What Happens When an “Infinite-Money Machine” Unravels
「無限のお金を生み出す機械」が崩壊すると何が起こるのか
After Michael Saylor’s software company Strategy stockpiled hundreds of thousands of bitcoins, he was hailed as an alchemist. Then things went awry.
マイケル・セイラー率いるストラテジー社が数十万ビットコインを保有した後、彼は錬金術師として称賛された。しかし、その後事態は暗転した。
By John Cassidy December 8, 2025
大金を稼ぐ最良の方法は何か?最も確実な方法は、誰もが買わずにはいられないもの、例えばコカ・コーラ、バーキン( Birkin )のバッグ、あるいはハリー・ポッター( Harry Potter )の書籍などを作ることである。だが、それは簡単ではない。もう一つの選択肢は、価値が上昇しているものを購入し、それを保有し続けることである。不動産や株式への投資は良い選択肢である。1900 年以降、S&P500 はインフレ調整後で年間平均約 7% のリターンを生み出している。10 年ごとに価値がほぼ 2 倍になる計算である。この実績に基づくと、20 代前半に株式市場への投資を始めれば、最初に投資した 1,000 ドルは退職年齢に達する頃には約 2 万ドルの価値になる。これはかなり良い数字である。ただ 40 年というのはあまりにも長い。永遠のように感じられる。また、株価指数ファンドはいささか古臭いものに思える。もっと斬新で、常識を覆すような刺激的な何かに投資するのはどうか?あるいは、もっと良いのは、他の人がそうしたことができるツールを発明して、あなたがその人に誰よりも早く思いっきり乗っかることである。それが実現できれば、あなたは間違いなく大金持ちになれるはずである。
2020 年 7 月、ビジネスソフトウェア企業マイクロストラテジー( MIcroStrategy )の会長兼共同創業者であるマイケル・セイラー( Michael Saylor )は、同社が保有する現金の一部をビットコイン( bitcoins )購入に充てると発表した。翌月、マイクロストラテジーは 21,454 ビットコインを 2 億 5,000 万ドルで購入した。1 ビットコインあたり約 11,650 ドルである。同社のソフトウェア事業の運営にビットコインは必要ではなかった。しかし、セイラーはビットコインは「現金を保有するよりも長期的な価値上昇の可能性が高い魅力的な投資資産」であると主張した。同年後半に同社は約 6 億 5,000 万ドルを借り入れ、さらにビットコインを購入した。2021 年 4 月時点では同社の保有するビットコインは 9 万以上に増えた。ビットコイン価格は 5 万ドル以上に上昇した。マイクロストラテジーには大きな含み益があった。
多くの投資家やメディアが同社の動向に注目し始めた。2021 年上半期に同社の株価は 50 ドルを超えた。同社がビットコインの購入を開始した時点ではたったの 15 ドル弱だった。当時、デジタル通貨は依然として主流の投資の世界からほぼ排除されていた。証券取引委員会( Securities and Exchange Commission )はいかなる投資信託や上場投資信託( E.T.F.s )にもデジタル通貨を保有することを許可していなかった。2021 年 7 月にメリーランド州のプロファンズ( ProFunds )という企業が、先物契約( futures contracts )を通じてビットコインの価値に連動する投資信託を立ち上げた。先物契約とは、百戦錬磨の投資家が価格に賭けるために利用できる金融商品( financial instruments )である。しかし、セイラーはよりシンプルな回避策( workaround )を売り込む機会であると認識していた。マイクロストラテジーの株を購入することで、投資家はビットコインを間接的に所有できるようになるのである。セイラーが後に述べたように、同社は一種のビットコイン ETF のようなものだった。2021 年末時点で、同社は少なくとも 12 万 5,000 ビットコイン を保有しており、その購入に 37 億 5,000 万ドル以上を投じている。
セイラーがビットコインを無責任さと巧みな言葉で宣伝しまくるようになったことが端緒になったのかもしれない。2022 年に「暗号の冬( crypto winter )」と呼ばれる仮想通貨の暴落が発生した。テラ・ルナ( Terra-Luna )や FTX など、有名な仮想通貨企業が破綻した。ビットコインの価値は約 70% 下落した。仮想通貨の崩壊を目撃していると考える者もいた。しかし、マイクロストラテジーはしぶとく耐えた。最終的に、仮想通貨市場は回復し、2024 年にはアメリカを「世界の仮想通貨の首都( crypto capital of the world )」にするとの公約を掲げたドナルド・トランプが大統領に再選された。ビットコインにとって輝かしい年となった。ビットコインが回復するにつれて、マイクロストラテジーの株価も上昇した。その後、同社はさらに株式と社債を発行し、数百億ドルを調達してビットコインを追加で購入した。昨年 12 月までに 44 万 7,470 ビットコインまで保有数を増やした。株価は 400 ドルを超え、株式時価総額は 800 億ドルを超えた。セイラーの資産は 100 億ドル弱と推定され、フォーブス( Forbes )誌は彼を「ビットコインの錬金術師( Bitcoin Alchemist )」と称した。
昨年、ビットコインの価格が2 倍以上に急騰した。多くの人がこのトレンドはいわゆるトランプトレード( Trump trade )の恩恵だと指摘した。たしかにトランプの各種施策が魔法のような現象に大きな役割を果たしたことは明らかだが、他の要因もあった。それは、見方によってはマジックと言えなくもないが、むしろ常軌を逸していると言ったほうが良い。マイクロストラテジーがビットコインの購入を拡大し、最終的に流通するビットコインの 3% 以上を保有したが、同社の購入がビットコインの価格を押し上げた。しかし、ここが魔法と言われる所以なのだが、同社の株価はビットコインよりも速いペースで上昇した。昨年末には、マイクロストラテジーの株式時価総額は保有するビットコインの価値の 2 倍以上まで上昇した。つまり、同社がビットコインの購入に投じた全ての 1 ドル札が 2 ドル以上の価値を持ったことになる。一部の観測筋は、セイラーのビットコイン戦略を「無限マネー印刷機( infinite-money machine )」あるいは「無限マネー引出機( infinite-money glitch )」と呼んだ。
さて、呼び方は様々あるわけだが、マイクロストラテジーの時価総額と保有するビットコインの価値の差は、同社の保有するビットコイン以外の資産の価値と解することができる。しかし、元々のソフトウェア事業にそれほどの価値があるわけではなく、説明不能である。セイラーを支持する者は少なくない。彼らはマイクロストラテジーが依然として投資に値する理由を 2 つ挙げている。第一に、ビットコインの価格はさらに大きく上昇する可能性がある。セイラーは 2045 年までに 1,300 万ドルに達すると主張する。第二に、マイクロストラテジーは一般株主の利益を増幅させる巧妙な方法を見つけていた。優先株( preferred stock )と後日株式に転換可能な転換社債を発行し、その資金でビットコインをさらに購入することで、マイクロストラテジーは普通株保有者に仮想通貨への「増幅されたエクスポージャー( amplified exposure )」を提供できるとしていた(訳者注:エクスポージャーとは、投資家が保有する資産がリスクにさらされている度合い)。これはレバレッジとも呼ばれ、借入金を使ってリターンを高める手法である。悪名高き空売屋ジム・チャノス( Jim Chanos )をはじめとする一部の懐疑論者は、この戦略は持続可能でないと疑問視したが、そうした警告は当時は受け入れられなかった。今年 2 月、マイクロストラテジーは決算発表と同時に社名変更を発表した。「本日、当社はストラテジー( Strategy )という社名に変更することを発表した。この新しい社名は、当社の普遍的かつグローバルな魅力を力強く、簡潔に伝えるものである」。
傲慢さが株価暴落の引き金となった。ストラテジーの株価は 7 月中旬に 450 ドルをつけた後、長期にわたって急降下し、11 月は 177.18 ドルで取引を終えた。セイラーとその支持者にとって、悪いニュースはこれだけではなかった。ストラテジーの株価が 60% 下落した間にビットコイン価格はわずか 25% しか下落していない。これは、ストラテジーの株式時価総額と保有ビットコインの価値の差が縮まってきたことを意味する。先月末までに、このプレミアムはほぼ消滅した。先週のある時点では、ストラテジーの株式時価総額(負債控除後)は保有ビットコインの価値総額を下回った。ブルームバーグ( Bloomberg )のコラムニストの言葉を借りれば、セイラーの無限マネー印刷機はバグった( glitch out )のである。
事態の深刻さを認識し、投資家の動揺を鎮めるため、ストラテジーはさらなる普通株式売却によって 14 億ドルのドル準備金( dollar reserve )を確保したと発表した。同社はこの資金を、今後 12 カ月間、各種優先株保有者への配当支払いに充てることができる。しかし、普通株主には配当金は支払われない。しかし、同時に発表したのだが、自社株の価値がビットコインの価値を下回り続ける場合、保有するビットコインの一部を売却する可能性があるという。今年 2 月にセイラ―は、「ビットコインを売ってはいけない」とツイートしていた。ビットコインの熱心な伝道者の 1 人である彼にとって、これまでなら考えられない行動である。もしストラテジーが保有するビットコインの一部を売却せざるを得なくなった場合、ビットコインと同社の株価はさらに暴落する可能性がある。
現在、ストラテジーは新たな困難に直面している。主要株価指数である MSCI 指数( MSCI Index )から同社株が除外される可能性がある。JP モルガンのアナリストは、これが数十億ドル規模の資金流出につながる可能性があると推測する。明るい材料もある。ビットコインの価格がここ数週間上昇している。これは、連邦準備制度理事会( FRB )が利下げをする公算が高まったことによる。金融市場への資金供給が増える可能性が高い。一部のアナリストは、過去に FRB の金利操作とビットコイン価格の上下動の間に相関関係があったと指摘している。それが正しければ、景気後退局面入りの阻止に注力しているジェローム・パウエル( Jerome Powell )議長や他の理事たちが、セイラーを含む仮想通貨亡者を意図せず救済してしまう可能性もある。
しかし、たとえそれが実現したとしても、ストラテジーが再び以前の栄光を取り戻すことは難しいだろう。セイラーが 2020 年に見つけたおいしい市場では、既に隙間は全て埋まっている。ビットコインマイニング企業のマーラ・ホールディングス( MARA Holdings )やトランプ・メディア&テクノロジー・グループ( Trump Media & Technology Group )、他に数十の上場企業が相当量のビットコインを保有している。また、証券口座( brokerage accounts )を通じてビットコインに直接投資したい投資家向けには、ブラックロックの” iShares Bitcoin Trust “など、現在 12 以上のビットコイン ETF が存在する。同 ETF は IBIT というチェッカーコードで取引されており、約 77 万 5,000 ビットコインを保有している。これは、ストラテジーの 65 万ビットコインよりも多い。
仮想通貨の世界では、何が起こるか分からないわけだが、現時点ではストラテジーに長年懐疑的だった人たちの正しさが証明されたと言って良いだろう。その中には、同社の株式を空売りし、同時にビットコインを買うペアトレード( paired trade )取引で利益を上げたと語るチャノスも含まれる。先週、彼はオンライン取引プラットフォーム「ロビンフッド( Robinhood )」が運営するニュースメディア「シャーウッド( Sherwood )」で 、「私たちの創業当初からの核となる信条は、そして今もなお核となる信条は、1 ドルの価値があるものに 1 ドル以上払わないことだ」と語った。多くの投資家がこのアドバイスに従い、且つ、ビットコインの価値が持続的に回復すれば、セイラーとストラテジーが利益を得る可能性はある。しかし、残念ながら、ストラテジーの無限マネー印刷機が再び回り出すことはないだろう。♦
以上
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