4.〇〇世代は△△だと特徴付けるのは不可能である
4人の著者には次のような記述があって、読者に警告を発しています。
「Z世代の上の世代が変わる方法を見つけ出すことができない限り、危機は全ての人に迫るでしょう。Z世代は、世界をどう変えていきたいかという理想を持っています。注意深くZ世代が言っていることを聞く必要がありますし、彼らが私たちに教えてくれる教訓を理解する必要があります。現実を良く見て理解し、人間とはどんな存在なのかを知り、自分自身が幸福になることに責任を持ち、同時に隣人や友人を助け、出来るだけ多くの者が参画できるよう制度を変更し、多様性を重視し、より優しい世界を作り、自分自身の価値観を大事にして生きなければなりません。」
それに似た内容が、大昔に当誌”The New Yorker”に載っていた記憶があります。51年前(1970年)、たしかにそういった内容の3万9千語におよぶ記事がありました。その記事の冒頭は次のような書き出しで始まっています。
「現在、進行中の革命があります。。。それは今、驚くべき速さで広がっています。結果として、既に私たちの法律、制度、社会構造が変化しつつあります。高尚な理念を抱いて、さらなる高みを目指すのです。より人間味に溢れたなコミュニティを作り、完全な自由を手に入れるのです。新しい世代が革命を起こすのです。」
その記事を書いたのは、当時42歳でイエール大学のロースクール教授だったチャールズ・ライクでした。その記事は、彼の著書”The Greening of America”(邦題:緑色革命)の抜粋でした。その本自体はその年の後半に出版され、タイムズ誌週刊付録のベストセラーリストで何度か1位を獲得しました。。
ライクは1967年の夏にはサンフランシスコに滞在していました。当時は、いわゆるサマー・オブ・ラブ(Summer of Love)が話題になった頃で、それは1967年夏にアメリカ合衆国を中心に巻き起こった、文化的、政治的な主張を伴う社会現象でした。彼は、カウンターカルチャー(反体制文化)のフラワーパワー(1960年代から1970年代の米国における若者の対抗文化)の力強さを目の当たりにして非常に驚いたと同時に興奮していました。ベルボトムパンツ(彼の著書の中でも象徴的に描かれていました)やマリファナや幻覚剤やサイケな音楽や反戦運動、目にするもの全てが彼にとって刺激的でした。
当時の彼が確信したのは、当時の陰鬱な米国社会を変える唯一の方法は若者に倣うことだということでした。彼は記していました、「新しい世代が、今日の脱工業化社会を上手く変化させる方法を示している。意識を変えることによって革命を起こさねばならない。新しい生き方をするこれまでとは全く異なる新しい人々が誕生するのだ。それは新しい世代が探し求めていたものである。既に革命は始まっており、理想は実現されつつある。」と。
ところで、その革命とやらはどうなりましたか?悲惨なものでしたね。もちろん、問題は、ライクが観察し予測する際にマンハイムが生み出した世代という概念を使ったことにあります。当時、ほんの一握りの少数の人たちが、自分の思考と価値観を過剰に信頼し、前の世代の非効率な慣行や浅はかな思考に反抗すべきだと考えていました。また、その人たちは実際に行動を起こし、サマー・オブ・ラブという現象が起きたわけです。センセーショナルに見えましたが、しかし、彼らは決して典型的な60年代の若者ではありませんでした。
60年代のほとんどの若者は、フリーセックスを実践しませんでしたし、ドラッグをやりませんでしたし、ベトナム戦争に抗議しませんでした。1967年に行われた世論調査では、結婚するまでセックスをすべきではないとの質問に対して20代では63%が「そう思う」と回答しました。その割合は全世代とほぼ同じでした。1969年に21歳~29歳の者を対象にマリファナを使用したことがあるか調査した際には、88%が「いいえ」と答えていました。その際に同時に米国はベトナム戦争からすぐに撤退するべきという質問もしたのですが、4分の3は「いいえ」と答えました。それは全世代の割合とほぼ同じでした。
60年代のほとんどの若者は、政治的にはそれほど自由主義的(リベラル)ではありませんでした。1966年~1968年に大学に在籍していた者に、1968年の大統領選挙でどちらの候補者を好むかを尋ねたところ、53%が共和党のリチャード・ニクソンか独立党のジョージ・ウォレスと答えました。1962年~1965年大学に在籍した者に同じ質問をした際には、57%がニクソンかウォレスだと答えました。それらの数値は、実際の選挙の際の支持率とほぼ一致しており、そのことは世代間による政治的嗜好の差異は小さいことを示しています。
ライクの最も大きな失策は、非常に少数の者たちを世代を最も象徴的に示している者として扱ったことでした。4人の著者も全く同じ誤ちを犯しています。彼らが世代を象徴するとして扱った人たちは、ほんの少数の頭の良い大学に通っている学生たちでした。おそれく全員それなりに裕福な家庭の出身でしょう。彼らの全員の年齢はせいぜい6歳に間に収まっており、普段から外部との接触はあまり多くなく、同じような思想・信条を有していると推測されます。彼らのことを詳しく知ろうとして沢山のインタビューを行ったことは立派なことかもしれません。しかし、彼らを世代を最も分かり易く良く示している者として扱ってZ世代について論じたのは完全な誤りです。