恐るべきDNAプロファイリングの実力!系図学者が協力により、沢山の未解決事件の犯人が特定されている!

5. DNAを調べればさまざまなことが判明するが、それは良い知らせではないこともある

 ムーアの家の窓の外には海が広がり、太陽がキラキラと輝いていました。ムーアのパソコンでは、「GEDmatch」のタブが開いていました。彼女は、GEDmatchのタブを指差しながら、「非常にシンプルな仕組みですね。」と言いました。それは1997年に作られたものでした。

 GEDmatchは、カーティス・ロジャーズが考案したものでした。ロジャースは1960年代~70年代にかけて、香港やフィリピンでQuaker Oats(クエーカー・オーツ)やMennen(メネン。訳者注:男性用制汗剤・消臭剤のブランド)などのブランドのマーケティングを担当していました。80年代にはフロリダに移ってキャンディストアを経営していたが、2000年代前半には廃業して系図作成を生業にしていました。

 ロジャーズは、テキサス州で交通運輸技術者をしていたジョン・オルソンと一緒にGEDmatchを作りました。オルソンの本職は、交通の流れを最適化するシステムを構築することでした。当初の目的は、家系図を比較するソフトウェアを作るのを支援することでしたが、難しい問題がありました。それは、家系図には何千人もの名前が登場し膨大なデータになるという点でした。すぐに、GEDmatchのサイトでは、常染色体DNAをセグメント別に比較できるようになりました。GEDmatchはフリーでオープンなサイトで、ボランティアによって運営されていました。無料で利用可能で、本格的な家系図作成をすることが可能でした。23andMeのサイトとは異なり、GEDmatchでは詳細な結果が提供されました。詳細な家系図を作りたい人は、民間のDNA検査会社で検査をして自分や家族のDNAのデータをもらって、GEDmatchのプラットフォームにアップロードするだけでした。

 ムーアは2011年にDNAのデータのアップロードを開始し、現在は家族や親戚等94人分のデータをGEDmatchのプラットフォームにアップロード済みです。彼女は、しばしば自らGEDmatchのサイトを使っていました。それによって機能がどれくらい改善されているかを随時チェックしていました。私がパソコンの前にいる時、彼女は自分の姉妹のデータを比較し始めました。パソコン画面には、22組の染色体の内の1組を表す横帯が表示されました。緑、黄、赤の縦縞がバーコードのように並んでいました。赤のストライプは、ムーアが2人の姉妹とDNAを共有していない部分を示していました。黄色は父親か母親のいずれかから引き継いだDNAを共有していることを示していました。緑は両方の親から同じDNAを受け継いでいることを示していました。

 ムーアが指差したのは、緑色の部分が185センチモルガンもある染色体でした。共有しているDNAが多いことを示していました。「つまり、2万7,803個のSNP(一塩基遺伝子多型)が並んでいるのです。」と彼女は言いました。「ほとんどの人が完全に同じセグメントを持つことはないでしょう。二重いとこ(双方の親が兄弟姉妹)の場合には共有は多いのですが、それでも、これほど共有することはないと推測されます。」と。

 私はムーアに質問してみました、「あなたは、それらの色分けをみて、姉とかいとこの関係であると推定できるほど、そのツールに精通しているのですか?」と。

 すると、彼女は「もちろんです。」と答えました。そして、手を止めて、もう一度パソコン上のバーコードのようなストライプを見直しました。「このような形をしているのは、”4分の3姉妹(兄弟)”であることを示しています。」と彼女は言いました。それは、彼女と共同研究者が考案した言葉です。父親が2人の娘との間でそれぞれ1人ずつ子をもうけたとします(あるいは、母親が2人の息子との間にそれぞれ1人ずつ子をもうけたとします)。そうすると、生まれた子供同士の関係は異母(異父)兄弟(姉妹)ということになりますが、同時に従兄弟(従姉妹)でもあります。通常の兄弟であればDNAの共有は50%ですが、この場合には37.5%を共有することになります。これを”4分の3姉妹(兄弟)”の関係と名付けたのです。そうしたことは特段珍しいことではなく、しばしば見られる現象です。

 次にムーアは別の例を見せてくれました。そこでは、両親から受け継いだ同一のSNP(一塩基遺伝子多型)が大量にあるのが色分けで分かりました。そのような場合、GEDmatchはユーザーに警告を発します。彼女は数年前から、そのようにSNPが異常なほど多い場合に、近親相姦か遺伝子異常のいずれが原因であるかを調べるために、データを分析するボランティアをしています。近親相姦と判明した場合には、ムーアはどうして近親相姦になったのか原因や環境等を詳細に調べます。また、近親相姦に関することで悩んでいる人々を支援する組織を私的に立ち上げましたが、その業務が膨大になったので、最近ではアシスタントにその仕事を引き継いでいます。彼女は言いました、「自分が近親相姦によって生まれたということを知って相談してくるメールを週に何通も受け取っていました。それは、個人がDNAを検査してもらった際に、親戚が連続殺人犯であることが判明する場合を除いて、最悪の事態です。」と。

 遺伝子に異常があると分かる場合も、非常に辛いものです。かつて、ある母親がムーアに恐ろしいニュースを伝えてきました。その母親の子供たちはドナーから精子の提供を受けて妊娠した後に生まれたのですが、いずれも重度の障害を持って生まれました。DNA検査をした結果、子供たちに見られた染色体異常は、明らかに彼女が選んだドナーではない高齢男性の精子から引き継がれたものであることが判明したということでした。

 ムーアはその母親にドナーを仲介して妊娠に関与したクリニックを知っていました。そこは、ユタ大学と提携しているクリニックでした。2012年、ムーアと先述の母親の夫は、そのクリニックが重罪犯を雇っていることを突き止めました(訳者補足:先述の母親に提供された精子はこの重罪犯のもの)。その重罪犯は、元教授で、かつて女性を誘拐したことがありました。誘拐した目的は、誘拐した女性が自分(元教授)を好きなるようにする「実験」を行うことでした。その元教授が在籍していた間に、クリニックには1,500組のカップルが訪れていました。調査が為され公式発表があったのですが、ユタ大学側はその元教授が何人に自分の精子を提供したかは把握できていないと認めました。ムーアは言いました、「身の毛もよだちます。恐ろしいことに、元教授は精子の入った小瓶を自分のものと勝手に入れ替えていたんです。」と。