AI バブルはインターネットバブルと同様に弾けるのか⁉現時点ではわからない!

3.

 現状の AI が大量の労働者を置き換えることができないのであれば、なぜ多くの投資家が AI 業界に何兆ドルも注ぎ込んでいるのだろうか。1 つの答えは、多くの投資家がバブルに乗っかっているということである。彼らは SF 的なシナリオに騙されている、そうでないならば、そうしたシナリオが作り出した雰囲気に乗っかっているのである。先日、作家のコリー・ドクトロウ( Cory Doctorow )がシアトルのワシントン大学( the University of Washington )での講演で AI に関する自身の考えを述べた。「 AI はバブルであり、いずれ崩壊する」と彼は主張する。「ほとんどの企業は倒産するだろう。ほとんどのデータセンターは閉鎖されるか、部品として売却されるだろう」。では、 何が残るのだろうか。彼の答えは、基本的に何も残らないというものである。かつて AI に使用されていた大量の安価なコンピューターチップと、音声や動画の文字起こし、画像の説明文の生成、文書の要約、背景の削除や写真から通行人をエアブラシで消すなどの多くの手間のかかるグラフィック編集の自動化のためのソフトウェアツールが残るだけである。ドクトロウの推測では、AI モデル自体の運用コストが高すぎるため、廃止される可能性もあるという。その後に起こる経済崩壊に耐えることになる。現在 7 つの AI 企業が株式市場の 3 分の 1 以上を占めているわけで、決して起こり得ないことではないだろう。しかし、残念なのは、その苦境時には頼るべきチャットボットセラピストが存在していないことである。

 誇大宣伝が最高潮に達した時、アンチ誇大宣伝の波が起こるだろう。それは価値あるものになるだろう。しかしながら、アンチ誇大宣伝が、打ち破ろうとする誇大宣伝と同じくらい過激になってしまうというリスクもある。私は 1998 年から 2002 年まで、まさに第一次インターネット・バブル( dot-com boom )の絶頂期に大学に通っていた。大学の学費の大半は、ルームメイトと小さなスタートアップ企業を経営することで賄った。主に他のスタートアップ企業のウェブサイトやアプリケーションを開発していた。当時も今も、数え切れないほど多くの企業が、つじつまの合わない製品を提供していた。実際、私たちもそのうちのいくつかで働いたことがある。こうした企業の多くが破綻すること、あらゆる規模の投資家が多額の損失を被ることは容易に予測できた。それでも、その根っこにある技術、つまりインターネットは紛れもなく強力だった。現在の AI についても同じことが言える。

 しかし、インターネット・バブルと比べると、AI の歴史にはより奇妙なところがある。インターネットが登場した時、誰もそれでどうやって儲ければいいのか確信が持てなかった。それでも、技術自体はある程度完成しているという感覚があった。通信がより高速化し、接続網がより広範囲になることは明らかであった。もっと言えば、ストリーミング、e コマース、コラボレーション、クラウドストレージなど、インターネットの活用方法は既に広く認識されていた。余談であるが、2000 年頃に私とルームメイトの経営する小さな会社は、現在のスラック( Slack )に備わっているような機能の多くを備えた職場向けコラボレーションシステムの開発を依頼された。その後数十年にわたり、現代のインターネットを構築するために必要なエンジニアリングの努力は途方もないものとなった。例えば、クラウドを構築するには並外れた創意工夫が必要だった。しかし、インターネット自体の根本的な性質は、最初からほぼ確立されていたのである。

 AI の場合は事情が異なる。科学的な観点から見ると、AI の構築と理解の作業はまだ完璧には程遠い。この分野の専門家の間でも、今日の AI システムの規模の拡大が知能の大幅な向上をもたらすかどうかといった重要な問題について意見が分かれている。私見であるが、おそらく、さらなるブレークスルーによって生み出される新しいシステムが必要になるだろう。「知能( intelligence )」の意味といった概念的な問題でも意見が一致していない。現在の AI 研究が人間レベルの思考能力を持つシステムの発明につながるかどうかという極めて重要な問題に関しても、専門家たちはそれぞれ異なる見解を持っている。AI 分野の研究者は自分の意見を明確かつ力強く表明する傾向があるが、コンセンサスを得られた見解は存在していない。あるシナリオを作り上げようとする者は、同僚の多くの意見と意見が一致しない状況である。多くの研究者が、より優れた AI を構築し、何が機能するかを検証することで、AI に関する多くの疑問に経験的に答えを出していくだろう。つまり、AI バブルは単なるバブルではなく、科学的な不確実性と進化するビジネス思考の衝突なのである。

 現時点では、人工知能に関して大きな不明点が 2 つある。1 つ目は、企業が AI から価値を引き出せるかどうか、またどのようにそれを実現できるのかということである。多くの企業がその答えを見つけようと努力しているが、どこも成功しない可能性がある。2 つ目は、AI がどれほど賢くなるのかということである。しかし、1つ目の不明点については、いくつかの手がかりがある。AI を直に使った経験から言えることがある。AI を利用できることは非常に有益である。学習を支援し、能力を高め、人的資本をより有効に活用し、人的資本の増大に役立つ。また、ある程度の自信を持って言えるのだが、AI は人間が行う重要なことの多くを実行できない。特定の限定された状況を除いて、AI は人間に取って代わることはできない。それよりも、人間を支援する方が得意である。一方、2 つ目の不明点、つまり AI がはるかに賢くなり、世界を変革するほど賢くなるかどうかについては、ほとんど何も分かっていない。誰もがその答えを知りたいと望んでいるが、AI 専門家の間でも意見が一致していない。私たちがすべきことは、既に知っていることに基づいて行動することであり、将来についての推測でそれを覆さないようにすることである。♦

以上