How Vaccine Hesitancy Is Driving Breakthrough Infections in Nursing Home
老人ホーム入所者がワクチンを接種しているのに陽性になるのは、ワクチン接種忌避者が減らないことが原因
A gap in vaccination rates between residents and staff means that long-term-care facilities remain particularly vulnerable to coronavirus outbreaks.
老人ホームのスタッフのワクチン接種率が入所者より低い限り、老人ホームはコロナウイルスに対して脆弱なままです。
By Masha Gessen April 27, 2021
ニュージャージー州で2つの老人ホームで管理医師を務める開業医のジェイ・メエロウィッツに電話がかかってきました。4月12日(月)のことでした。彼は、新型コロナウイルス感染関連で老人ホームから電話がかかってきたのだろうと思いました。昨年、パンデミックが始まってからの数ヶ月間は悲惨な状況で、その2つの老人ホームでも入所者がCovid-19が原因で沢山亡くなっていました。昨年の春には、メエロウィッツも感染しました。妻と娘1人と同僚であり親友でもある医師1人も感染しました。しかし、この6か月間は、その2つの老人ホームで感染は発生していませんでした。ニュージャージー州の都市封鎖が解除される際、老人ホームの封鎖が解除されるのは第3段階と決まっていました。第3段階になって、お見舞い、食堂での会食、グループ活動が再開されていました。1月に長期介護施設でのワクチン接種が可能になった時、2つの老人ホームの入所者は全員ワクチン接種を希望しました。また、スタッフの大半は接種を希望しました。メエロウィッツにかかってきた電話の内容は、老人ホームの介護助手の1人が検査で陽性になったというものでした。
2つの老人ホームでは検査が日常的に実施されていました。検査結果は前週末の金曜日に実施された検査のものでした。検査結果で1名が陽性であったことを受けて、すぐにその介護助手がいた老人ホームの全員の再検査が行われました。4月13日(火)、再検査結果が戻ってきました。3人の入所者が陽性でした。3人とも高齢男性でしたが無症状でした。14日(水)、1人の看護師が軽度の症状を発症し、陽性と判定されました。その2日後、16日(金)に、さらに1人の入居者が陽性となりました。その2日後の18日(日)に、別の看護師(最初に陽性と判定された介護助手の配偶者)に軽度の症状が見られ陽性となりました。陽性結果が出たのは、片方の老人ホームだけでした。その老人ホームは建物がいくつもありましたが、陽性者が出たのは1つの建物だけでした。最初に陽性が判明した介護助手と最後に判明した看護師は夫婦で、2人ともワクチン接種を受けていませんでした。しかし、他の陽性者はワクチンを接種していました。
メエロウィッツは、少し驚いていました。というのは、彼は、ワクチンを接種したら感染しないものと思っていたからです。私がフォートリーにある彼の家を訪ねた時、彼は私に言いました、「私は、ワクチンを接種したら感染しないと思っていたんです。誤った認識をしていたのですが、すっかり安心しきっていました。」と。メエロウィッツに定期的に感染症に関してコンサルタンティングをしているベンジャミン・デ・ラ・ロサは、ワクチンを接種しても感染することは珍しいことでは無いと言います。デ・ラ・ロサは私に言いました、「老人ホームには、ワクチン接種者が感染するのに最適な条件がそろっています。そこでは脆弱な老人がいて、持病がある人も多く、密集して住んでいて、その多くは半個室に住んでいます。建物の多くは古く、換気が良くありません。」と。言い換えれば、老人ホームのような長期介護を行う施設は、コロナウイルスに対しては脆弱なままであり、1年前と比べて感染の危険性は全く変わっていないということです。
1年前と現在の違いは、ワクチン接種が進んでいるという点だけです。ニュージャージー州内の多くの老人ホームなどの長期介護施設では、ほぼ全ての入所者がワクチン接種を受けています。リハビリセンターなどの短期滞在型の施設では接種者の割合は低く、施設によって異なりますが、0から約70%です。しかし、ワクチン接種率で問題なのは、それらの施設で入所者と接種率とスタッフのそれとの差が大きいということです。全ての入所者がワクチンを接種している多くの施設でも、スタッフの接種者は50%を割っています。デ・ラ・ロサが言うには、集団免疫獲得の障害となっているのは、スタッフのワクチン接種が進んでいないことが原因です。地域で新型コロナの感染が終息していない状況ですので、そうした施設のワクチン未接種のスタッフはウイルスを拾って施設内にウイルスを持ち込んでしまう可能性があります。施設内は、先ほど記したとおり、換気も悪く密になりやすいので、ウイルスが持ち込まれればワクチンを接種していた人でも陽性となりやすい状況にあります。
CDC(米国疾病管理センター)は、米国内でワクチンを接種後に新型コロナに感染した症例数を把握しています。4月20日時点で、ワクチン接種された8,700万人の中で、新型コロナに感染したのは7,200人以下でした。これらの感染者のほとんどは無症状でした。88人が死亡しました。これらの数値が示しているのは、ワクチンを接種したのに感染する例は非常に稀であるということです。しかし、デ・ラ・ロサは7,200人という数字は本当はもっと多いのではないかと推測しています。というのは、ワクチンを接種したのに感染した人で症状の無い人は、老人ホーム等のように日常的に陽性検査が実施される施設に入所しているか勤務していない限り感染したことが分からないからです。
水曜日(4月21日)に、米国疾病管理センターはケンタッキー州の老人ホームでCovid-19の集団感染が発生したと発表しました。そこでは、入所者は90%以上がワクチン接種済みでしたが、スタッフの接種率は53%でした。ニュージャージー州の例と同様ですが、感染はワクチン未接種のスタッフから拡がりました。そのケンタッキー州の老人ホームでは、最終的に46人が感染しました。内、22人は予防接種を受けていました。入所者3人が死亡しました。死亡者の1人は予防接種を受けていました。それでも、最終的な分析結果によれば、ワクチンを接種すると85%以上は感染しないか、感染しても無症状になるという効果を示していました。また、ワクチン接種すれば、94%以上が入院しなくて済むという効果があることも示していました。
「ジェイ(メエロウィッツ)は、私に電話をかけてきた時、少し不安そうでした。しかし、私は彼を安心させるために、ワクチン接種には効果があることを説明しました。ワクチンを接種していれば、感染しても重症になることは少なく、無症状であることが多いからです。そんなに心配することは無いよと言いました。」とデ・ラ・ロサはニュージャージー州の老人ホームでの集団感染に関連して語っていました。
長期介護施設で集団感染が起こると、それがたとえ小規模であっても、隔離措置が取られることとなります。ニュージャージー州のメエロウィッツの老人ホームでは、お見舞いは禁止されましたし、ホーム内で会食や各種活動も制限されました。入居者は自分の部屋で紙皿や使い捨ての食器で食事を摂らなければなりませんでした。談話室や庭などでビンゴゲームをしたり、音楽を聴いたり、世間話をしたり、他の人と接する活動は一切出来なくなりました。検査で陽性となった入居者は、2週間部屋に閉じ込められます。陽性になってから2週間ではなく、何回も陽性結果が出た者は、最後の陽性結果が出てから2週間です。その結果、孤立感から、うつ病になったり不安感が強くなったりします。入所者で軽度の認知症を患っている者もいましたが、そうした者たちを隔離措置に対処させるのには特に苦心したとメエロウィッツは言いました。老人ホームでは、隔離措置が功を奏さないことも多々ありました。パンデミックが発生してから1年以上たちましたが、1年間でニュージャージー州の長期介護施設では、8,000人近くが新型コロナで死亡しています。これはニュージャージー州のCovid-19による死者総数の3分の1以上を占めています。
「私は心に非常に大きな傷を負いました。」とメエロウィッツは言いました。彼は昨年の春に新型コロナに感染しました。彼の家族も感染しました。いずれも軽症で済みました。しかし、彼の同僚の医師ジョセフ・リッツォは違いました。リッツォも感染したのですが、彼だけは重症でした。彼は59歳で割と高齢な上、糖尿病を患っていました。「彼は私たちが勤めている病院に両側性肺炎で入院しました。担当医師は気管挿管が必要だと言っていました。」とメエロウィッツは言いました。メエロウィッツは、友人リッツォの病室に入ることが出来たので、気管挿管される前にリッツォがFaceTimeを使って妻や家族と話をするのを手助けしました。メエロウィッツは言いました、「私がスマホを彼に向けると、彼はスマホに向かって『さようなら』と言って、それから彼は泣き出しました。傍らにいた私も泣きました。そんなやり取りが5回続きました。」と。スマホの向こうには、リッツォの妻、2人の子供、2人の兄弟の5人がいました。まもなくして、リッツォは完全にサイトカインストームの状態に陥りました。サイトカインストームとは、感染症や薬剤投与などの原因により、血中サイトカイン(IL-1,IL-6,TNF-αなど)の異常上昇が起こり,その作用が全身に及ぶ結果、好中球の活性化、血液凝固機構活性化、血管拡張などを介して,ショック・播種性血管内凝固症候群(DIC)・多臓器不全にまで進行する状態です。簡単に言えば、免疫系が暴走して過剰に反応する状態で、Covid-19によって引き起こされる重篤で致命的な症状です。
しかし、その後、病院が関節リウマチの治療に使用される希少で高価な薬トシリズマブを調達して投与した結果、奇跡的にリッツォは回復しました。彼は気管挿管が不要となり、3日後には退院しました。しかし、リッツォは電話で私に教えてくれましたが、退院後も1か月間は寝たきりで、頭がぼんやりする症状が続き、記憶障害に苦しんだそうです。彼は、そうした症状は、脳への酸素の供給が一時的に不足したことの後遺症だろうと推測しています。彼はまだ医師の仕事には復帰できていません。
メエロウィッツ62歳です。人生の半分で医療に携わってきました。彼は、リッツォの命が助かったのは、トシリズマブを投与したこととmRNAワクチンを接種していたからだと思っています。彼は、まさしく医学の進歩のおかげだと思っています。長期介護施設の入所者やスタッフが1月にワクチン接種が可能になった時、メエロウィッツは入所者にもスタッフにもワクチンを接種するよう促しました。入所者は全員接種しましたが、スタッフの3分の1は接種を拒否しました。メエロウィッツは言いました、「私が聞いた限りでは、宗教上の理由でワクチン接種を拒んだ人は1人もいませんでした。接種を拒否した人たちは、全員がワクチンに対して誤った認識を持っていました。例えば、血液型がO型だから新型コロナに感染しないと言う人がいました。これまで感染しなかったのだから、今後も感染しないと言う人、新型コロナは大した病気ではないからワクチンを打つ必要が無いと言う人、mRNAワクチンやベクターワクチン等の新しいワクチンは安全性が担保されていないと言う人もいました。悲しいかな、彼らのように大学で理学や看護学の学位を取っている人たちでもこんな認識しか持っていないのです!」
ニュージャージー州では233の長期介護施設で、現在Covid-19の集団感染が発生しています。州保健省の関係者が電子メールで私に教えてくれたのですが、去年の今頃は現在の2倍ほど集団感染が発生し、また、死者も多く出ていました。長期介護施設の全ての入居者とスタッフがワクチンを接種できるようになってから数か月経ちましたが、現在、州内の長期介護施設では、新型コロナに1日当たり数百人が感染し、数人が亡くなっています。数千人もの人たちが孤立感を感じています。というのは、そうした施設では面会や施設内で会食や交流も制限されているからです。ニュージャージー州では感染者等の数値をすぐに見ることができます。ほとんどの情報はWeb上で公開され誰でも見れます。また、私は州の保健省に連絡して詳細データを貰うこともできました。私は、同じようにニューヨーク州に長期介護施設についての同様の詳細データを請求したのですが、返答はありませんでした。しかし、Web上で入手可能なニューヨーク州のワクチン接種に関するデータを見る限りでは、ニュージャージー州と状況は似ていて、スタッフよりも入所者の接種率が高くなっています。ニューヨーク州の長期介護施設の入所者の80%以上が予防接種を受けています。一方、スタッフは70%弱しか接種していません。
メエロウィッツは、再度スタッフにワクチンを接種するよう説得してみようと考えました。彼は言いました、「私が重要であると思うこと、伝えたいことは、スタッフ全員に社会全体のことに配慮して欲しいということです。」と。彼は老人ホームにスタッフのワクチン接種を義務付けるよう要求したものの、そうした義務を既存のスタッフに課すことは労働契約上不可能でした。かろうじて新規に採用するスタッフには課すことができます。それは、どこの職場でも同じようです。イェール大学グローバルヘルス研究所の所長で感染症研究の権威サアド・B.オマルは4月初めに私に言ったのですが、ワクチン接種を義務化する上で最大の障害となっているのが、労働契約です。私がニュージャージー州保健省に質したところ、従業員にワクチン接種を義務化するか否かを決めるのは雇用主次第であるとの返答がありました。全米の1日当たりのワクチン接種者数は、この2週間の数値を見ると減り続けています。米国人の21%は、ワクチン接種が義務化されないならば接種を拒否すると言い続けています。
メエロウィッツが管理医師をしている老人ホームで発生した集団感染は、依然として1つの建物内に封じ込められています。しかし、4月21日(水)に、入所者1人と看護師1人、計2名陽性者が増えました。彼は、22日(木)に、私にテキストメッセージを送ってきました。「幸いなことに、1人も重症者はいません。全員が無症状か、軽い上気道炎があるだけです。」と記されていました。しかし、面会と交流活動は少なくともあと2週間は禁止されます。
以上
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