Annals of Psychology September 28, 2020 Issue
The Public-Shaming Pandemic
(コロナ禍で加速するネットリンチ)
Around the world, people who accidentally spread the coronavirus must face both a dangerous illness and an onslaught of online condemnation.
(コロナウイルス感染者は、病気とネットリンチという2つの危機に直面する。)
By D. T. Max September 21, 2020
ネットリンチ!ベトナムの感染者ヌウン・グエンの事例
2月18日、旅行とオートクチュールが好きなインスタグラムのインフルエンサーであるガー・グエン は、彼女の現在の住まいのあるロンドンからミラノに飛び、そこでグッチの春物の展示会に参加しました。グッチは飛行機とホテル代を負担しました。ガーは28歳です。彼女は、ほとんど全てのブランドと良い関係を築いていると言います。彼女は、1歳年下の妹ヌウン(ハノイに住んでいて、家族で高級ホテルを経営している)とミラノで合流しました。グッチのイベントの1週間後、2人はサン・ローランのショーを見るためユーロスターに乗ってパリに行きました。それから、ロンドンへ行き、ガーの住まいに泊まりました。3月1日、ヌウンはベトナムに戻り、ガーは仕事で短期間ドイツに行きました。ドイツでガーは親類の1人を医者へ連れて行きました。ガーは診察室で少し咳をしました。それで、医師からコロナウイルス検査をしてみてはどうかと提案されました。彼女は冗談だろうと思っていました。
医師はガーの鼻の粘膜を綿棒でこすり粘液を採取しました。そして、結果が出るまで親類の家に留まるよう彼女に言いました。彼女は体調は悪くありませんでした。しかし、その夜は少し熱が出ました。咳の症状は悪化しました。2日後、彼女は肺炎にかかり、コロナウイルス検査の結果は陽性と判明しました。普段は30分で4マイル(約5.4キロ)を走れましたが、かろうじて歩くことしかができませんでした。3月12日、ガーは救急車で病院に運ばれました。彼女は1週間以上入院した後、親類の家に戻り。そこで症状が完全に無くなりました。今彼女はロンドンに戻っていますが、ドイツで受けた治療には非常に感謝をしています。
ヌウンがハノイに到着した時、彼女は空港の検疫所で検査を受けて、熱はありませんでした。しかし、彼女はその夜には咳が出始めました。4日後、彼女はハノイで最初に確認されたCOVID-19感染者となりました。それで、当地の国立病院に2週間隔離されました。その後、家に帰って療養しました。彼女も回復し、治療してくれた医療関係者には大変感謝していました。
グエン姉妹は2人とも新型コロナウイルスに感染しました。しかし、2人が経験したことは、1つの重要な点で違いがありました。EU加盟国ではプライバシーは十分保護されていますので、ガーが感染したことは、家族と数人の友人以外は誰も知りませんでした。それに対して、ヌウンの感染は誰もが知っている公然の事実となりました。ヌウンが陽性であると診断される前に、ベトナムでは首都ハノイの周辺でコロナウイルスの感染例が数件発生していましたが、感染は拡がらず収束していました。あるベトナムのジャーナリストは私に言いました、「政府はベトナムには新型コロナ感染者は1人もいないと宣言することを目論んでいました。」と。ヌウンがその計画を台無しにしてしまいました。当局は、ハノイの市民を外出禁止とし、ヌウンの住んでいる辺りは封鎖することを決めました。ベトナム政府がしたのは、それだけではありませんでした。市民にコロナを怖がらせて予防する行動をとらせるための記事を新聞に載せたりしました。また、若い感染者の病状に関するミーティングの動画を報道関係者を招いて見せていました。その動画が公開されて1時間後には、ヌウンがどういった人物であるかということが特定され、ヌウンのSNSのアカウントも特定されてしまいました。
1日も経たない内にヌウンのインスタグラムアカウントには1万人の新しいフォロワーが増えました。その多くが彼女を非難していました。もはや制御不能な状態になったため、彼女はアカウントを非公開にしました。彼女は病院に入院していましたが、彼女が街で騒いでいるのを見たと主張する者が後を絶ちませんでした。ネット上には、ヌウンに似た女性がユニクロのグランドオープンした店に居る写真がアップされていました。その画像はインスタグラムで感染しているにもかかわらず外出している証拠としてリポストされていました。また、あたかもヌウンが躊躇なく通行人にコロナを感染させているとほのめかしながら、ハノイの夜の街タヒエンを全くヌウンと似ていない女性が歩いている画像を投稿している者もいました。さらには、ヌウンが高級住宅街であるビンホームズ・タイムズ・シティーの彼氏宅に行っているという噂も流れていました。
ベトナム政府には、ヌウンを見せしめにしようという意図が明確にありました。ですから、彼女がロンドンから帰国した時に、イタリアへ行ったことを空港の検疫で申告しなかったということが公表されました。また、ヌウンが彼女の姉に感染させただけでなく、飛行機の中で他の10人にも感染させた可能性があり、その全員が直後に検査で陽性と判明したこと、空港で彼女を拾った運転手、家政婦、叔母1人を感染させたことも公表されました。飛機で感染した乗客の何人かは英国の観光客であったので、英紙デイリーメールは、ヌウンがスーパースプレッダーであるという見出しの記事を掲載しました。ベトナム政府は、彼女が回復していることを証明するために、病室のヌウンの写真を投稿しました。そして、そうした画像はソーシャルメディアのユーザーが彼女を非難する際に利用されました。
怒りの矛先はヨーロッパにいたガーにも向きました。ガーの写真は、ファッション業界誌とCOVID-19の拡大に関する記事に使われていました。彼女はおそらく誰にもウイルスを感染させていないのですが、もはやそんな事実はどうでも良くなっていました。ガーは言いました、「ファッションショーで接触のあった人たち全員が感染していません。近くにいた私のカメラマンとメイクアップアーティストも何の問題もありませんでした。」と。それにもかかわらず、激怒したベトナム人たちはガーのインスタグラムのアカウントを探し出しました。そこには、彼女のミラノとパリへの先日の旅行の写真もありました。多くの写真の中には、ミコノス島で休暇を取った際の古い写真もありましたした。その時はサンローランの服を着て、そばには”塩振りおじさん”が立っていました。。”塩振りおじさん”は、トルコの人気シェフで、料理中に大げさに塩を振ることで有名です。誰かがそのミコノス島の写真を加工していました。塩の代わりに王冠を点在させ、まるでガーがコロナウイルスを塩のようにばら撒いているように見える画像でした。その画像には、11000もの「いいね」が付きました。あるベトナム人のコメンターは、「ガーは、くそビッチだ」と記しました。また別の者は、「ガーの家族全員犯してやる」と記していました。
ガーが有名になれた源泉は、非常に魅力的なインスタグラムアカウントでした。しかし、今では、インスタグラムは、彼女と妹を打ちのめす道具となってしまっています。インスタグラムユーザーの中には、グエン姉妹を喧嘩させようと試みている者もいました。ハロン市の女性はガーに向けて次のような内容の書き込みをしました、「長い間あなたのファンです。あなたには才能があるからです。しかし、あなたの妹は全く受け入れることが出来ません。あなたと、家族が早く良くなるように祈っています。」と。
姉妹は、病気で一番つらい状況であった時に、非難され攻撃されていました。ヌウンは身を隠し、引きこもっていました。ガーは言いました、「いろいろと中傷されていましたから、入院したって治る病気も治らないんじゃないかと思うくらいでした。攻撃された根底には、嫉妬があったと思います。ベトナムでは、私たち姉妹の生活は恵まれすぎていたからです。海外旅行にも何度も行っていました。」と。また、ガーは、ベトナムの国外で姉妹が多くの非難を浴びたのは、人種差別が根底にあったと考えています。パリス・ヒルトンが同じことをしても、誰も非難しなかっただろうと彼女は推測しています。