CAR-T 細胞療法は自己免疫疾患を“治せる病気”に変えるのか?福音はもたらされるか?最新治療の衝撃!!

Annals of Inquiry

Can a “Living Drug” Cure Autoimmune Diseases?
「生きた薬」は自己免疫疾患を治せるのか?

CAR-T was developed as a cancer treatment. Now it is showing promise for conditions that have long been considered incurable, such as lupus and multiple sclerosis.
CAR-T 細胞療法はがん治療法として開発された。現在では、ループスや多発性硬化症など、長らく不治の病と考えられてきた疾患に対しても有望であるとして期待されている。

By Jason Liebowitz March 6, 2026

1. CAR-T 細胞療法とは

 タラヤ・リード( Talaya Reid )はフィラデルフィア郊外の静かな町の高校に通っていた。ひどい倦怠感に襲われるようになり、友人と出かける代わりに午後は昼寝をして過ごすようになった。学校では無気力で成績も落ちた。卒業後はコミュニティカレッジに入学し、そこで優秀な成績を収めてテンプル大学( Temple University )に編入した。2017 年の夏、彼女が 21 歳の時のことだが、ビーチで一日過ごした後に顔に発疹が出ていることに気づいた。かかりつけ医に診てもらったが、大したことではないと軽くあしらわれた。発疹が治まらなかったため、皮膚科を受診した。より深刻な可能性が示唆された。免疫系が誤って皮膚、関節、内臓を攻撃する病気であるループス( lupus:狼瘡とも言う)である。血液検査した結果、やはりループスであることが判明した。

 しばらくはリードにそれ以上の症状は出なかった。しかし、数カ月後、腹部に激しい痛みを感じて目が覚めた。救急外来に駆け込んだ。対応した医師は尿検査を行った。タンパク質が検出された。ループスが腎臓に影響を与えている兆候である。リードは 11 日間入院し、大量の薬を投与された。退院する頃には、腎臓の機能低下と治療に使われたステロイドの影響で、体内に 20 ポンド(約 9 キロ)もの余分な水分が溜まっていた。彼女は友人たちからファッションセンスが良いと思われていたが、普通の服が着られなくなるほどであった。「足がひどくむくんで、2 サイズ大きい靴を買わなければならなかった」と彼女は私に話した。

 ループスの患者は世界で約 500 万人と推測されている。若い女性に限ると死因の上位にくる。リードを診た医師たちにできることは限られていた。炎症を抑えるものの骨折や糖尿病を引き起こす可能性のあるステロイド剤の投与である。もしくはいくつかの免疫抑制剤の投与である。しかし、これは感染症のリスクを高めるし、ループスの進行を止めるものではなかった。治療のため、彼女は学校を休まなければならなかった。治療中に髪の毛が拳ほどの大きさの塊で抜け落ちた。顔の発疹は治っても傷跡が残った。関節は痛み、脚は頻繁に水で張った。しばらくは薬によって症状を緩和できていたが、大学を卒業した頃に症状が悪化し、自宅でほぼ寝たきりになった。「発作が本当にひどい時は、母に『私が寝入るまで私の近くにいてほしい』と頼んだ」と彼女は私に語る。「そうすれば、私の呼吸が止まった際に母が 911 に電話することができるから」。

 リードにとって最も辛かったのは 2023 年初頭である。それまでと違う薬剤の点滴を受けた時だった。彼女と母親、父親は、腎臓専門医のアブダラ・ギアラ( Abdallah Geara )から、腎臓からまだタンパク質が漏れ出ていると説明を受けた。いずれ透析が必要になるだろうとのことだった。「両親や医師が、祈るようにしてとにかく頑張ろうって言ったのを覚えている」と彼女は言う。「私も含めてみんな涙を流していた」。

 ちょうどその頃、ギアラは新たなループス治療法の臨床試験が行われていることを知った。ネイチャー・メディシン誌( Nature Medicine:最高峰の国際医学学術誌)の記事に載っていたのだが、ドイツの医師らによる研究チームが重度のループス患者 5 人に CAR-T 細胞( CAR-T cells ) を 1 回投与したところ、明確な効果が示されたと報告されていた。CAR-T 細胞療法は、これまで特定の血液がん治療にのみ用いられてきた。CAR-T 細胞は、患者の免疫系から T 細胞を取り出し、特定の細胞を破壊するように遺伝子操作を施し、体内に再注入することで作られる「リビング・ドラッグ( living drug )」である(ちなみにループスの治療では、標的となるのは機能不全の B 細胞である)。驚くべきことに、ドイツ人医師らの臨床試験に参加した患者は免疫系に劇的な改善が見られた。治療後数カ月で、血液中にループスの活動の兆候はほとんど見られなくなり、治療薬の投与を中止することができた。

 ギアラは、ループスに対する CAR-T 細胞療法の臨床試験が行われているユーマス記念医療センター( UMass Memorial Medical Center:マサチューセッツ州中部に位置する同地域最大の医療施設)に勤務している知り合いに電話をかけた。患者の枠が 1 つだけ空いていることがわかった。彼はリードに、 CAR-T 細胞療法のリスクを説明した。改変された細胞が定着して増殖するためのスペースを作る必要があるために、既存の免疫細胞を除去する化学療法( chemotherapy )が必要になる。「彼は、化学療法で死ぬ可能性があると言った」と彼女は語る。「でも、ループスをコントロールできないことも私を死に至らしめる可能性があると説明した」。2024 年 3 月にリードは治療のためにユーマス記念医療センターへ行った。新しい治療に備えて自宅で使用していたステロイド剤を徐々に減らしていった。彼女は高熱を出し、血球数が急激に減少した。ループスが悪化したのである。

 リードを診ていた医師たちは、難しい選択を迫られた。当面の健康を優先して彼女を臨床試験から外すことを検討した。また、CAR-T 細胞療法の成功を危うくする可能性の高いステロイド剤を投与することも検討した。最終的に、彼らはステロイド剤を投与してから臨床試験を進めることを選択した。ステロイドはリードのループスに効果があった。しかし、改変した細胞を体内に戻した後、彼女の身体はそれに反応した。彼女は 8 日間連続で熱が出た。目が赤く腫れ、激しい痛みに耐えねばならなかった。彼女はサイトカイン放出症候群( cytokine storm:サイトカインストームとも言う)を起こしていた。これは CAR-T 細胞療法において最も注意すべき合併症の 1 つである。場合によっては命に関わることもある。彼女は 22 日間入院した。