6.属している世代より、属している階級の方が個人の行動への影響は大きい
ところで、”youth culture(若者文化)”を作り出しているのは誰なのでしょうか?それは、若い世代ではなくより年長な世代です。若い世代は、ある意味、好きな音楽を選択し、好きな服を選択し、デモを行うか否か選択します。現実に、そういう若い世代の選択の結果、あっという間に流行して廃れてしまった製品もあります(ベルボトムのパンツはその最たるものです)。けれども、若い世代は服を選択するけれども、服を作り出しているわけではありません。彼らは、私が車を買う時と同じように、どこに行けば好きな車が購入できるかを知っているというだけです。それで、選択して購入しているだけです。決して製品を作っているわけではありません。
世代というものの詳細が正確に把握されていないと、社会全体を正しく認識することは出来ません。たとえば、いわゆる”Silent Generation(沈黙の世代)”という世代は、非常に不正確な認識を持たれています。沈黙の世代とは、1950年代に米国で高校や大学に通っていた人たちを指します。ちょうどベビーブーム世代の前の世代に該当するわけですが、ベビーブーム世代というのは非常にはっきりと物言う世代と思われていたので、その対比として沈黙の世代と定義されたのだと推測されます。しかし、そもそもベビーブーム世代がはっきりと物言うという認識が誤っています。実際には、ほとんどのベビーブーム世代の者たちは上の世代と同様にものしずかだったのです。
沈黙の世代という語が作られたのは1951年のことです。最初にタイム誌でその語は使われました。その語が使われた目的は、当時の10年間の世相を表現するということでは無く、その当時の若い世代の特徴を言い現わすことが目的でした。それで、その記事には、「今日の若い世代は従順で受動的である。」のような記述がありました。タイム誌の定義した沈黙の世代に属するのは、1951年時点で18歳~28歳の人たちでした。その人たちの多くが1940年代には既に何らかの職に就いていたと推測されます。タイム誌の定義した沈黙の世代は、1923~1933年に生まれた人たちでした。しかし、その定義はどういうわけか時の経過とともに変化しました。現在の定義によると、沈黙の世代に属する者は1928年~1945年生まれに変わっています。
では、沈黙の世代に該当する人、物言わぬ静かで受動的な人というのはどんな人たちなのでしょうか?その年代の有名人を列挙すると、グロリア・スタイナム、ジェリー・ルービン、ニーナ・シモーネ、ボブ・ディラン、ノーム・チョムスキー、フィリップ・ロス、スーザン・ソンタグ、マーチン・ルーアー・キング・ジュニア、ビリー・ジーン・キング、ジェシ^・ジャクソン、ジョウン・バエス、ベリー・ゴーディ、アミニ・ナラカ、ケン・キージー、ヒューイ・ニュートン、ジェリー・ガルシア、ジャニス・ジョプリン、ジミー・ヘンドリックス・アンディ・ウォーホルなどの名前が思い浮かびます。しかし、たくさんの名前を列挙しましたが、あまり知っている名前は無いかもしれません。
ここで名前を列挙した者(沈黙の世代に属する)だけでなく、その上の世代の人たち(たとえば、ティモシー・リアリー、アレン・ギンズバーグ、パウリ・マレーなどですが)は、1960年代に米国の文化や政治に大きな影響を与えました。しかし、1960年代に文化的または政治的に大きな影響を与えたベビーブーム世代に属する人の名を列挙しろと言われると答えに貧してしまいます。というのは、有名なミュージシャンが2人ほど該当するだけからです。1960年代時点のベビーブーム世代はどうだったかと言うと、まだ若すぎて何をすべきか認識していなかったでしょうし、ましてや社会的文化的な影響を及ぼすなんてことは不可能だったでしょう。
マンハイムは、世代という概念を用いて社会を分析する際の最大の懸念は、階級がもたらす影響の大きさが十分に認識されていないということでした。階級は、信条や思考や行動を決定する要因の1つなのです。今日では、人種や性別や国籍なども信条、思考等に影響を及ぼす要因であることが認識されています。1947年にサンアントニオの移民一家に生まれた女性は、その年にサンフランシスコで生まれた白人男性と比べると、間違いなくその後の人生で転がっているチャンスの数がはるかに少ないでしょう。そんなに差があるのに、2人は同じ年に生まれたわけですから、世代という概念で考えると2人とも同じベビーブーム世代として扱われてしまいます。サンフランシスコで生まれた白人は、ベビーブーム世代の典型的イメージと合致しますが、同じ世代とは言え、サンアントニオの移民の子とは全く共通点が無いと言っても良いくらい違っています。同様に、Z世代の典型的なイメージは良くお金を使いインスタグラムをやっている等々ですが、Z世代のほとんどの人たちはそんなイメージと合致しているわけではありません。
諸々の理由があるのでしょうが、ダフィは戦後の世代を論じる時には、年代の区切り方と名前について従来の方法を踏襲しています。彼はそうする理由は明示していません。彼の主張によれば、多くの人にとって最も人間的に成長出来る期間というのは、学校で学んでいる時にあるわけでなく、学校を出て職を得て社会に出た後にやってくるということです。その際に、景気や社会情勢が良いか悪いかで生涯年収に大きな差が出てしまいます。また、人種、性別、両親から得られる支援等によっても大きな差が出ます。
さまざまな研究で明らかになっているのは、人々は年老いることでより保守的になるというのは真実でないということです。しかし、ダフィが気付いたのですが、大人になる、つまり職を得て社会に出るといっても、景気の悪さが影響して、その時期が遅くなってしまう人たちもいます。そうして遅くなった人たちは、将来の見通し等などに関して調査で質問を受けると、同じ世代の他の者と異なった回答をする傾向があります。しかし、最終的には、誰もが職を得て社会に出て大人になるわけで、遅れていた者も追いつきます。言い換えれば、若い世代に属している者に自分が属している世代に関して語らせるということは、星占いをさせるようなものです。景気等が悪いと職に就いて働きだすのが遅くなったりして影響を受けます。また、自分が職に就くタイミングで景気が良いか悪いかは、誕生日に左右されるということです。誕生日に左右されるというという点では、占星術と似ています。
ベビーブーマー世代について論じると、1946年~1952年の間に生まれた人たちが職を得て働きだした時、非常に景気は良く上り調子でした。1953年~1964年の間に生まれた人たちが職に就いて働きだした時は逆に景気は最悪でした。ですので職を見つけるのに苦労しました。その結果、1953年~1964年に生まれた者は、働き始めるのも遅くなりましたし、家を購入する時期も遅くなりました。ですので、1953年~1964年に生まれた者は調査で質問された際には、物質主義的と回答しがちになります。しかし、そう答えたのは世代に属する者に共通する信条や思考が原因ではないのです。景気循環の影響がたまたま出ただけのことなのです。♦
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