2.バイデン政権の新型コロナ対応は問題ない。迅速検査キットの手配のみ遅きに失した。
11月にオミクロン株が出現したというニュースが流れた際に、ホワイトハウスはまるで戦場のような慌ただしい様相を呈していました。毎日午前8時から会議が開かれて、ファウチ博士を始めとするウイルス対策チームがオミクロン株に関する最新のデータを分析していました。5つの省庁の垣根を取っ払ってタスクチームが結成されました。その内の2つは、オミクロン株の感染拡大状況を調べることが主たる業務でした。他の3つはワクチン、治療薬、検査薬など必要な物資の供給体制を整えることが主たる目標でした。タスクチームに与えられた役割は緊急を要するもので重要であるにもかかわらず、クリスマス前にホワイトハウスの関係者に話を聞いたところ、あまり差し迫った感じではありませんでした。彼らはかなり楽観的な様子で、ある者は、オミクロン株に対する備えは着々と進んでいることを示唆していました。また、バイデン政権の新型コロナ対策の顧問代理のナタリー・クィリアンが言ったのですが、多くの米国人は新型コロナ対策はもっと違う形に変えるべきであると考えているようです。新型コロナ感染拡大初期に行った、マスク着用義務を伴うロックダウン措置が再びとられるか否かということを、私はクィリアンに聞いてみました。すると、彼女は言いました、「再びロックダウンをする必要など無いと確信しています。なぜなら、パンデミック初期にはなかったツールが今はいろいろとあるわけですから。」と。
ホワイトハウスのエネルギーの多くは、そうしたツール(ワクチンや治療薬や検査薬)をどのようにして国中に供給して行き渡らせるかということに向けられています。保健福祉省の調達担当次官補であるドーン・オコネルによれば、公衆衛生当局が調達よりも優先しなければならないのは、既存のワクチンや治療薬がオミクロン株に対して有効か否かを明確にすることです。幸いなことに、ワクチンも治療薬も検査薬もおそらく有効であることが分かっています。有効か否かを調べる際には、実験室にオミクロン株のサンプルが到着する前の時点でしたので、人工的にウイルスを合成したものを使いました。その調査によって、オミクロン株に対してもワクチンは有効で、ブースターショットも効果がある可能性が示されました。また、その後も調査研究を続けた結果、正しいことが裏付けられました。その頃、オコネルが率いている研究チームは製薬メーカーに、新しくオミクロン株用のワクチンを開発する場合にどれくらいの時間がかかるかといったことを見積もらせていました。また、オコネルは並行して政府が購入済みの新型コロナ治療薬(ほとんどはすが)などの臨床試験の進捗状況のチェックもしていました。しかし、新型コロナ治療薬に関しては、あまり芳しい結果が出ませんでした。3種類のモノクローナル抗体の内、2つはオミクロン株に効果がないことが判明しました。残るはグラクソ・スミスクライン社製の1つだけで、現在も臨床試験が続けられています。
ところで、オミクロン型の最大の特徴は、感染力が極めて高いということです。そのため、迅速な検査を可能とすることが特に重要になります。ファウチ博士が私に言ったのですが、陽性検査がすぐに簡単に受けられるような体制を構築することが重要なのです。そうすれば、ワクチンを接種した人やブースターショットを受けた人が、新型コロナウイルスに対して脆弱な人を訪ねる際とかに事前に気軽に検査を受けられるようになります。それで、陰性であると分かれば、訪ねられる側となる感染に対して脆弱な新生児や妊婦や化学療法を受けている高齢女性なども安心できます。
バイデン政権が非常に頑張ったのでそうした体制を想定よりも早く整えることが出来た、とオコネルは私に言いました。彼女によれば、実に30億ドルもの大金が注ぎ込まれて、検査キットの製造能力の増強が為されました。夏の終わりの頃と比べると12月時点で検査可能回数は4倍になりました。また、検査キットで使う消耗品の供給にも支障をきたさないために2.5億ドルが費やされ、ピペットやピペットの原料の製造が強化されたのです。そうした努力は、大金が投じられ規模が大きい割には遅きに失した感が有ります。12月初旬、バイデン政権は迅速陽性検査の費用を民間保険会社が負担した費用を公費で補填する計画を発表しました。それを受けて、NPR(ナショナル・パブリック・ラジオ:ワシントンに拠点を置く非営利ラジオネットワーク)のマーラ・リアソンが、バイデン政権のジェン・プサキ報道官に、公衆衛生当局が直接検査を実施する形にした方がシンプルで速いのではないかとの質問をしました。それに対して、プサキ報道官は「どうやってやるんですか?すべての米国人に検査キットを送り付けるんですか?」と聞き返しました。もし、全員に送り付けることができれば、案外効果があったかもしれません。しかし、ニューヨークの感染の波が既にピークに達していた頃でさえも、バイデン政権が発注した5億個の検査キットはまだ納品前の段階でした。ですので、全員に送り付けるなんてことは不可能だったのです(ファウチ博士によれば、おそらく今から2週間半後には需要に見合った検査キットの供給ができるようになるそうです)。 バイデン大統領は、12月に検査キットの政府による購入計画を発表した後に、「2ヶ月前に5億回分の検査キットの発注をしていれば良かったのだが、それは出来なかった。しかし、これは失策ではなく、急激に感染者数が増えたことに起因するものである。」と言いました。検査キットの発注の遅れは、今でもさまざまな影響を及ぼしています。火曜日(1月4日)にバイデン大統領は、「オミクロン株に感染しても重症化しないためのツールがあります。まもなく、それが十分に国中に行き渡るようになります。」と言いました。しかし、その時点でも、検査キット不足が発生していて、それがさまざまなメディアで取り上げられていました。バイデン大統領が検査キットが需要を満たすほど供給されるようになると言っていた時期を過ぎたのですが、実際にはそうなっていないようです。