中国の対米輸出急増! コロナ禍も米中貿易摩擦も関係ない

米中間の情報の不均衡 中国だけが相手の動向把握

9月25日、リ・デウェイは、売上は依然として好調であると私に話しました。それは中国の多くの企業に当てはまりました。第3四半期には、中国の経済成長率は5%弱でした。ここ数ヶ月、彼は新入社員を数人雇用していましたが、従業員の数をパンデミック前まで戻すつもりはありませんでした。彼は、効率を改善する良い機会だと考えていました。彼は34歳でしたが、自分の会社の中で最年長でした。
 Pemily12 のウェブサイトには毎日400人のユニークビジターが訪れ、1日当りの売上は数千ドルでした。リ・デウェイは、米国ではパンデミック下でペットの飼育が増えていると推測し、自社のビジネスの成長の可能性は非常に高いと信じていました。いつも彼は海外の状況に目を配っいますが、私に言ったのは、米国の感染防止対策には失望したということでした。彼は感染状況が悲惨なインドを引き合いに出して言いました、「インドにはそもそも感染拡大に対処する能力がありません。しかし、米国には能力があるのですから、現在のような状況は回避できたはずです。」と。
 彼はトランプが大統領選で勝つと信じていました。私の知っていた多くの中国人は同じ考えでした。11月初旬、紹興市で旗を作っているジン・ガンが私に言ったのは、その頃トランプを応援するバナーの注文が激増していたのでトランプ陣営の勝利を確信しているということでした。四川大学で、私は教えている生徒たちにどちらが勝つか聞いてみました。54%がトランプの勝利を予想していました。
 多くの学生がフォックスニュースの選挙に関する報道を見ていました。中国共産党は、CNNやタイムズ紙や他の米国の報道機関のウェブサイトとは異なり、フォックスニュースのウェブサイトはブロックしていませんでした。というのは、そこに表示されている情報は特に問題ない可能性が高いと認識していたからです。教えていたクラスで、私は生徒にフォックスニュースで見た内容について討議しました。私は彼らに私が応援していたコロラド州選出の下院議員のローレン・ボーベルトの選挙活動のことを説明したりしました。11月中旬、私が受け持っていたジャーナリズムに関する授業で最前列の学生の1人が「Trump:Keep America Great(トランプは偉大なアメリカを守る)」というロゴの野球帽をかぶっていました。彼が言っていたのは、トランプが大統領に再選された方が好ましいということでした。中国語でしたが「Make China Great Again Trump(トランプは中国を再び偉大にする)」と言っていました。
 ほとんどの学生が大統領選の結果には興味があると言っていました。「大統領選の結果には大変興味があります。それは中国と私の将来に影響を及ぼします。私は米国留学を計画しているからです。私が感じているのは、米国の政治家は昔に比べると礼節をわきまえなくなったということです。大統領選後に、負けた方の陣営がどんな野蛮な行動をとるのかということに注目しています。」と提出された課題の中に記していた工学部生もいました。
 米国留学をする計画を既に断念した学生もそれなりにいたようです。親が反対しているので米国留学を断念した生徒もいるようでした。米中間の政治的対立、米国の感染拡大状況、人種差別抗議運動の激化などを懸念している親が多いようでした。中国の報道機関はそうしたことをしきりに暴力的に描写していました。たとえジョー・バイデンが大統領選で勝利しても、米中関係が急速に改善する可能性は低いように思われました。私が米国務省で話をした人たちは、少なくともいくつかの学術的および文化的交流が再開されるだろうと予測していました。しかし、再開されてとしても直ぐではないでしょう。
 一方、中国に滞在したことのある人なら誰でも感じるのですが、中国には情報の不均衡が存在しています。教育を受けた全ての中国人は少なくともある程度は英語を勉強していて、ハリウッド映画やテレビ番組などを通じて米国文化に触れることができました。リ・デウェイのような貿易業を営む者は、仮想プライベートネットワークを使用していました。中国政府は意図的に検閲網に穴が開いているのを放置していました。それは事業を営む者にとって有用であるという理由からでした。私が義烏市を訪れた時、ホテル全体が仮想プライベートネットワークに繋がっていたため、商談で当地を訪れていた人たちはグーグルやフェイスブックなどにも自由にアクセスできました。しかし、米国人にとっては、中国はとても閉鎖的でした。米国が中国にいた外交官やジャーナリストやビジネスマンを撤退させてしませば、中国に関して元々乏しかった情報はますます少なくなるでしょう。
 中国政府には、米中間の政治的緊張を何とかして解消しなければならないという切迫感は全くありませんでした。というのは、2020年も他の主要先進国と異なって中国だけが経済成長を続けていたからです。新型コロナ感染防止策に対する国民からの支持もますます高まっていました。それで、中国政府は少し大胆になり過ぎましたのかもしれません。秋に、新疆ウイグル自治区と香港で弾圧が強化されました。武漢でのコロナの初期対応の過ちに関しての調査は検閲されましたし、感染拡大の警鐘を鳴らしていた7人のジャーナリストとコメンテーターは全て拘留されたか行方不明となっていました。中国政府は中国企業が開発した4種類のワクチンの緊急使用を承認しましたが、大規模なワクチン接種はまだ行われていませんでした。おそらく、中国政府は海外での感染拡大状況の進展を見極めているのでしょう。中国政府は忍耐強く行動する余裕がありました。なぜなら、国内ではほとんど感染が広がっていなかったからです。私が米国にいる知人や親戚と話をすると、必ずワクチンの話題に行きつきます。しかし、中国の人たちが会話していてワクチンのことが話題になることはめったにありません。
 2020年の中国での私の行動は、ますます米国では考えられないような形になっていました。私は、精力的に仕事をし、講義を行い、出張したり、対面での取材も行いました。ウイルス感染を心配したことはありませんでした。8月に武漢で1週間半取材活動をした後、翌日には杭州に飛行機で出張してマスクを着けていない人たちでいっぱいの講堂での講演を聞きました。その講演の後、私は中国で最も裕福な男と言われているジャック・マーと握手を交わしました。中国式の古いやり方で、顔を触ったりもしました。私以外にも20人くらいが同じようにしていました。中国では、人々の交流方法に変化はほとんどありませんでしたし、中国人が「パンデミック疲れ」について言及しているのは聞いたことがありませんでした。中国では3千万人の大学生がオンライン形式ではなく大学の教室で授業を受けていましたが、感染例が報告されたのはたったの2件のみでした。
 多くの点で、中国の社会構造は他の国々とは違い、パンデミックに対処するのに非常に適していたと言えます。米国の社会構造は全く逆で、実際パンデミックに上手く対処できていませんでした。多くの中国人が、こうした米中の対比を見て、中国は米国に劣っていないという自信を持ったかもしれません。しかし、より思慮深い人たちは自信過剰になることを心配していました。上海の民間シンクタンクの創設者で経済学者のゲイリー・リュウは私に言いました、「現在はパンデミック下で普段とは異なる特殊な状況です。その特殊な状況に基づいて長期的な結論を出すことはできません。」と。彼が心配しているのは、パンデミック下の特殊な状況によって、中国の独裁主義的な支配構造が正当化されてしまうことでした。