Joe Biden Starts to Make His Economic Case
ジョー・バイデン大統領は奇跡的に景気回復させた!なのに、どうしてバイデン政権の支持率は低いのか?
Inflation is a big challenge, but job growth reached record levels in 2021 and wages rose for many low-paid workers.
インフレ率が非常に高いのが喫緊の課題となっているものの、2021年の新規雇用者数は驚くほど良い数値でした。特に低賃金労働者の賃金は、大きくアップしています。
By John Cassidy January 10, 2022
ジョー・バイデン大統領は、2021年後半には政権支持率が低迷し何かと苦労していましたが、やる気は全く失せていないようです。先週も矢面に立って、粛々と業務をこなしていました。木曜日(1月6日)は、ドナルド・トランプ前米大統領の支持者による連邦議会議事堂襲撃からちょうど1年にあたったのですが、バイデン大統領は颯爽とテレビで演説を行いました。トランプ前大統領の行為を激しく批判していました。また、その翌日(1月7日)にもバイデン大統領は再び演壇に立って、労働省が発表した 12 月の雇用統計の数値を称賛していました。一見すると期待外れの数値でした。というのは、ウォール街のエコノミストによるマーケット・コンセンサス(市場予想)では新規雇用者数は40万人と見られていたのですが、実績(速報値)は19万人だったからです。しかし、バイデン大統領は「米国の経済が力強く回復していることが示された。米国経済にとって歴史的な日になった。」と宣言しました。2021年は、そう宣言しても良い数値が出揃っています。全米の失業率は4.0%を下回って、3.9%となりました。2021年には、米国の歴史上、1年間で最も大幅に失業率が低下しました。また、昨年1月以来、640万人が新規に雇用されました。歴史上、1年間でこれほど雇用を創出した大統領は過去にはいません。
バイデン大統領は、昨年の実績数値を前にして自慢げにしていますが、そうなるのも自然なことです。ちょうど1年前の今頃には、失業率は6.7%でしたし、FRBのジェローム・パウエル議長が経済の先行きは「極めて不確実 」と表現していたのです。昨年3月、バイデン大統領は、米下院に1.9兆ドルの景気刺激策”American Rescue Plan”(アメリカン・レスキュー・プラン)を承認可決させ、家計や企業や州や地方自治体に速やかな財政支援を実施しました。その結果、失業率は4.0%を割り込みました。そうした状況を受けて、現在、パウエル議長率いるFRBは、最大雇用に近づいていること、インフレ率が急上昇していることを理由に利上げの準備を進めています。
足元ではインフレ率が急上昇しています。それはバイデン政権にとって深刻な問題となりつつあります。11月までの1年間で、消費者物価指数は6.8%上昇しています。しかし、物価の上昇がことさらに問題視されていますが、それは経済のほんの一部に過ぎないのです。この1年間、バイデン大統領と民主党は、インフレ率の制御以外の部分では素晴らしい実績を残しているのですが、そのことをあまり上手く主張できていません。雇用と所得については、新型コロナの第一波による悪化から急速に回復させたのですが、それは、ほとんどの経済学者の予想を超えるものでした。例えば、昨年の2月には、超党派で構成される米下院予算事務局は、失業率が4.0%以下になるのは今から4年後の2026年第1四半期と予測していました。
最新の雇用統計の数値も非常に強いものでした。労働省は、10月と11月の雇用統計の数字を上方修正しました。12月の雇用統計では、事業所調査(企業等の給与データのサンプル調査による)の方の数字はマーケットコンセンサス(市場予想)を下回りましたが、家計調査(ヒアリングによる)の方の数値では、新規雇用者数は急増し65万1千人増であったことが示されました。この2つの調査は、調査方法が異なりますので、数値を直接比較することはできません。しかし、労働省は、家計調査を調整した雇用者数も公表しており、それは事業所調査の数値と比較することが可能です。12月の家計調査による調整済みの新規雇用統計は30万1千人で、エコノミストの事前予想とほぼ同じでした。
バイデン大統領は金曜日の演説で、労働力比率が大幅に回復したことと、労働者、特に低賃金労働者の賃金がこの1年で大幅に上昇したことを強調しました。「レストラン、ホテル、旅行、観光、事務員、コック、給仕係、ベルマンなど、最前線の仕事に就く者たちの賃金は非常に高水準で、過去最高のレベルにある。彼らの賃金は今年1年で約16%上昇し、喫緊の問題となっている高いインフレ率をはるかに上回っています。」と、バイデン大統領は発言していました。数値が良いことは、バイデン政権にとっては追い風です。バイデン大統領は、「トランプ前大統領」という語の使用は避けましたが、「前任者がいた時よりも、株価は約20%上昇している。」と言及し、自らの実績を誇るとともに、前任者を批判していました。
バイデン政権が直面している問題は、多くの経済学者がバイデン政権の経済運営に対して肯定的な評価を下しているにもかかわらず、有権者の評価が必ずしも高くないということです。そうしたことを示す世論調査のデータは膨大に存在していますので、直近の例をいくつか挙げてみます。先週、エコノミスト誌にYouGov(ユーゴヴ:英国に本社を置き、ヨーロッパ、北米、中東、アジア太平洋で事業を展開している、英国のインターネットベースの市場調査およびデータ分析会社)が行った調査が載っていたのですが、回答者の24%が経済状況について、「良い」もしくは「とても良い」と答えたのですが、68%が「普通」もしくは「悪い」と答えていました。また、CNBC(ダウ・ジョーンズとアメリカの大手テレビネットワークのひとつNBCが共同設立したニュース専門放送局)でChange Research(チェンジ・リサーチ:サンフランシスコ ベイエリアに拠点を置く世論調査会社)が実施した世論調査の結果が明らかにされたのですが、回答者の60%がバイデン政権の経済運営に対して否定的でした。さらに驚くべきことなのですが、58%もの人がバイデン政権の雇用対策を支持していませんでした。昨年、2021年は新規雇用者数が記録的な伸びを示し、失業率も歴史的に見ても最低レベルであるにもかかわらず、有権者の評価は良くないのです。米国インディード雇用研究所のデータサイトに、2人の経済学者(ニック・バンカーとアン・エリザベス・コンケル)による分析が投稿されているのですが、現在、全ての主要な職種において、新型コロナのパンデミックが発生する前よりも求人が増えているのです。歴史的に見ても、そうした状況は非常に稀なことです。国家経済会議(NEC)副代表のバラット・ラマムルティはツイッターに投稿しました、「多くの労働者が、より給与が高い職に就くために、職を辞している状況です。大量に退職者が出ていますが、そのほとんどがより高給取りになって再就職できているのです。」と。
では、なぜ雇用等の数値が非常に良いのに、バイデン政権の経済対策に対する有権者の評価が高くないのでしょうか?それに対する答えで一般的なのは、多くのアメリカ人が経済分析をする際に最も関心があるのがインフレ率であるということです。バイデン大統領は最前線で働く労働者の賃金が大幅に上昇したと言及していましたが、現在、それ以外の人たちの賃金上昇率よりもインフレ率が上回っています。それが理由で、世論調査で評価が高くならないのだと推測されます。エコノミスト誌に載ったYouGov(ユーゴヴ)の調査では、アンケートの中に、現在米国が直面している最大の問題は「雇用問題」か「インフレ」のいずれであるかという設問がありました。「雇用問題」と答えた人はわずか11%で、「どちらも同じ」と答えた人が39%、「インフレ」と答えた人が43%でした。
インフレ率の上昇、特にガソリン価格や食料品価格の上昇が、明らかにバイデン政権の支持率に大きく影響を及ぼしています。というのは、それは誰にとっても気付きやすい上に、事実上すべての人が被害を被るからです。また、多くの米国人が長い間低いインフレ率に慣れてしまっているからでもあります(インフレ率が6.0%に達するのは、湾岸戦争の影響によって原油価格が高騰した1990年以来のことです)。軽視できないことなのですが、フォックス・ニュース社(米国のニュース専門放送局)などの共和党寄りのメディアが、高いインフレ率はバイデン政権の失政によるものだとして非難していることも、バイデン政権の支持率が上がらない要因の1つのようです。しかし、高いインフレ率は、世界規模のサプライチェーンの不具合と原油価格の高騰の2つが主因で引き起こされたものですので、バイデン政権が関与して解決できる問題ではないのです。CNBCで明らかにされたチェンジ・リサーチが行った世論調査の結果では、回答者の38%が高いインフレ率の原因はバイデン政権の経済運営にあると考えていました。新型コロナが原因と考える者や企業活動が原因と考える者の割合よりも高かったのです。また、その割合は、トランプ支持者においては、なんと75%に達していました。
1月12日の水曜日には労働省が12月のインフレ率を発表する予定で、そこでも高い数値が示されると予想されていますので、バイデン政権の支持率がさらに下押しされる可能性もあります。現在の状況を見ていると、熱烈なトランプ支持者の支持を得ようとしても無理であると思われます。ですので、バイデン政権やそれを支える民主党は一丸となって、無党派層、2020年の大統領選挙で取り込むことに成功した穏健的な共和党支持者から支持されるようアピールをする努力をがもっと必要でしょう。また、2021年以降は民主党支持者の中でも左派寄りの者からのバイデン政権への支持にかげりが見えますので、そこの支持を固める努力も重要になります。金曜日に演説を行ったバイデン大統領は気迫に満ちていました。まだやることが山積していますので、ひるまずに歩を進めて欲しいと思います。
以上
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