Ukraine Dispatch ウクライナ侵攻は、正にジェノサイド!このままではウクライナは滅ぶぞ?

Daily Comment

Is It Time to Call Putin’s War in Ukraine Genocide?
プーチンのウクライナ侵攻は、まさしくジェノサイドである!

In international law, genocide has nothing explicitly to do with the enormity of criminal acts but, rather, of criminal intent.
国際法上、ジェノサイドという語は犯罪行為の規模の大きさによって定義されるのではなくて、犯罪意図の重大性によって定義されるのです。

By Philip Gourevitch March 13, 2022

 先月末、プーチンがウクライナを制圧すべく侵攻を開始した数日後のことでしたが、ヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は言いました、「今、我々の前で起こっていることを、正確に表現しなければなりません。ロシアの犯罪行為は、間違いなくウクライナに対する”ジェノサイド”である。」と。ゼレンスキー大統領は、かつて ホロコーストによって家族を失いました。また、彼は、大学で法学を専攻していたこともあり、”ジェノサイド”という語を使うにはそれなりに慎重でした。しかし、彼は、ロシアの行為はまさしくジェノサイドであると認識したので、最初のステップとしてハーグの国際刑事裁判所(ICC)に調査官を派遣するよう要請しました。しかし、そうした調査は何年もかかるものですし、”ジェノサイド”と認定されることはほとんどありません。(1998年にICCが設立されて以降、”ジェノサイド”と認定され起訴されたのはアフリカの数カ国のみです。ロシアは米国と同様に、ICCの司法権を拒否しています)。残念ながら、ゼレンスキーが訴えを起こすことができる法廷は世界に存在していないようです。彼が訴えかけられるのは、世界の世論のみです。彼の訴えかけは、確実に世界中に届いています。世界中の多くの人たちが、彼の主張は誤っていないと共感しています。ロシアが侵攻を開始してから2週間近く経ちました。プーチン大統領による民間人への無差別爆撃が激化しています。死者数が急速に増えています。250万人以上のウクライナ人が国外に脱出しました。多くの都市が包囲されていて、数百万人が容赦ない攻撃を受けています。攻撃が止む気配は無さそうです。ゼレンスキーはもはや外部の専門家に頼らず、最も直接的な表現でウクライナ人が直面していることを説明しようとしたのでしょう。火曜日(3/8)に彼は、ビデオメッセージで世界中に訴えかけました、「世界各国の指導者たちのロシアの侵攻を止めるさせるための行動は、全く不十分です。」と。そして、少し間をおいてから彼は言いました、「これは、間違いなくジェノサイドです。」と。

 ジェノサイドという語は、特定のアイデンティティを持つ集団のメンバーを標的として殺害し、根絶させることを指すと理解されています。ジェノサイドで最もよく知られている事例は、米国とカナダのネイティブアメリカンや先住民の根絶、オスマントルコによるアルメニア人の根絶、ホロコースト(ヨーロッパのユダヤ人の根絶)、1994年のフツ族によるルワンダのツチ族の根絶などです。いずれの事例においても途方もない数の死者が出たため、ジェノサイドは大量虐殺を意味するとか、劇的な人口の減少を意味すると捉えている者も多いようです。しかし、国際法上、ジェノサイドという語は犯罪行為の規模の大きさによって定義されるものではないのです。そうではなくて、1948年12月の国連総会で採択されたジェノサイド条約によれば、ジェノサイドは犯罪意図の重大性によって定義されるのです。

 ジェノサイド条約で、ジェノサイドは以下のように規定されています。
「ジェノサイドとは、特定の国民的、人種的、民族的、宗教的集団を全部または一部破壊する意図をもって行われる次の行為を言います。(a) その集団の構成員を殺害すること (b) その集団の構成員に身体的または精神的に重大な危害を加えること (c) その集団の全部または一部の肉体的破壊をもたらす生活条件を故意に課すこと (d) その集団内での出生防止措置を課すこと (e) その集団の児童を他の集団に強制的に移すこと。」

 その定義に照らし合わせると、プーチンが行っている侵略行為は、現時点では大量殺戮というほどの規模ではないかもしれませんが、ジェノサイドにという語を適用するのが適切であると思われます。プーチンの明白な目的は、独立国としてのウクライナを消滅させることです。あるいは、ウクライナをロシアに吸収することです。何を根拠に言っているのか分からないのですが、彼は、ウクライナはロシアに帰属するのが当然であると主張しています。彼は、ウクライナの国境に自軍を集結して、ウクライナ侵攻の準備を着々と進めている時に、必死に外交交渉を続けているフリをしていました。彼は、圧倒的な軍事力を見せつけることで、ウクライナの指導者層を戦うことなく屈服させることができると考えていたのかもしれません。2月上旬にフランスのマクロン大統領がモスクワまで飛び、プーチンの説得を試みました。共同記者会見が開かれたのですが、プーチンはまるでウクライナに直接語りかけるように、「ウクライナよ、好きにさせれもらうぜ!」と発言しました。そのセリフは、ロシアのパンクバンド”Krasnaya Plesen”(英語でRed Moldの意)の屍姦をテーマにした薄気味悪い曲の歌詞の引用でした。あからさますぎると考えたのか、プーチン政権は、その文言を公式記録から削除しました。また、報道統制を敷いて、この表現が世界中に流布するのを阻止しました。プーチンがウクライナを死んだも同然とみなしていること、好きなようにするつもりであることは明らかです。

 プーチンは全面侵攻を開始する際に演説を行いました。演説は不条理な虚言だらけでした。彼は、ウクライナという国が存在していることが誤りであると断じ、ウクライナの現政権の正当性を否定しました。侵攻には、ウクライナを「脱ナチス化」するという人道主義的使命があると主張していました。ウクライナ国民が選んだ指導者による圧政と虐殺からウクライナ国民を守り、その指導者を裁判にかけるべきだと主張していました。プーチンの世界観はかなり倒錯しています。彼は、ロシアの侵攻は、ジェノサイドや戦争犯罪には該当しないし、民主主義に対する脅威ではないと主張しています。ロシアへの非難はお門違いであるし、馬鹿げていると主張しています。それは、ロシアが良く使う “accusation in a mirror”(鏡の中の告発)というプロパガンダの一手法です。 “accusation in a mirror”とは、自分が被害者に対して行おうとしていることを、被害者が自分にしようとしていると言い張って非難することです。ホワイトハウスのジェン・サキ報道官が最近ツイートしていました、「今回のプーチンの発言を聞いて、いつものロシアの常套手段だと思いました。ロシアの過去の発言を見れば明らかです。ロシアは、自国が違反行為を犯すと、毎度のことですが、逆に西側がそれをしているとして非難をするのです。」と。ゼレンスキーはもっと簡潔に言いました、「ロシアが何を計画しているかを知るのは簡単なことです。ロシアが他国の計画を非難していたら、その計画がロシアの企てていることなのです。」と。

 おそらく、プーチンは、ロシアの巨大な軍事力を前面に打ち出せばほとんど抵抗を受けずに速やかにキエフを占領できると予想していたのでしょう。また、ゼレンスキー政権をロシアの意のままに動かせる傀儡政権に置き換えることもできると予想していたのでしょう。侵攻が始まって3日目、ロシア軍が弱さを見せ始め、ウクライナ軍の意外な強さが認識され始めた頃でしたが、ロシア国営テレビにて、キエフでプーチンの勝利と新しい世界秩序の幕開けを祝う番組が放映されました。その番組は、事前に準備していたものでしょう。その映像はすぐに差し替えられましたが、保存した人もいるようで、今でもネット上に存在しています。その映像には、プーチンの意図が如実に現れていたようです。第三帝国の喧伝手法を真似たようなプロパガンダ映像の中に、プーチンと側近たちの他国を征服したいというあからさまな野心が透けて見えていました。

 その番組では、以下のようなナレーションがありました。
「ウラジーミル・プーチンは、ウクライナ問題の解決を後世に委ねないという決断をしたのです。彼は、重大な歴史的な責務を果たそうとしているのです。結局のところ、ウクライナ問題が解決されなければ、いずれロシアに火の粉が飛んでくるのです。ですので、解決しないわけにはいかないのです。 . . .(略). . . 今、全ての問題は解決し、ロシアは再びウクライナを編入しました。 . . .(略). . . ロシアは西側諸国の野望を食い止めただけでなく、西側諸国の覇権が終焉を迎えつつあることを示したのである。」

 しかし、そうしたプロパガンダが功を奏することはないようで、現実には、ロシアの評判は、ルーブルの下落と同様で、地に落ちたも同然の状態になっています。そうした状況にあっても、ロシアが大量殺戮の手を緩める気配は全く無いようです。プーチンは出口戦略など考えていなかったでしょう。ですので、戦況が想定通りに進まず悪化すると、プーチンはウクライナへの攻撃をさらに強化しようとするでしょう。ウクライナの民間人や軍事施設以外への攻撃も辞さないでしょう。実際、ロシア軍は、チェチェンやシリアでそうした行動をとり、多くの街が廃墟と化しました。プーチンは、侵攻によってロシアが没落したという屈辱感を拭い去ろうとしたのですが、その侵攻も上手くいっておらず深みにはまっています。侵攻が開始されてから、まだ3週間しか経っていないのに、プーチンは核兵器の使用をちらつかせています。それほど、彼は切羽詰まっているのです。

 ゼレンスキーはロシア軍の攻撃にさらされる日々を送りながらも、自国は主権と独立を守るために専制主義的な独裁者と戦っているのだと世界中にアピールし続けています。彼のアピールは世界中に届いています。素早く並外れた規模の援助が為されていますし、ウクライナを支持する国々との連帯感も強まっています。武器の供与、情報共有、人道支援が大規模に行われていますし、ロシアに対して厳しい経済制裁措置が課されています。しかし、そうした大規模な支援等も、残念ながらロシアの侵攻の脅威からウクライナを救うには十分では無いのです。追い詰められつつあるゼレンスキーは、キエフの地下壕で世界に向けて演説を行いました。彼は、ウクライナ上空に飛行禁止空域を設定すべきであると世界中に訴えています。彼が主張していたのは、ウクライナ侵攻の責任はロシアにのみあり、いずれその報いを受けるということです。また、彼は、NATOがウクライナ上空に飛行禁止空域を設けない限り、ロシアの攻撃がNATO加盟国に拡大するのは時間の問題だと警告しています。

 火曜日(3/8)にゼレンスキーは言いました、「今、全世界が協力しなければ、取り返しが付かないことになるでしょう。無条件に守られなければならないものが、奪われそうになっているのです。地球上で最も大事なものである、人の命が大規模に奪われそうな危機にあるのです。」と。そして水曜日(3/9)には、ロシア軍がマリウポリにある産婦人科病院を爆撃した後のことでしたが、彼は世界中に訴えかけました、「世界はいつまでロシアのテロ攻撃に対して無視を続けるのか?無視することは、ロシアの共犯者となることと同じだ!今すぐ飛行禁止空域を設定すべきだ!」と。先週、ハリコフ市長とマリウポリ副市長とゼレンスキーは、プーチンの侵攻はジェノサイドであると非難し、病院への爆撃は「ウクライナ人に対してジェノサイドが行われている決定的証拠」であると主張しました。そして、彼はヨーロッパ各国の首脳に向けて支援を促すべく言いました、「ご覧のとおりです。いつまで、見て見ぬ振りをするんですか。」と。

 現在もウクライナに対するロシア軍の大々的な攻撃は続いています。そのことは世界中の人が認識しています。民間人が殺されていますし、病院や避難回廊や宗教施設や図書館や博物館やホロコースト資料館等に対してもロシア軍は爆撃を行っています。しかし、ロシア軍はそうした事実を恥ずかしげもなく否定しています。それどころか、そうしたことは虚偽であると主張し、ロシア軍の軍事行動を「戦争」や「侵略」として報道すると、15年の禁固刑に処するという法律を成立させました。ゼレンスキーは、NATO加盟国の多くをこの紛争に参加させようとしていますが、それはこれまでのところ上手くいっていません。NATO加盟国の多くが、過去にジェノサイドや残虐な大量殺戮行為が他国で行われていても救いの手を差し伸べませんでした。それどころかジェノサイドに関与してきた国もいくつかあります。ですので、ウクライナでジェノサイドが行われていると認識していても、各国がウクライナに深入りしないことは不思議なことではないのです。現在ゼレンスキーが飛行禁止空域を設けて欲しいと訴えかけている国々は、プーチンの悪意や残忍さを認識していますし、それを放置すれば大変な結果になることも認識しています。また、ロシアに肩入れするとか、ロシアと協力しようという気もさらさら無いでしょう。それでも、ゼレンスキーの望むような行動はとらないでしょう。ゼレンスキーは、各国首脳に現実を良く見て欲しいと訴えかけていますが、むしろ、現実を認識していないのは彼自身なのです。世界は、未だかつて、核兵器の使用をほのめかしながら大量殺戮を行う独裁者と対峙したことはないのです。ですので、NATO各国首脳も迂闊に動くことができないのです。

 木曜日(3/10)にポーランドを訪問した米国のカマラ・ハリス副大統領は、ロシア軍による残虐行為を調査する必要があると言っていました。しかし、ハリス副大統領はジェノサイドとか戦争犯罪という語の使用は避けていました。それに比べると、ハリス副大統領の隣で演説したポーランドのアンドレイ・ドゥダ大統領は立派でした。そうした語を使うことを躊躇しませんでした。ドゥダ大統領は、ロシアの侵攻はまさしくジェノサイドであり、ウクライナ人の抹殺とウクライナの破壊が行われていると主張しました。ハリス副大統領もドゥダ大統領も、ゼレンスキーの飛行禁止空域の設定をして欲しいという要望に応じる気配はありませんでした。バイデン大統領は金曜日(3/11)に、飛行禁止空域は設定しないと明言しました。バイデン大統領は言いました、「ウクライナで第3次世界大戦を戦うつもりはない。」と。結局のところ、世界はロシアの侵攻に対して正しく対処できず、ウクライナは見殺しにされるのかもしれません

以上