3.現時点ではオミクロン株の特質は断定的なレベルでは明らかになっていない
最近、私はカリフォルニア大学サンフランシスコ校の老人病専門医のルイーズ・アロンソンと話をしました。彼女は、新型コロナのリスクとどう向き合うかということについて、高齢の患者の相談にのり、カウンセリングをしています。彼女もまた、リスクを3つの観点(ワクチンを接種済みか否か、慢性疾患があるか否か、高齢であるか否か)で測って、高齢者にアドバイスをしています。アロンソンの患者は高齢者ばかりなので、間違いなく脆弱性を抱えているということになります。しかし、高齢者といっても状況はさまざまなので、脆弱性の度合いは患者ごとに違います。アロンソンは言いました、「沢山の患者がいて、脆弱性への対処方法は千差万別で驚くほどに幅広いのです。ワクチンを接種したら、ジムへ通う者もいますし、旅行に出かける者もいますし、映画を観に出かける者もいます。」と。また、本人の性格に由来するのでしょうが、非常にリスクを避けて注意深く行動する者もいます。また、リスクを非常にきめ細かく評価する者もいます。パーティに行く前に、参加者の人数だけでなく、参加家族数を調べたりする人もいます。
アロンソンは、高齢患者のリスクのとり方は人それぞれであるが、個々の患者の社交性もリスクのとり方に影響を及ぼしているようだと指摘しています。彼女は患者に、新型コロナ禍で生活がどう変わったかを尋ねてみました。アロンソンは言いました、「うまく適応している人もいました。また、そうでない人もいて、『私は元々は社交的な人間だと思っていたが、本当は内向的なのかもしれない』というようなことを言った人が何人もいました。」と。また、アロンソンは、患者それぞれが感じている苦痛や苦悩の度合いも測っていました。それで分かったのは、社交的な者が新型コロナで他者と交流できなくなると、認知機能や身体機能が著しく衰える可能性があるということでした。そのような場合には、苦痛を軽減する一助として、出来るだけ他の者と交流する機会を増やすことが必要である思われます。ですから、リスクを最小限にするためには、他者との交流の機会を確保することも必要だと思われます。また、高齢者だけでなく、慢性疾患を持つ者についても同様に他者との交流の機会を確保することは重要であると思われます。
しかし、オミクロン株の伝染力があまりにも強いので、他者と交流する機会を確保すること重要であるという見解は見直されるべきかもしれません。先月のノルウェーの事例ですが、パーティーに約120名(全員ワクチン接種済み)が参加し、事前の検査では全員陰性だったのですが、少なくとも80人が新型コロナに感染してしまいました。オミクロン株の感染が世界中で拡がり、このような集団感染の発生は日常茶飯事となるでしょう。おそらく、数週間もすればオミクロン株は米国でデルタ株にとって変わって感染の大部分を占めるようになるでしょう。
ワクチンを接種した人たちが、脆弱性を有している者に対して、数ヶ月前よりも大きな脅威となる可能性があります。ワクチン接種を受けた人は、ウイルスに感染する可能性は低いでしょう。感染しないので、ウイルスをバラ撒く可能性も低いでしょう。また、たとえ感染したとしても、免疫システムが機能して体内でウイルスが増殖するのを抑制してくれるでしょう。しかし、デルタ株がオミクロン株に置き換わると、ワクチンを接種していても感染する可能性が高まりますし、体内のウイルスの増殖を抑制できない可能性も高まります。デルタ株と比較すると、オミクロン株はワクチン接種後に作られた抗体を回避する能力に優れており、気道内でより速く増殖するため、免疫システムが機能する前にウイルスをバラ撒いてしまう可能性が高いのです。ワクチン接種を受けた人は、デルタ型に感染する可能性が以前の変異株(アルファ株、ベータ株)よりも高いのですが、同様にオミクロン型に感染する可能性はデルタ株よりも高いと考えられます。
ですので、ワクチンを接種した人も、脆弱性がある人も、感染予防に注力すべきです。通常、ワクチンの有効性は、総体的に評価されています。年齢別、男女別、年齢別、既往症別等の評価は公表されません。全て引っくるめた評価で、有効率が何%であるということしか分からないのです。
オミクロン株の感染による死者が何人出るかは現時点では推測不可能です。ちなみに、昨冬は、全米で25万人弱が新型コロナで亡くなりました。オミクロン株の感染が一番最初に確認された南アフリカの数値を見ると、新型コロナの感染者は多かったものの、死者数は感染者数と連動しておらず、それほど多くありません。感染してから数週間後に亡くなる者もいますし、オミクロン株の臨床データが十分にある国は1つもないので、断定的な結論を出すのは時期尚早で不可能かもしれません。しかし、オミクロン株が感染してもそれほど重症化しないことを示すいくつかの証拠があります。また、再感染した者とブレークスルー感染した者は、ワクチン接種していない人が感染した場合よりも重症化しない傾向があることも分かっています。オミクロン株は、これまでの新型コロナウイルスとは一線を画すものです。というのは、これまで新型コロナは「死の病」でした。しかし、もう「死の病」ではなくなった可能性があります。待ち望んでいた瞬間が訪れたのかもしれません。
しかし、現時点でそう断定するには証拠が不足しています。ですから、オミクロン株の感染が拡大中ですので、脆弱性がある人たちはやはりまだ注意深い行動をするべきです。注意深い行動をすることは簡単なことのように思えますが、多くの人にとって簡単なことではありません。アロンソンは私に言いました、「もし、あなたが生涯働き続け、生涯貯蓄に励み、健康を維持して、ようやくリタイヤして旅行するつもりだったのに、新型コロナのせいで家で閉じこもる生活を強いられたとしたら、どう感じますか?それは、とても辛いことです。」と。