ネットリンチ!マンハッタンの感染者ローレンス・ガルプスの事例
ローレンス・ガルブスは、不動産信託が専門の弁護士です。51歳です。住まいはウェストチェスター郡ニューロシェルにあり、マンハッタンのミッドタウンで妻アディナ・ルイスと共同設立した弁護士事務所で働いています。子供は4人います。1人はイェシーバー大学で、1人はブロンクスの高校に通っています。
2月のことでしたが、ガルブスは咳が出て発熱もありました。その当時は、COVID-19の感染が判明していた米国人は、海外に行っていた人か感染者と接触した人しかいませんでした。ガルブスはその頃は全く旅行などしていませんでしたし、だいたい事務所で仕事しているか家にいました。だから、感染したかもしれないなどとは全く思いませんでした。
それでも症状が悪化するばかりで、ホームドクターに勧められたので病院に行くことにしました。友人がブロンクスビル病院まで車で連れて行きました。X線検査により、単なる肺炎であることが判明しました。彼を隔離するための特別な措置は取られませんでした。ガルブスはニューロシェルのシナゴーグの運営に携わっていました。そのシナゴーグではユダヤ人の伝統である病気の人がいたらその家を訪問するということが守られていました。それで、知人が、十数人ほどですがガルブスの見舞いに来ました。それから4日後、彼は呼吸困難に陥り、挿管されてコロンビア長老派病院に移送されました。この時も特別な感染予防措置はとられませんでした。それから、3月2日になって、彼はCOVID-19に感染していると診断されました。昏睡状態に陥ったため、人工呼吸器を使用しました。3週間後、ガルブスは危機を脱しました。しかし、その時点で、ニューヨーク州のCOVID-19感染者は2万3千人以上に増えていました。
ガルブスはブロンクスビル病院に行く前に、葬式1件とバルミツワー(ユダヤ教の成人を祝う儀式)1件に参列していました。意図したわけではないものの100以上の知人と濃厚接触していました。不運なことですが、彼は非常に効率的にウイルスをばら撒いてしまっていました。彼の妻、同居の子供2人、病院に連れて行ってくれた友人、彼と接触した看護師1人が直ぐに感染していることが判明しました。トータルで、ガルブスが感染源と思われる感染者の数は90人でした。
ガルブスが陽性と診断された時、まだ米国は中国やイタリアが陥ったような危機的な状況は回避することが出来るだろう信じられていました。3月3日、ニューヨーク市長ビル・デブラシオは、ガルブスの法律事務所の名前”ルイス・アンド・ガルブス”をツイートしました。また、ガルブスの子供たちがどこの学校に通っているかも示していました。市長の意図は、ガルブスやその家族と接触した可能性のある人に用心してもらうことでした。しかし、結果的には、患者のプライバシーが暴かれてしまいました。ツイッターで、あるコメンターが疑問を呈し、「陽性になったからといって、これだけの個人情報を漏らしちゃっていいんですかね?」と記していました。
アディナ・ルイスは長い間ソーシャルメディアを使用して、個人的な生活の変化を投稿していました。デブラシオがツイートした後、彼女はフェイスブックに次のように書いています、「全てのニューヨーク市民にお願いしたいのですが、今回の件から学んで欲しいことは、私たちに起こったことはいつあなたに起こっても不思議ではないということです。」と。その投稿にコメントをしたフェイスブックユーザーのほとんどは彼女の夫が早く回復することを望んでいました。「責められるべき行為など何もしていないのに酷い状況になってしまい本当にかわいそうです。何と言って良いか言葉もありません。」という投稿がありました。また、批判を続けている者もいました。「あなたたちの法律事務所が再開しないことを祈っている。周りの者が迷惑するからね。」という投稿がありました。その投稿は、ガルブスが会ったこともない若い男性によるものでした。心無い非難は、ネット上だけにとどまりませんでした。ニューロシェルの洗濯屋は、ガルブス家の来店を拒否しました。また、1週間以上も郵便物が配達されませんでした。ルイスが区長に苦情を言ってからようやく配達は再開されました。
プリム祭(ユダヤ教の祭)で、ルイスはフェイスブックを祝日を祝うために再開しました。困難なコロナウイルスの感染禍においても神のご加護がありますようにと祈る気持ちを表現しようと思いました。彼女の夫ガルブスは、感染していると認識することは不可能でしたので非難される理由はないということを皆に知ってもらいたいと思っていました。それで、次のような投稿をしました、「コロナ禍の酷い状況の中でも皆様に祝福がおとずれるようお祈りします。私の夫ガルブスは神に仕わされて神のメッセージを伝えるために感染したのだと思います。神は、非難の応酬をしてはいけないということを知らしめようとしたのではないでしょうか。冷静に落ち着きましょう。この不条理な状況でもユーモアの心を持ち続けなければなりません。そうすれば、何時かきっと現在の状況を振り返って、あの時は本当にしんどかったと言って笑い合える日が来るでしょう。」と。
彼女の投稿には400以上のコメントが付きました。ほとんどが投稿に批判的な内容でした。ウエストチェスター郡ライ市在住の男性のコメントは、特に辛辣でした。「”祝福”だって?よくそんなこと言えるな。あんたの旦那はパーティーに参加したんだぞ。それも3つだ。地下鉄で北の方へも行ってる。ウイルスだらけの手で吊革や扉を触りまくってだ。何人感染させたと思ってるんだ。分別というものが無いんじゃないか。恐れ知らずも甚だしいわ。」というコメントを残しました。クイーンズ在住の男性は、「ガルブスはシナゴーグに何度も行ってるんだよ。そのせいでラビや信徒が何人も感染したんだよ。それで、今度はそいつらが何百人にもウイルスをばら撒いたんだ。今ではニューヨーク市全体で感染者は2万人を超えている。死者は157人だ。家賃が払えない人もいっぱいいる。それなのに”祝福”なんて良く言えるもんだな。」というコメントを残しました。また、「身内にコロナで亡くなった者が1人います。あなたの夫が神の使者でメッセージを伝えたと讃えることなど出来ません。そのために何で殺されなきゃならないんですか。」というコメントもありました。また、ルイスのフェイスブックにガルブスの会計事務所が再開してほしくないと投稿していた若い男によるコメントもありました。「ガルブスは死ぬべきだ。卑劣な男だ。何万人が危険にさらされたと思っているんだ。こんなことして二度とニューヨークで生活できるなんて思うなよ。報いを受けるべきだ。」というコメントでした。