加熱する株式場!バブルなのか?弾けるのか?行けるところまで乗るべきなのか?答えは誰にもわからない!!

The Financial Page

The Lonely Skepticism of a Bull-Market Skeptic
株式市場が盛り上がる中で懐疑的な弱気派は減りつつある

Investors’ enthusiasm for A.I. has converted some longtime Wall Street bears into optimists. Jeremy Grantham is still waiting for the bubble to pop.
AI 対する投資家の熱狂により、ウォール街の長年の弱気派の一部が楽観主義者に変わった。ジェレミー・グランサムはバブルがはじけるのをまだ待っている。

By John Cassidy  December 23, 2024

 AI への投資家の期待が高まっている。直近のトランプ大統領誕生の期待感も相まって、アメリカの株式市場は記録的な高値をつけている。そんな中でジェレミー・グランサム( Jeremy Grantham )はフラッシュバックを起こしている。割安株を探すベテラン・バリュー投資家である彼は、1990 年代末に高騰するインターネット株やテクノロジー株から手を引いた。株価が金融経済学的に見て現在価値からの乖離が大きく、株式市場が暴落に向かっていると考えたからである。グランサムが共同設立したボストンの資産運用会社 GMO の顧客の多くは、彼が警鐘を鳴らしたことに感謝しなかった。それどころか 1998 年から 1999 年にかけて約 160% も上昇したナスダックの急騰に乗れなかったことで彼は責任を追及された。多くの投資家が GMO から資金を引き揚げた。「いいポジションでスタートしたが、2 年間で運用額は半分にまで減った」とグランサムは振り返る。「多くの顧客が私たちが故意に顧客に損害を与えたと認識するような事態だった。本当に大惨事だった」。

 グランサムにとって幸運だったのは、彼の懐疑論が結局は正ししいと証明されたことである。2000 年 3 月にインターネット・バブル( dot-com bubble )がついに弾けた。その後 18 カ月の間にナスダックは約 70% 急落した。市場高騰時に株価の頂点付近で投資した人々は莫大な損失を被った。下落に備えていた GMO の投資戦略は、この暴落の最中に大きな利益を上げ、多くの新規顧客の獲得につながった。「突然、我々はスーパーヒーローになった。すべてが上手くいった」。とグランサムは言う。「しかし、それは私がボスであり、株式市場崩壊に賭け続けるよう強いプレッシャーをかけていたからこそ可能だったのである」。

 それから四半世紀が経ったわけだが、グランサムは依然としておなじみの孤独な弱気派の立場を貫いている。彼は現在の株式市場は投機バブルの最中にあると見なしている。しかし、これまでのところ市場は彼の破滅予測を覆し続けている。昨年 3 月に彼は S&P500 指数が 50% 暴落する可能性があると指摘したが、それ以降、同指数は逆に 50% 上昇している。先週、米連邦準備制度理事会( FRB )が 2025 年の利下げに慎重な姿勢を示したことで暴落したものの、今年年初から S&P500 指数は 24% 上昇し、ハイテク株の多い Nasdaq にいたっては 32% 上昇している。大型言語 AI モデルで広く使われているチップを製造している Nvidia の株価は 170% 上昇し、ChatGPT がリリースされる前の月の 2022 年 10 月からは 10 倍になっている。現在、同社の株式時価総額は 3 兆 2,000 億ドルに達している。

 それでもグランサムは懲りていない。先日、彼は日々の資産運用の業務からは退いた。GMO では「長期投資ストラテジスト」の肩書きを持っているが、会社を代表して発言しているわけではないことをわざわざ強調している。しかし、先日、朝っぱらから彼は私に電話をかけてきた。休暇で到着したばかりのメキシコからだった。弱気派の仲間の多くに考えを改めさせるに至った現在の過熱気味の株式市場について深い懐疑心を抱いていると主張している。2008 年の金融危機の直前に警告を発してサブプライム問題を言い当て、「破滅博士( Dr. Doom )」と呼ばれる経済学者ヌリエル・ルービニ( Nouriel Roubini )は、今月初めのブルームバーグ( Bloomberg )のインタビューで、「私は破滅博士ではなく、現実主義者( Dr. Realist )である」と主張した。ルービニは、AI やその他の技術革新の影響を指摘し、「経済成長を促す要因がたくさんある」と述べた。もう 1 人の懐疑論者の重鎮であるローゼンバーグ・リサーチ( Rosenberg Research )のデビッド・ローゼンバーグ( David Rosenberg )は、リンクトインに 「弱気派の嘆き( Lament of a Bear ) 」という記事を投稿した。その中で「この状況をひっくり返すには相当な努力が必要だということを改めて認識した」と書いている。近い将来に小幅な市場調整があるとすれば、「その下落時に買いまくる」ことになるだろうと付け加えた。

 グランサムは、かつて弱気派だった人物の多くが楽観的な立場に転じて発言していることに少しも驚かないと言う。「バブルが長引けば長引くほど、自己防衛のために立場を変えざるを得なくなる者が増える」と彼は言う。「一般的に金融業界ではバブルに乗らないことは良い生存戦略ではない。インターネットバブル( dot-com boom )の最中には、ウォール街では多くの弱気派が沈黙させられ、職を辞した者も少なくなかった。インターネットやハイテク株の宣伝や投資でバブルに乗じて利益を得ようとする企業がほとんどだったからである。グランサムが指摘しているのだが、このような状況下では、利益を上げなければならないというプレッシャーが強い市場参加者は、バブルに乗っかる群れに加わり利益を上げるという誘惑に屈しざるを得ないことが多いという。また、グランサムは、2007 年までの数年間のサブプライムローン危機( real-estate bubble )を引き合いに出している。当時、多くの大手銀行がサブプライム・モーゲージ証券(信用力の低い借り手(サブプライム)向けの住宅ローン債権を組み入れた資産担保証券)を束ねて販売するビジネスに乗り出した。結局のところ、バブルが崩壊し証券は実質的に無価値になった。各銀行のバランスシートにその一部が残った。

 当初、一部の銀行はリスクの高い借り手への融資であるサブプライム証券から遠ざかっていた。しかし、競合他社が多額の利益を上げているのを見て、参加せざるを得なくなった。2007 年 7 月の「フィナンシャル・タイムズ( the Financial Times )」でのチャック・プリンス( Chuck Prince )のインタビューは今でも語り草になっている。当時のシティグループ( Citigroup )の CEO であった彼は「音楽が流れている限り、立ち上がって踊らなければならない。我々はまだ踊り続ける」と語っていた。ご存じのとおり、シティグループは後に納税者によって救済された企業の 1 つである。この言葉を私に思い出させた後、グランサムはプリンスを賞賛した。「彼はタイミングは間違えたけど、少なくとも正直だった」とグランサムは語った。

 もちろん、Nvidia や Microsoft( 2022 年 10 月以降 100% 近く上昇)、Google( 125% 以上上昇)、Meta( 500% 以上上昇)などのテック業界大手の株を今でも推奨(もしくは購入)しているアナリストや投資家の少なくとも何人かは、AI によってこれらの企業やその他の企業が今後数年間ではるかに大きな利益を上げることが可能になると純粋に信じていないわけではない。とはいえ、Nvidia の業績は依然として好調に推移している。同社の四半期決算報告が先月あったが、直近四半期の売上高は 350 億ドル、純利益は 193 億ドルであった。前年比で見ると売上高、純利益ともに 90% 以上増加している。

 グランサムはこの数字に異論を唱えることはできない。AI が潜在的に変革をもたらすテクノロジーであるという評価にも異論はない。実際、彼はそれに同意している。しかし、このことは株式市場がバブルに陥っているという彼の見方を変えるものではないと主張する。この主張は自身の長年の株式市場の分析と経験に基づくものだという。彼は、株価と企業収益の相対関係を示す株価収益率( the price-to-earnings ratio )など、株式市場全般のバリュエーションが上昇していると指摘する。足元の株価収益率の上昇を見ると、株価が収益を上回るペースで成長していることがわかる。グランサムのような弱気派にとっては長年にわたって注目している警告サインである。また、彼の友人であるイギリス金融史家エドワード・チャンセラー( Edward Chancellor )の研究を引き合いに出し、ウォール街に蔓延するテック業界の成長を見込んだ楽観主義は、イギリスの運河開発やアメリカの鉄道開発など、多くの投機的な出来事の特徴と一致していると指摘する。「あるテクノロジーが大きな変革をもたらすと信じる人が増えれば増えるほど、そしてその考えが正しければ正しいほど、バブルは巨大化する」とグランサムは言う。「あるテクノロジーが非常に重要で、同時に誰もが非常に重要であると認識する状況になると、株式市場にすべての資金が流れ込む。そうした意味で、正しく AI はかつてないレベルの巨大なバブルを作り出している最中である」。

 11 月 6 日以降、トランプが当選したことはウォール街の熱狂に拍車をかけている。多くの投資家が減税と規制緩和が株式市場にプラスになると踏んでいる。グランサムはトランプ当選の影響をまだ完全に読み切れていないが、2022 年 11 月の ChatGPT 公開を契機とした AI 投資ブームにさらに拍車がかかると考えているという。トランプ当選前の数カ月間、2021 年の新型コロナパンデミック後のミーム株現象( SNS 等への投稿に注目が集まり、個人投資家の積極的な買いで短期間のうちに株価が急騰)を受けて株式市場は低迷していたが、過去の経験と比較すると依然として高値圏にあった。グランサムが主張するに、株価がすでにこれほど高騰している状況で新たなバブルが始まったことは過去に 1 度も無いという。

 そう聞くとバブルが崩壊するリスクが高まっているように感じてしまう。しかし、グランサムは、超弱気派という評判にもかかわらず、すぐに株式市場が暴落すると予測しているわけではない。彼は朝食を摂るために電話を切ろうとしていたが、彼の分析から得られる教訓は何であるか尋ねてみた。「私の言いたいのは『気をつけろ!』ということである」と彼は答えた。「しかし、この活況がさらに 1 年続けば、この流れに乗ろうとしない我々のような弱気派のバリュー投資家は 1 人残らず駆逐されるかもしれない。それは、決してあり得ない話ではない」。♦

以上