5.〇〇世代は△△と特徴付けるのは馬鹿げている
Z世代のほとんどは、おそらく4人の著書中でZ世代の典型として描写された理論的で高い倫理観をもった若者とは全く違うでしょう。ダフィは、2019年にとある市場調査会社が実施した調査結果について言及をしています。その調査は、ベビーブーム世代、X世代、ミレニアル世代(1981〜96年)、Z世代のそれぞれの世代の特徴を道行く人に聴くというものでした。得られた回答を分析したところ、Z世代の特徴として挙げられたものの上位の5つは、テクノロジーに精通している、物質主義的である、自分本位である、怠惰である、傲慢であるというものでした。倫理観が高いという特徴はかなり下位にランクされていました。なお、Z世代の特徴を挙げた回答の中からZ世代に属する者が答えたものだけを抽出した場合も、全体の調査結果とほとんど違いはありませんでした。1996年以降に生まれたほとんどの人は、自分は4人の著書の中でZ世代の典型として描かれている大学生たちとは大きく異なっていることを認識していました。
いずれにせよ、4人の著者が3つの大学で行った調査は全く意味のないものでした。4人は沢山のインタビューを実施しましたが、似通った特徴を持った者のみにインタビューをしたわけですから、同じような回答が沢山得られるだけで、それをもって世代のことを論じることが社会学的に意義があるわけありません。4人はインタビューをほぼほぼ大学生にやらせていましたが、そんないい加減な調査で、Z世代の特徴を定義義づけることなど不可能なのです。インタビュー対象となった大学生たちは、大学という組織に属していて、大学に入って既にさまざまな教育を受けていたでしょうから、一般的なZ世代の者とは一線を画すアイデンティティーを保持していました。大学に入った初日から、多様性、参画意識、誠実さ、協調性等の重要性を教え込まれているはずです。その結果大学生たちの中に見られた美徳を4人の著者はZ世代の特徴であると結論づけたのです。それは非常に馬鹿げたことです。
また、その大学生に見られた美徳は、何もZ世代の大学生特有のものではなく、その前の世代の大学生にもそのまた前の世代の大学生にも共通してみられたはずです。4人の著書の中で、さまざまな世代が交流することによって過去の価値観や考え方が変化していくとの主張があります。しかし、大学生の倫理観が高いというのは、既に30年前から言われていたことで、それがその間全く変わっていないのは矛盾があります。4人の著作にも記述があるのですが、1989年には法学者のキンバリー・クレンショーが当時の大学生は倫理観が高いと論じていたのです。クレンショーは1959年生まれでベビーブーム世代でした。ですから、倫理観が高いというのは、Z世代に固有の特徴ではなく、むしろ属している集団(レベルの高い大学の学生)に固有なものなのです。
大学で多様性が重要視されるようになったのは、クレンショーが大学生の倫理観が高いと論じた1989年よりもさらに昔のことです。1978年にはカリフォルニア大学デービス校(医科大)を相手取ってアファーマティブアクションに関してバッキーが訴えを起こし最高裁で争われましたが、その裁判の判決では人種を入学許可の判断にすることは違憲ではないと認められました。それは現在からすると3世代前ほどのことです。それ以来、ほとんどすべての大学が学生の多様性を維持するために努力をしています。そうした努力をしている大学を目の当たりにしてきているわけですから、そこで学ぶ多くの大学生は多様性を重視しますし、そのことが一体感を醸成しています。
アファーマティブ・アクションという語がまだ無い時代に大学に通った人からすると多様性をことさらに強調することは、学生が純粋に学問を学ぶという視点でみるとマイナス面しかないと思うかもしれません。というのは、常に性別や人種や国籍等を意識しなければならないのは勉強するには邪魔なこととしか思えないからです。しかし、そうは言っても、ここ5年間の米国の政治情勢や世界の政治情勢を見渡すと、やはり多様性を重視するということは重要なことであると認識せずにはおられません。