Is Larry Summers Really Right About Inflation and Biden?
ラリーサマーズはインフレ懸念を表明し続けている。彼の主張は本当に正しいのか?
The Harvard economist is getting plaudits for the warnings he issued early last year, but some Administration officials and economists are questioning the basis of his arguments.
ハーバード大学のエコノミストは、昨年初めに警告を発したことに対して賞賛を集めているが、一部の行政当局者やエコノミストは彼の主張の根拠に疑問を投げかけている。
By John Cassidy April 8, 2022
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物価が高騰し、賃金の上昇がそれに追いつかない中で、FRBが利上げに踏み切りますが、ハーバード大学のエコノミストで元財務長官のラリー・サマーズが、いろんなところで自分の主張を開陳しています。先週は、タイムズ紙のコラムニストのエズラ・クラインが自身のポッドキャストでサマーズと討論をしていました。サマーズは、ブルームバーグ・ニュースでコメンテーターも務めていますし、ワシントン・ポスト紙にコラムも書いています。彼の最新の記事には、「FRBが現在の政策を続ければ、スタグフレーションが引き起こされ、・・・(中略)・・・最終的には大不況に陥る可能性が高い 。」との記述があります。
現在、サマーズは67歳ですが、これまでも自分の見解を述べることを躊躇しませんでしたし、思っていることを自由に述べてきました。過去には、グローバリゼーション、金融規制緩和、女性の科学分野での活躍、2009年のオバマ大統領の景気刺激策(彼自身が国家経済会議議長として策定に携わった)に対する彼の見解が、論争を巻き起こしたこともありました。しかし、彼はインフレが進行し経済が大混乱に陥る可能性があることをいち早く警告していましたので、各方面から賞賛を浴びています。その一方で、バイデン政権関係者や一部のエコノミストは、サマーズの主張の根拠を疑問視しています。今週はじめに、私はその何人かと話をしました。また、サマーズ本人とも話をしました。
サマーズは、2021年2月に発表したコラムで、バイデン大統領が提案していた1.9兆ドルの新型コロナ対策の景気刺激策の規模の大きさに疑問を呈していました。それは、翌月に下院で承認されましたが、そのコラムには「規模が大きすぎる。第二次世界大戦後に行われたマクロ経済刺激策に匹敵する規模であり、この30年間で目にしたことの無い規模のインフレが引き起こされる可能性がある。」と記されていました。そのコラムが掲載された時点では、消費者物価(CPI)のインフレ率は2%以下でした。それが今では、7.9%です。シカゴ大学のエコノミストでオバマ政権で経済諮問委員会委員長を務めていたオースタン・グールスビーは言いました、「ラリー・サマーズがインフレの危険性を見抜いたことは評価に値します。2021年初めの時点で、インフレの危険性があると主張していたのは、2008年以降毎年ハイパーインフレを予測していた人たちだけでした。」と。
とはいえ、グールズビーは、サマーズが過去12ヶ月間にインフレ率が2倍や3倍に跳ね上がった原因を正確には分析できていないとも指摘しています。グールズビーによれば、サマーズのインフレ率上昇の原因の分析は、必ずしも事実に裏付けられたものではないそうです。サマーズは、バイデン大統領の「アメリカン・レスキュー・プラン」は米国経済に膨大な需要を喚起する役割を果たしたが、FRBが物価上昇に対して迅速で適切な行動をしていないと主張しています。それに対し、グールスビーや他のエコノミストの多くが、インフレ率の急上昇は新型コロナの影響が大きいと主張しています。特に新型コロナの影響で世界規模でサプライチェーンが混乱したことと、米国で労働市場がひっ迫し賃金が急上昇していることが大きく影響していると主張しています。グールズビーは言いました。「インフレ率急上昇の原因については、さまざまな主張があり議論が交わされています。しかし、あまりにもインフレ率が急激に上昇してしまった衝撃が大きいせいか、まだまだ冷静な分析が十分には行われていないようです。しかし、インフレ率急上昇の原因を分析することは、インフレを防ぐためにはどうするべきかとか、インフレが起こった時にどう対処すべきかを知る一助となりますので、非常に重要なことなのです。」と。
サマーズがインフレ率急上昇を予見していたことを称賛するためにく、まず必要なことは、彼が予測していたことは何であったかを明らかにすることです。2021年3月19日にブルームバーグの番組 「Wall Street Week 」に出演した際に彼は、「今後数年間でインフレが起こり、1966~1969年に起こったようなスタグフレーションに陥る確率が3分の1程度ある。」と述べていました。さらに、サマーズは、「インフレが起きない確率も3分の1ある。起きない理由は、FRBが強くブレーキをかけ、市場が非常に不安定になり、景気が急激に後退することにある。」と指摘していました。また、「FRBと財務省が望んでいた通りの結果になる確率が3分の1あり、急激なインフレは起こらずに経済が順調に成長する。」とも主張していました。サマーズはさまざまな予測をしていたわけですが、そのことについて、長年に渡ってFRBを取材してきて現在はSGHマクロアドバイザーズの米国のチーフエコノミストを務めるティム・デュイが先日コメントしていました、「彼は、確かに非常に早くからインフレが起こると予測し警鐘をならしていました。でも予測が当たったと言えるのでしょうか。複数のシナリオを挙げていて、必ずどれかは当たるようになっていたのです。ですので、予測が当たったというわけではないのです。」と。
サマーズは、2021年に入ってインフレ率が急激に上昇し始めた頃、インフレに対する懸念を強く表明していました。彼は、その年の9月のインフレ率が5.4%に上昇したことを受けて、ブルームバーグの番組で、「このインフレは、まさに中央銀行の時代遅れの施策に由来するものである。」と述べていました。現在、彼は、ウクライナ紛争によって、エネルギーやコモディティ価格の上昇による影響を受けるので、インフレ圧力がさらに急激に高まっていると警告を発しています。また、現在の状況を、ガソリン価格の急上昇によってインフレ率が急上昇した1970年代と似ていると指摘しています。当時、インフレの影響によって、カーター政権の支持率は非常に悲惨な数字になりました。先週、サマーズはクラインに語っていました、「1960年代後半から70年代初頭にかけて、米国では需要が過度に拡大していました。それは政策の失敗によるものだったのですが、それによって急激なインフレが起こる下地が出来ていました。そうした時に、オペック等の産油国が供給を絞ったことで、本当にひどい状況に陥りました。激しいインフレが起こり、マクロ経済の大混乱が引き起こされたのです。さまざまな側面から分析すると、現在の状況は、当時の状況に非常に良く似ています。」と。