私に言ったのですが、その時点ではリーのことを信じていたそうです。リーは悪いことなどしていないので無実にちがいないと信じていたのです。告発内容が開示されたので、アダムは仕事をしている最中でしたが、それをプリントアウトして、車の中で読みました。リーが告発された理由はいくつもありました。養子縁組斡旋とソーシャルワーカーのライセンスを持っていないのに斡旋をしたこと、それらのライセンスを持っていると偽ったこと、1人の妊娠を複数の養親になることを希望する家族に斡旋したこと、妊娠していない女性もしくは存在していない女性を養親になることを希望する家族に斡旋したこと等でした。アダムは家に居るカイルに直ぐに電話しました。そして言いました、「俺たちはリーに騙されたんだよ!」と。
その週末に、ゲティングはカイルに連絡をしました。それまでにゲティンゲらはリーが過去にしてきたことあらかた調べ上げていました。ゲティングがカイルに言ったのは、リーが2番目にカイルらに斡旋したエイプリルは妊娠などしていなかったということでした。
2019年7月にリーは追加で他の罪状で起訴されました。その際には、共犯者としてエンヘリカ・ウィギンズリーという女性も起訴されました。ウィギンズリーはリーと共謀して何度も偽の妊婦を演じ、養子を受け入れたい者を騙していました。後に、ウィギンズリーは詐欺による有罪を認め、懲役21カ月を言い渡されました。その時の起訴状によれば、リーは養子縁組の斡旋に絡んで210万ドルの報酬を得ていたことが判明しています(最も多かった2018年は100万ドル以上)。また、リーは約40万ドルを高級品の購入に費やしていました。ルイ・ヴィトン、デヴィッド・ヤーマン、ハッチ(宝飾店)などで、それぞれ4万ドル以上の買い物をしていました。ノースウェスタン大学で社会福祉関連の修士号を得たとされていましたが詐称でした。その大学では社会福祉関連の修士号は取得できません。8月にリーは詐欺罪を認めました。私はリーに電話したのですが、自分は無実だと言い張っていました。リーが私に言ったのは、有罪を認めたのは裁判で争うとリーの夫を起訴すると検察に脅された為だということでした(後日、サラ・ウッドワードに確認しましたが、そうした事実はないということでした)。リーは、泣きながら有罪を認めたことは間違いだったと私に言いました。現在、リーは有罪と認めたことを覆せないか検討中です。
捜査結果で判明したのは、リーが養子縁組に関連して養親になることを希望する家族が騙されていたと疑われるのは160件で、養子を出す生母側が騙されていたと疑われるのは70件でした。時にはテレサとマイク・マシーニーのように普通に養子を受け入れられた家族もいたようですが、そういった事例は非常に稀だったようです。養親になることを希望していたがリーに騙された者は全米に散らばっていました。それで、リーの裁判が開かれた際には米国中からそうした者たちが傍聴しようとデトロイトのダウンタウンにある連邦裁判所に集まって来ました(新型コロナによるロックダウンが実施される2週間前でした)。そうした騙された者の中の1人であるメラニー・ピーターソンは、傍聴したのはそれまでに経験したことがないような非常に貴重な体験だったと私に言いました。彼女は私に言いました、「他の騙された人たちと一緒に居ることで何か連帯感のようなものが生まれたんです。」と。傍聴していた者の多くが、リーが囚人服を着て足首に足枷をされて法廷に入ってくるのを見て、悪いことをしたのだから裁かれて当然だと感じていました。ピーターソンは言いました、「私はリーの顔をどうしても直接見たいと思ったんです。というのは、こんな悪事を働く人間が世の中に本当に存在しているとはどうしても信じられなかったからです。」と。
この事件を担当した裁判長のバーナード・フリードマンは、リーは被害者とその子孫の人生までも台無しにしたと指弾した上で、100万ドル以上の賠償を命じました。また、罪状を量刑ガイドラインに照らし合わせて最長となる10年1カ月の懲役刑を言い渡しました。
フリードマンは判決を言い渡す前に、陪席している被害者に意見表明する時間を設けていました。それで、この裁判は閉廷までに5時間近くかかりました。アダム、ピーターソン、テレサ・マシーニーら全部で15人が意見表明を行いました。リーは、犯罪者とがモンスターと呼ばれていました。何人かの犠牲者は養子縁組制度の改革を真剣に訴えました。また、現在の養子縁組に関する法規定は継ぎはぎだらけで十分に機能していないと主張する者もいました。フェニックスの看護学生であるアンバー・モレイは自分の被害事例を証言しました。それによると、2017年にステイシーという名前の妊婦との養子縁組の斡旋に関連してリーに数千ドルを送金したそうです。養子を迎えることで、人生をより充実したものにしようと決意していました。出産に間に合うように飛行機でミシガンまで行きました。しかし、そこでリーに言われたのは、ステーシーが理由も無く居なくなってしまったということでした。モレイは裁判長にリーに直接話しかけて良いか尋ねて認められました。それで、被告人席に座っているリーの方を向いて尋ねました、「ステイシーという妊婦は本当に存在していたんですか?」と。しばらくの沈黙の後、リーは答えました、「架空の人物です。」と。