知ってた?ジョンソン・エンド・ジョンソンのアメリカでの酷い仕打ち!同社製品で卵巣癌になった者を切り捨て!

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 ジョンソン・エンド・ジョンソンの弁護団は、同社が正式にはジョンソン・エンド・ジョンソン・コンシューマー社(Johnson & Johnson Consumer Inc.)であり、決して破産申請はしていないことを知らしめようとしています。破産申請をした会社は、LTLマネジメント有限会社(LTL Management L.L.C.)です。LTLはLegacy Talc Litigation の頭文字です。2021年10月11日にテキサス州で設立されました。翌日、旧ジョンソン・エンド・ジョンソン社を吸収合併しました。同日、LTLマネジメント社は、ノースカロライナ州に本社を移し、有限会社に転換されました。同社は、その2日後の10 月14日に、シャーロットの破産裁判所に連邦破産法11条(訳者注:日本の民事再生法に該当)を申請しました。

 ジョンソン・エンド・ジョンソンが設立したLTLマネジメント有限会社は、テキサス州やノースカロライナ州に事務所を構えたこともなければ、従業員を抱えたこともありません。また、タルカムパウダーを製造したり、販売したこともありません。さらに言えば、破産法申請をするまで全く事業を行っていなかったのです。企業活動をするのに優しい2州を巧みに利用し、有限会社の利点を最大限に活用した形で、テキサス州で新会社が設立され、ノースカロライナ州で破産法申請がなされました。その顛末を経て、設立された新会社であるLTLマネジメント有限会社が旧ジョンソン・エンド・ジョンソン社のタルクに関連する債務をすべて引き受ける形となったのです。そこが、突如として約4万件のタルク訴訟に関する全責任を負うことになりました。一方、新たに設立されたジョンソン・エンド・ジョンソン・コンシューマー社が旧ジョンソン・エンド・ジョンソン社の資産(数百億ドル)を全て持つ形となりました。しかも、タルクに関する責任は全て放棄し、何食わぬ顔をして事業を続けているのです。

 このジョンソン・エンド・ジョンソンが行ったスキームは、部門合併(divisional merger)と呼ばれる手法です。俗にテキサス・ツーステップ(Texas two-step)と呼ばれる手法です。これまでこの手法を試みたすべての企業の代理人を務めた法律事務所ジョーンズ・デイ(Jones Day)のパートナーであるグレッグ・ゴードン(Greg Gordon)は、ジョンソン・エンド・ジョンソンの破産法申請の顛末を「破産史上で最も革新的な出来事」である評する者が少なくないことを認識しています。しかし、彼は、この手法は、30年以上も前から存在しており目新しいものでは無いと主張しています。1989年にテキサス州議会が会社法(Business Corporation Act)を改正し、極めて高額な訴訟に直面した場合などに1つの企業を2つ以上の企業に分割することを認めたことから、この手法が生まれたのです。

 2017年にコーク・インダストリーズ(Koch Industries)社が、子会社のジョージア・パシフィック(Georgia-Pacific)社を紙や建築製品にアスベストを使っていたことに対する訴訟から逃れさせるために、この手法テキサス・ツーステップ(Texas two-step)を利用しました。それまでは、この手法を試す勇気のある企業はありませんでした。親会社であるコーク・インダストリーズ社は、新たな法人をテキサス州に設立しました。ふざけたことに、その社名は”ベストウォール(Bestwall)”でした。その3カ月後にノースカロライナ州で破産法申請をし、アスベスト関連の負債をすべて切り離しました。一方で、ジョージア・パシフィック社が数十億ドルの利益を上げ続けられるようにしたのです。同社は、今でもペーパータオル(Brawny のブランド名で販売)、トイレットペーパー(Quilted Northernのブランド名)、紙コップ(Dixieのブランド名)を通じて利益を上げ続けています。

 ジョンソン・エンド・ジョンソンは、このテキサス・ツー(Texas two-step)を試みた4番目の企業です。過去の3例よりも、より大胆に試みました。設立から倒産までの期間は、それまでの例では3ヶ月だったのですが、何と72時間にまで短縮したのです。最近のロイターの調査によって明らかになったのですが、ジョンソン・エンド・ジョンソンのテキサス・ツーステップ(Texas two-step)は、同社内では、プロジェクト・プラトン(Project Plato)と呼ばれていました。関わっていた1人の弁護士のメモには、「プロジェクト・プラトンに関連する活動は、このプロジェクトが存在するという事実も含めて、極秘にされることが肝要である。」と書かれていました。

 プロジェクト・プラトンは、パトリシア・クックが起こした訴訟を一時停止させることに成功しました。また、同社は彼女が起こした訴訟や他のすべての訴訟から永続的に守られる可能性があります。詳しい法律に関する説明は省きますが、テキサス・ツーステップ(Texas two-step)という手法を用いて破産申請したことで、債務を逃れられる可能性が高いようです。債務を逃れる手法は、パデュー・ファーマ(Purdue Pharma)社が行った事があり、注目を集めました。同社は、連邦破産法11条の適用を申請した上で創業家であるサックラー一族(Sackler family)のメンバーが同社のオピオイド和解基金に巨額を拠出して、同時に経営権を手放すことで将来の責任を免れようとしました。同様に破産法申請をして、巨額な債務から逃れた事例は、他にもたくさんあります。米国体操協会(USA Gymnastics)、ボーイスカウト連盟(Boy Scouts of America)、たくさんのカトリック監督管区などが、性的虐待事件で巨額の賠償請求をされた際にしていました。これらの事例では、1つの企業もしくは団体等を破産させることで、他の企業等にも債務免除が適用できるようにし、金銭的負担を最小化しています。

 テキサス・ツーステップ(Texas two-step)という手法では、債務の免除がもっとあからさまに大々的に行われます。付随的な企業に加えて、最大の責任を負う企業さえも、ましてや最大の資産を持つ企業も、既に起こされている訴訟から逃れられ、将来債務を負うことからも逃れられます。ジョンソン・エンド・ジョンソンの場合は、新しく設立されたジョンソン・エンド・ジョンソン・コンシューマー社が事業を今まで通り行うのに、既に起こされた訴訟と将来起こされる訴訟の両方から逃れられるのです。なお、同社はこうした指摘をされることに反論しています。「LTLマネジメント有限会社の連邦破産法第11条の申請は、タルクの含まれた化粧品に関連するすべての請求を、すべての当事者にとって公平な方法で解決することを目的としたものである。」との声明を発表しています。ジョージア大学法学部教授のリンゼー・サイモン(Lindsey Simon)は、こうした手法を「破産法詐欺」として非難しています。というのは、ジョンソン・エンド・ジョンソン等は、破産法の恩恵を最大限に受ける一方で、何の責任も負わず、あらゆる責任から逃れているからです。何の説明責任も果たしていません。また、どう見ても財務的に破産申請が必要な状況でもありません。彼女は言いました、「これらの企業は、破産法のデメリットは一切受け付けず、メリットだけを享受しています。」と。

 ニュージャージー州のマイケル・カプラン(Michael Kaplan)判事は、ジョンソン・エンド・ジョンソンの連邦破産法第11条の申請を審理したのですが、直ぐにこの申請が尋常でないものであることに気付きました。というのは、ノースカロライナ州西地区の判事によって審理が拒否されていたことが分かったからです。しかし、2月にカプランは原告側の反論を受け、テキサス・ツーステップ(Texas two-step)の手法を使うことに「不適切な点はない」との判断を下しました。彼は、破産手続きを進めることを認め、9.11テロ被害者補償基金やBPディープウォーター・タンカー事故補償基金を管理したケネス・ファインバーグ(Kenneth Feinberg)を任命して、年内にタルク訴訟の賠償額を見積もるよう命じました。

 けれども、その見積もりはそれほど問題とならないのかもしれません。ジョンソン・エンド・ジョンソンを批判する者が非常にたくさんいて、プロジェクト・プラトンの問題点は、タルク関連の賠償額のために備えて準備しておく資金を限定したことにあると主張しています。具体的には、同社は現在および将来起こされる訴訟で命じられる賠償額の引当として、これまでに20億ドルしか確保していないのです。この金額は、ジョンソン・エンド・ジョンソンが昨年夏の広域係属訴訟で卵巣癌を患っていた原告団に提示したとされる金額の半分以下でしかありません。中皮腫の案件でも賠償金を支払うことになるでしょうから、20億ドルでは全く足りないことは明白です。そして、言うまでもないことですが、20億ドルというのは、同社の資産から見れば微々たるものでしかありません。企業の姿勢として、どうかと思わずにいられません。既に、ジョンソン・エンド・ジョンソンは、自社の弁護士費用として10億ドル弱を使っています。これは、同社が賠償金として確保していた額のほぼ半分に相当します。一方、同社の破産させた子会社でも弁護士費用が発生しています。その中には元連邦司法省首席訟務副長官で現在は法律事務所ホーガン・ロヴェルズ(Hogan Lovells)のパートナーであるニール・カティヤル(Neal Katyal)に支払った費用も含まれています。カティヤルは、1時間あたり2,465ドルの費用を請求してきます。