Israel’s Momentous Decision
イスラエルの重大な決定
After Iran’s dramatic but largely ineffective attack, Benjamin Netanyahu’s response will have tremendous consequences.
イランの大規模ミサイル攻撃が効果を挙げなかったことは、ベンヤミン・ネタニヤフ首相の対応は抑制的にする可能性がある。
By Dexter Filkins April 14, 2024
ガザでの残虐な戦争に巻き込まれた上に全世界から非難を浴びているイスラエルだが、今週末には文句なしの勝利を収めた。土曜日( 4 月 13 日)の夜、イランがイスラエル領土に向けて 300 発以上のミサイルとドローンを発射したが、イスラエル国防軍( IDF )はほぼすべてを撃ち落とした。この国の政治的・安全保障上のジレンマは、おそらく建国以来 76 年間の歴史の中で直面したどのジレンマよりも大きいに違いないが、一時的に脇に置くこともできるかもしれない。ジョー・バイデン大統領はベンヤミン・ネタニヤフ首相に「勝利を掴め( Take the win )」と語った。同時に、反撃することによって地域戦争を引き起こさないよう促した。ただし、ネタニヤフ首相がこの忠告にどこまで耳を傾けるかは不明である。
今月初めにイスラエルは、ダマスカスのイスラム革命防衛隊上級司令官のモハマド・レザ・ザヘディ( Mohammad Reza Zahedi )准将を暗殺した。今回のイランによるミサイルとドローンによる攻撃は、それを受けてのものである。大量のミサイルとドローンによる攻撃はほとんど損害を与えなかったかもしれないが、これは前例のないものであった。そもそもイランは、何年にもわたって諜報戦を繰り広げているが直接的な攻撃は控えてきた。また、イスラエル領土を直接攻撃したのは初めてのことであった。イスラエルの防空網をかいくぐったミサイルが膨大な数の死傷者を出す可能性もあった。イラン側はネバティム( Nevatim )の空軍基地を含む軍事施設を攻撃目標としていたようであるが、多くのミサイルがエルサレムやその他の民間人居住地域の上空で撃墜された。イスラエルの防空システムのアイアンドーム( Iron Dome )やアロー3( Arrow 3:大気圏外極超音速対弾道ミサイル)のお陰で、負傷した者はベドウィンの少女 1 人のみであった。
イスラエルには、アメリカ、イギリスからの支援があった。驚くべきことに、ガザの戦争が始まってから急激に関係が悪化していた隣国ヨルダンからの支援もあった。日曜日( 4 月 14 日)の早朝、ヨルダン軍は自国領空を侵犯しイスラエルに向かっていた多数のドローンや巡航ミサイルを撃墜した。あまり知られていないが、アメリカ軍のレーダー追尾システムは中東全域に張り巡らされている。その一部はアラブ諸国にもある。それらの国々は、イスラエルと連携していると非難されたくないので、そのことをひた隠しにしている。レーダー追尾システムがイランのドローンとミサイルの迎撃に役立った。トランプ政権時の国家安全保障会議のメンバーで、ワシントン近東政策研究所( the Washington Institute for Near East Policy )のシニアフェローのアンドリュー・タブラー( Andrew Tabler )は、「この地域全体に構築されたミサイル迎撃システムが威力を発揮した。」と語った。「各国がそれぞれの任務を果たした」。
攻撃が奏功しなかったことが明らかになると、一部の中東専門家は、イランの今回の攻撃は見せかけのものだったと主張した。彼らの主張は、イランが全面的な戦争に発展する可能性を排除することを意図して、大規模ではあるが見掛け倒しの攻撃を仕掛けたというものである。ジョージ・W・ブッシュ政権時の国家安全保障会議メンバーのマイケル・シン( Michael Singh )は、イランの攻撃は「パフォーマンス的」であったとツイートした。そうした主張を裏付ける証拠もいくつかある。イランは攻撃を仕掛ける数日前に電報で通告し、イスラエル国防軍に十分な準備期間を与えた。イランのドローンやミサイルの発射は一斉ではなかった。波状的に発射した理由は、容易に撃墜できるようにするためだったのかもしれない。また、イランはより大型でより精密な攻撃ができる弾道ミサイルは使用しなかった。それを使えば、イスラエルの防御を突破する可能性はかなり高かったであろう。
この攻撃にはイランの同盟国も関与している。ミサイルのいくつかは、イエメン、イラク、シリアから発射された。イランはそれらの国々の軍を支援し育成してきた。イスラエル北部国境付近のレバノンの民兵組織ヒズボラ( Hezbollah )も、ゴラン高原にカチューシャ・ロケット弾(ロシア製自走式多連装ロケット弾)を数発撃ち込んだ。ヒズボラは以前からこの攻撃を散発的におこなっており、イランに歩調を合わせたものではなかった。10 月 7 日以降、ヒズボラとイスラエル国防軍はほぼ毎日ミサイルを撃ち合っている。国境の両側で膨大な数の民間人が移転を余儀なくされている。イスラエルのパイロットはヒズボラとハマスの指導者層を殺害するためにレバノンに深く入り込んで攻撃した。血なまぐさい小競り合いが続いているものの、依然として戦域は限定されている。
今回の攻撃の失敗は、イランの指導者たちを深く困惑させたに違いない。「もし今回のイランのミサイル攻撃でイスラエル側に何百人もの死者が出ていたなら、イランの指導者たちは大喜びしたに違いない。」と、元 CIA 幹部で民主主義防衛財団( the Foundation for the Defense of Democracies )主任研究員のロイエル・ゲレヒト( Reuel Gerecht )は私に語った。しかし、ミサイルとドローンでイスラエルに攻撃を仕掛けるということには、たとえ先方に死傷者が出なくとも、少なくとも象徴的な意義がある。ミサイルが発射された時、イランの多くの国会議員が議場で「イスラエルに死を!」と叫んでいた。その後、イランの指導者たちは、イスラエルが報復しない限り、これ以上の攻撃は行なわないとの声明を出した。
最大の問題は、イスラエルがどのように対応するかということである。1948 年以降、あらゆる攻撃に対して、より強力な武力で報復することがイスラエル防衛政策の基本となっている。しかし、現在の状況下で同様に反撃を試みれば、アラブ世界全域に戦火が広がる可能性がある。リスクは非常に高い。過去 30 年間、イランはシーア派勢力が牛耳る同盟国の政府軍や非正規軍を支援し育成してきた。そうした軍がアラブ世界には点在している。ヒズボラやハマスだけではない。イエメンのフーシ派、シリアのアサド政権、イラクのシーア派民兵組織などである。これらの勢力に対するイランの指導者たちの影響力は非常に大きい。イランは、自国の安全保障のためにそれらの組織を上手く利用している。何年にもわたってイスラエルやアメリカ人を攻撃させている。2006 年にヒズボラの戦闘部隊が国境を越境すると、イスラエルとヒズボラの間で 34 日間にわって激烈な戦闘が繰り広げられ、レバノンの大部分が廃墟になった。イスラエルとイランの間で全面的な戦争が起これば、中東全域に同様の惨状が広がる可能性が高い。ヒズボラだけでも、少なくとも 10 万発のロケット弾やミサイルを保有していると推定される。国内の至るところに発射基地を張り巡らせている。
10 月 7 日のテロにおけるイランの役割は完全には明らかになっていない。イランがハマスのメンバーを武装させ、訓練したことは確かだが、攻撃計画を支援したという証拠は存在していない。いずれにせよ、実戦経験豊富なハマスの軍司令官ヤヒヤ・シンワール( Yahya Sinwar )は、10 月 7 日の攻撃がイスラエルに対するより広範な戦争の火種になることを望んでいたことを明らかにしている。彼の目論見通りにはならなかったわけだが、完全に失敗したわけではない。過去 6 カ月間、フーシ派民兵は紅海を通過する欧米の船舶を繰り返し攻撃して世界経済を混乱させ、ヒズボラはイスラエル北部への限定的なミサイル攻撃を開始している。今月初めにイスラエル国防軍に殺害されたイランのザヘディ准将は、ヒズボラの作戦を指揮するためにシリアにいた。2022 年以降、イスラエル空軍はシリアで革命防衛隊の司令官を 20 人以上殺害している。イスラエルの目的は、イランのヒズボラへの支援を断ち切ることであり、イランが進めている核開発計画を妨害することでもある。おそらくイランはかなり核兵器製造に近づいている段階にあると推測される。
イランの核兵器は、イスラエルが直面する国家安全保障上の最大の脅威である。狭いイスラエルの国土の大部分を破壊できる核兵器をイランが保持すれば、イスラエルの安全保障政策を劇的に変化させるだろう。既に世界で最も不安定な地域となっている中東に新たな危機感を植え付けるだろう。
ここ数年、イランの核開発計画に対する制裁はほとんど機能していなかった。トランプ大統領がオバマ政権時代にイランと結んでいた協定を破棄して以来、カビール砂漠のフォルドー( Fordow )にある地下核施設ではウラン濃縮のペースが大幅に上がっている。原発の運転に必要な濃度をはるかに超えるまでになった。イランは少なくとも 3 つの核兵器を製造するのに十分な量のウラン 235 を濃縮したというのが大方の見方である。今年初め、イラン原子力庁の元長官のアリ・アクバル・サーレヒー( Ali Akbar Salehi )は、イランは「核開発技術のすべての閾値」を越えたと宣言した。
もしイスラエルがイランを直接攻撃することになれば、イランの指導者たちの最高指導者アリー・ハメネイー( Ali Khamenei )に対する接し方も変わるだろう。これまではハメネイーが核兵器開発を強引に推進しようとするのを抑制してきたが、抑制することができなくなるだろう。「ハメネイーが核武装をしないことを選択し、通常兵器で必要なものは全て手に入れたと考えている可能性もある。」とゲレヒトは言う。「もしそうなら、イスラエルはハメネイーを刺激したくないはずである」。
イスラエル政権中枢にも、熾烈な戦闘に辟易としている者が少なからずいるようである。イスラエルの大統領アイザック・ヘルツォーク( Isaac Herzog )は、イランがミサイル攻撃を受けた直後に、「これは宣戦布告だ。」と発言した。しかし、直後に、「建国以来、イスラエルがこの地域で求めているのは、戦争をすることではない。我々は平和を希求している。」と付け加えた。ネタニヤフ首相はイランへの対応を検討しているが、バイデン大統領も意見を述べるに違いない。10 月 7 日以降の数日間で、バイデンはその迅速かつ力強い対応でイスラエル国民から大きな信頼を得た。ガザ自治政府の発表によれば、死者数は 3 万 3,000 人を超え、今も増え続けているという。ガザでは、4 月上旬に人道支援団体ワールド・セントラル・キッチン( World Central Kitchen )のスタッフ 7 人もイスラエル軍の空爆で死亡している。イスラエル国防軍は誤攻撃を認め謝罪した。ネタニヤフ政権が戦争の終着点やガザの将来についての政治的ビジョンを明確に示せないままであるため、アメリカでは反イスラエルの世論が日増しに高まっている。先日、イスラエルの最も強力な支持者の 1 人である上院の与党・民主党のトップであるチャック・シューマー院内総務は、ネタニヤフを国事より自身の政治生命を優先しているとして非難し、イスラエルで新たな選挙が開かれるべきだと主張した。ナンシー・ペロシ元下院議長は、人道支援スタッフ殺害に関する調査が完了するまでイスラエルに対する軍事支援を中止するよう議会に求める書簡に署名した。
人道支援に当たる者が殺害された直後に、バイデンはネタニヤフ首相に強硬姿勢を改めるよう迫った。イスラエル政府に、ガザへの主要な出入口の 1 つであるエレズ( Erez )検問所を再開することに同意させた。人道支援はスムーズに行なわれるようになった。イランのミサイル攻撃に対するイスラエル国防軍の見事なパフォーマンスによって、イスラエルの被害は微小だった。そのことは、バイデンがネタニヤフに報復を思い留まらせるよう説得する際の材料になった。今後数日間、バイデンはハマスの最後の砦となっているガザの都市ラファ( Rafah )への地上部隊投入計画を思い留まらせるよう圧力をかけるだろう。ラファは攻撃の矢面に立たされている 100 万人以上のパレスチナ市民の避難所となっている。イランと同盟国は、ラファの惨状をプロパガンダの格好のネタとして活用するつもりである。シンワールほど地域全体を流血の海にすることを切望している指導者はいない。彼は一貫してイスラエルを泥沼に誘い込もうとしているのである。2001 年 9 月 11 日の同時多発テロを受けて、アメリカは挑発に乗ってしまって過剰に反応したところがある。イスラエルは同じ轍を踏むべきではない。この状況でバイデンがすべきことは、ネタニヤフ首相に自制するよう最大限の圧力をかけることである。
日曜日( 4 月 14 日)にホワイトハウスで行われたブリーフィングで、バイデン政権高官は、心配そうな表情の中に、感心したような、あるいは安堵したような表情を垣間見せた。イスラエル軍がイランの無数のミサイルとドローンをほぼ完璧に撃墜したことが、そうさせたのだろう。ある高官は、イスラエル国防軍が「桁外れの軍事作戦遂行能力」を有していると評した。「われわれの目標は地域の緊張を緩和することである。」とその高官は語った。♦
以上
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