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もし、企業がテキサス・ツーステップ(Texas two-step)の手法を利用して、あらゆる消費者に対する責任から身を守ることができて、裁判も回避できるのであれば、企業が負う責任は何も無くなってしまうのではないでしょうか。司法省は2019年からジョンソン・エンド・ジョンソンを調査しているようですが、その調査状況や狙いはほとんど明らかになっていません。司法省は刑事告発を行うかもしれませんし、行わないかもしれません。第3巡回区控訴裁判所は、この案件の控訴を認めるかもしれませんし、棄却するかもしれません。議会は、テキサス・ツーステップ(Texas two-step)という手法を行使するのを制限するかもしれませんし、制限しないかもしれません。食品医薬品局(FDA)に化粧品をより効果的に規制する権限が与えられるかもしれないし、与えられないかもしれません。現時点では、あらゆる可能性があります。
しかし、これまでのところ、ジョンソン・エンド・ジョンソンの責任を追及したのは、陪審員を務めた人たちだけです。ディーン・バーグは、自分のことを話せば、きっと陪審員がいろんなことを認めてくれると信じて和解には応じず裁判を起こしたのです。認めてもらいたかったのは、ジョンソン・エンド・ジョンソンはタルクの潜在的危険性について消費者に警告すべきであったということだけです。
パトリシア・クックには、そのようなチャンスは訪れないかもしれません。彼女は、中皮腫がいかに致命的なものであるかを知っています。しかし、彼女は医師に怖くて予後を問うことが出来ません。余命が短いことを知らされることが耐えられないと思うからです。それを問わずに一日一日を大切に過ごすことという選択をしました。それでも、キンバリー・ナランホよりはマシです。ナランホは、既に終末ケアを受けており、50歳の誕生日を1カ月後に控えていますが、そこまでは生きられそうにない状況です。しばしば、何とか人生の節目となる50歳までは生きたいと口にしていました。彼女は、正義が行われるのを見るまで生きられないことを認識しています。 彼女には正義がどのような形で行われるかを知るすべも全く無いのです。
しかし、私たちは皆、正義がどのような形で行われないかということは知っています。ジョンソン・エンド・ジョンソンの最新の四半期決算報告書を見ると、売上高は240億ドルと記載されています。同社が破産を申請して以降の11ヶ月間、平均すると1日1人の女性が同社に対する訴訟が再開されるのを待ちながら亡くなっています。♦
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