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「それですべて終わった。」と、ビルは言った。「でも、それで終わりではなかったんだ。その後、すべてが上手くいかなくなってしまった」。彼は、高校では勉強、運動いずれも優秀だった。しかし、心の闇は晴れなかった。「そして、それは何年も悪化の一途をたどったんだ。」と、彼は言った。彼は医学部を卒業し、臨床薬理学の修士課程を修了した。結婚もした。しかし、彼の不安は消えず、うつ病で入院しなければならないこともあった。後に彼が気づいたのは、大人になってから自身の不調はコロラドでの体験に関係しているということだった。「神に背を向けたからだ。」と、彼は言った。「今はそう解釈している」。
彼によると、一番強烈に記憶に残っている瞬間は10日目か11日目のことで、衰弱が激しかったため、このまま死ぬのではないかと思ったという。彼は短い沈黙の祈りを捧げた。もし救助されたら自分の人生を神に捧げると約束した。祈り終えた瞬間、左方から峡谷沿いに白いヘリコプターが飛んでくるのが見えた。「幻覚ではなかったんだよ。」と、彼は言った。「後で親父に白いヘリコプターが飛んでいたか聞いたんだ。そしたら、間違いなく飛んでいたことが分かったんだ。捜索のために投入されたベル・ヒューイ(Bell Huey:ベル・ヘリコプター社製の小型ヘリ)だったんだよ」。ビルは神が彼の祈りに答えてくださったと確信した。同時にパニックに陥り、約束を撤回した。「神の前にいる時に嘘はつけないからね。」と、彼は言った。「まるで自分の心のすべてが自分自身にさらけ出されたように感じたんだ。私は嘘をついていた。私は神に仕えることを望んでいないことを悟った。すると、ヘリコプターは通り過ぎてしまったんだ」。
彼が発見された直後のノートの記述では、この心変わりに言及することを意図的に避けていた。1988年、彼は、35歳でネブラスカ大学医療センター(the University of Nebraska Medical Center)で働いていたが、同僚の薬剤師2人と教会に通い始めた。「人々が祭壇に上がり、キリストを受け入れるのを見た。私は本当に何も信じていない、と思った。」と、彼は言った。しかし、ある日、教会にいる時だったが、彼は突然、神によってホーリークロス山に、まさしく神を否定した瞬間に連れ戻されたように感じた。彼には、声が聞こえなかった。しかし、神の声が心の中に届いたのだ。神が彼に「私はまだイエスと言っている。あなたはどうですか?」と、ささやいていた。彼の人生はその瞬間から大きく変わった。「信仰に熱心ではなかった私に、神が2度目のチャンスを与えた。」と、彼は言った。2011年に彼は医師の職を辞した。4年間かけて、フィラデルフィア郊外のカトリックの神学校で学位を取得した。今日、彼が認識しているのは、山で遭難した後、神に2度救われたということだ。1度目は山で、2度目は20年後、そして永遠に救済された。