Z世代とかX世代とか、“Generations”(世代)って良く使われるけど、意味あるの?

2.世間で言うほど世代間に違いは無い

 「The Generation Myth」(Basic社刊:本邦未発売)の著者であるボビー・ダフィは、世代という概念は役に立っているものの、人々が考えるほどには役に立っていないと主張しています。ダフィはロンドン大学キングスカレッジの社会​​科学者です。彼の主張によれば、世代という概念は、思考、信条、行動に変化をもたらす3つの要因の内の1つにすぎないということです。他の2つは、歴史的出来事と”ライフサイクル効果”だと彼は主張しています。”ライフサイクル効果”というのは、年齢を重ねると人々は年老いることによって思考等も変わってしまうということです。彼の著書「The Generation Myth」は、圧倒的な数のグラフと統計資料が掲載されており、歴史的出来事とライフサイクル効果と世代が関与しあって、さまざまなものに変化をもたらしていることを例証しています。人種差別に対する意識、幸福度、自殺率、支持政党の変化等、それこそありとあらゆるものの変化はその3つの要因で説明することが出来るとされています。

 ダフィが全世代を研究して得た洞察は、世間一般では世代間で思考等が違うと論じられているものの、実際には世代間には言うほど大きな違いが無いということです。また、決して正しくないのに世代間で違いがあるように論じられている理由の1つは、コンサルティング企業やマーケティング企業にあると彼は考えています。彼の調査によっれば、2015年に米国の企業が世代別コンサルティングに投じた資金は約7千万ドルとのことです(実際にはそれほど多くはないようです)。彼は言いました、「あなたの職場を思い出してみてください。能力や仕事の取り組み方は、世代ごと違っていますか?」と。そして、彼は自ら答えました、「個々人で違いはあるものの、世代ごとの違いなどあるはずがありません。」と。

 ダフィは、沢山のデータを駆使して、巷に流布している世代ごとの特徴とされているものが全く根拠の無いものであることを分かり易く証明しています。若い世代は、”Loneliness Epidemic(慢性的な孤独感)”を感じている者が多いとか、自殺率が上昇しているなどと言われることが多いのですが、それらを証明するものは何も無いと彼は説明しています。また、米国でも英国でも若い世代では性交渉の回数が減っていると言われていますが、それは若い世代だけの特徴では無く、全世代で共通することだと指摘しています。

 ダフィが著書の中に記しているのですが、米国においては、性別に関する考え方は年齢とか世代よりも支持政党と密接に関連しており、欧州においては、気候変動に関する認識は年齢による差異は無いのです。彼は、そうした事実から、年齢とか世代によって思考や信条が大きく異なることは無いと論じています。Z世代(1997年~2012年生まれで、現在の大学で学んでいる人たちを中心とする世代)は、他の世代よりも倫理観を重視した行動をとると言われていますが、それを証明するデータは何もありません。実際には、不買運動やキャンセル・カルチャー(米国を中心に全世界に拡大した社会運動の一つで、著名人の数分前から数十年前の言動を告発し、表舞台から引き摺り下ろす行動)というのは、中年層に特徴的なものです。彼は、世代に関して誤った認識や決め付けが流布することを懸念しています。例えば、Z世代は楽観的な考えはあまり持たず、現実に即した行動・考えを取る傾向があるなどといったものです。そうした根拠の無い決め付けや誤ったステレオタイプが広まることは、世代間の緊張を高めるだけです。