CAR-T 細胞療法は自己免疫疾患を“治せる病気”に変えるのか?福音はもたらされるか?最新治療の衝撃!!

3. 課題と将来の展望

 タラヤ・リードは CAR-T 細胞療法の臨床試験のため数週間入院した後、近くのホテルに移り、そこで 1 カ月間療養を続けた。驚いたことに、関節の痛み、倦怠感、腫れはすべて徐々に治まった。「本当に驚いた」と彼女は語る。「まるでループスが治ったみたいだった」。それから 2 年間、彼女のループスは薬を服用することなく寛解状態を維持している
。現在、彼女は仕事に就き(生物学の学位を取得し、製薬会社に勤務)、長年彼女の日常生活を支配していた病気のことを気にせず旅行もできるようになった。

 1 月に私はペンシルベニア州にあるリードの実家の近くにあるイタリアンレストランで彼女と会った。彼女の家族も一緒だった。夕食の途中で、彼女の父親モーリス( Maurice )は、娘のループスがかつてどれほど重かったかを説明してくれた。10 フィート( 3 メートル)ほど離れた場所を指差しながら、「理学療法士が娘がこのテーブルから、あそこまで歩く時間を計ったことがある」と彼は言った。「 80 歳のお婆さんより歩くのが遅いと理学療法士に指摘されたことを覚えている」。レストランを出る時に、私はリードが椅子から立ち上がって出ていくのを見送った。兄( 24 歳)と並んだ彼女の足取りは、軽快そのものだった。「以前は娘の顔を見て、常に腫れていないか確認していた。腫れているのは悪い兆候だったから」と母親のフランシーヌ( Francine )は言う。「もうそんなことをする必要はなくなった」。

 CAR-T 細胞療法の最大の強みの 1 つは、患者の症状に合わせてそれぞれ個別に製造されることであるが、これは同時にジレンマも生み出す。先日、私はコロンビア大学細胞工学・治療イニシアチブ( Columbia Initiative in Cell Engineering and Therapy:略号 CICET )を訪れた。そこで私の患者のための CAR-T 細胞が製造されている。天井、床、壁はまぶしい蛍光灯の下で真っ白で、完全に静寂に包まれていた。まるで宇宙ステーションにいるような気分だった。施設長のヨンゼン・ワン( Yongzeng Wang )が説明してくれたのだが、交差汚染( cross contamination )を防ぐため、全ての技術者に防護服の着用を義務付けているという。また、1 度に 1 人の患者の細胞しか扱わないとのことであった。CICET は私が勤務するコロンビア大学医療センターのすぐ近くにある。これは非常に稀なことである。ほとんどの CAR-T 細胞の製造施設は患者が治療を受ける病院から遠く離れている。患者の細胞が病院から製造施設へ輸送され、いわゆるオーダーメイドの CAR-T 細胞が再び病院に戻される。しかし、そのために許容される時間数はかなりタイトである。

 コロンビア大学医療センターの細胞療法プログラムの責任者であるラン・レシェフ( Ran Reshef )に聞いたところでは、 CAR-T 細胞は製造が非常に困難であるため、通常、数十万ドルで販売されている。入院費を含めた治療費の総額は、極端な場合には患者 1 人当たり 250 万ドルに達することもある。通常、臨床試験の段階では製薬会社が費用を負担する。しかし、特定の疾病に対する新たな治療法や薬として承認された後は、保険会社もしくは患者が費用を負担しなければならない。CAR-T 細胞が高価で希少である限り、誰がその治療を受けるべきかという難しい問題は続くことになる。コロンビア大学ループスセンターのアスカナセ所長が私に言ったのは、臨床試験の参加者は治療を必要とするほど重篤な状態であると同時に、治療に耐えられるほど健康でなければならないということである。直近で候補者となった者がいたのだが、最終的には選ばれなかった。医学的な見地からすると理想的であったが、シングルマザーであるため、入院する時に子供の世話をしてくれる人を見つけることができなかった。「私たちはすべての患者を助けたいと思っているのだが、それができない。誰かにノーと言うのは胸が張り裂ける思いである」とアスカナセは語る。現状では、多くの患者がノーを宣告されている。

 レシェフは、 CAR-T 細胞の新たな製造方法が開発されるのを心待ちにしている。この治療法がより安価で容易になる可能性があると期待している。臨床試験の段階であるが、患者自身の T 細胞ではなく健康なドナーから採取した T 細胞を用いて作られた、複数の患者に使用できる同種異型 CAR-T 細胞を使う方法を研究している研究チームもある。また、患者の体内で T 細胞を再プログラムすることを可能にする方法を確立しつつある研究チームもある。この方法であれば CAR-T 細胞製造のための特殊な施設は不要となる。どちらの方法もコスト削減と治療可能件数増につながる可能性があるのだが、既存の CAR-T 細胞療法と同等の効果が得られるかどうかは、現時点ではまだ分からない。

 しかし、CAR-T 細胞療法は、既にループス患者や医師の常識を大きく変えてきた。エアランゲン・ニュルンベルク大学のシェットに話を聞いたところ、どんな病気であっても医師のもとを訪れる患者はそれが治るという純粋な希望を持っていると指摘した。しかし、自己免疫疾患を治療する医師は、これまでは確実に治癒できるという言葉を返すことができなかった。「私たちは、自己免疫疾患の患者が完治することはないという考えにあまりにも慣れてしまった。しかし、今ではそう考えるのはナンセンスになりつつある」とシェットは私に語る。「いずれ患者に CAR-T 細胞療法を気軽に勧めることができる日が来るだろう。それで治療を開始して、5 年後に患者に再発や症状悪化がなく、さらなる治療も不要となる。そんな症例が増えて、医師は患者に自信を持って完治可能であると伝えることができるようになるだろう」。♦


以上