つるし上げは、感染症が蔓延する時にはいつも見られる現象
感染症に罹患した人が非難の的になるということはしばしば起こることです。1907年、ニューヨークの裕福な家庭で料理人として仕えているメアリー・マロンという女性がいました。彼女は、腸チフス菌の最初の健康な保菌者と診断されました。彼女は、意図せず仕えている家の家族8人の内の7人に病気をうつしてしまいました。マロンは隔離されているよう命じられましたが、従いませんでした。彼女は保菌者ではあるものの発症していないのだから、他人にうつすはずは無いだろうと見られていました。彼女は再び料理人として働かないことに同意した後、隔離されずに自由の身となりました。しかし、彼女は偽名を使って別の家庭の料理人となり、結果、より多くの人が感染症にかかりました。強制的に隔離された彼女は新聞で非難されました。彼女には刺激的なあだ名が付けられました。「チフスのメアリー」です。ある記事には、フライパンで頭蓋骨をソテーしている女性のイラストが載っていました。マロンは1909年に書いた手紙の中で、自分は恥ずかしい見世物になってしまったと嘆き悲しんでいました。
1918年にインフルエンザが流行した時、米国は第1次大戦下でしたので、軍上層部は愛国心を持つよう鼓舞しながら、感染を食い止めるための施策を遵守するよう呼びかけていました。サンフランシスコでは、マスクが義務化され、その年の10月にはサンフランシスコの住民100人がその規則に違反したとして逮捕されました。(ほとんどの人はうっかり忘れてしまったという言い訳をしました。)雑誌クロニクルには、違反者の名前の一覧表が掲載されました。そこには、説明文があり、「マスクを着けていない者は、老若男女問わず危険な反乱分子だ。」と書いてありました。
つるし上げは、感染症が蔓延する時にはいつも見られる現象です。エイズの時もSARSの時もそうでした。しかし、COVID-19が蔓延し始めた時に、今までの感染症の経験が生かされて、つるし上げが発生しないよう準備出来ていたわけではありません。旧来の生活スタイルがすっかり一変してしまった時、ソーシャルメディアの利用は急増し、旧来普通にしていたことが危険を招くようになり、毎日のようにネットでは炎上騒ぎが繰り返されています。トイレットペーパーやペーパータオルを溜め込んでいたり、食料品を買いに外出したりしただけでつるし上げされることがあります。また、マスクを着用していなかったり、医療従事者でもないのに高機能のマスクを着用していてもつるし上げにあいます。健康に過度の注意を払っても、逆に十分に注意を払わなくてもつるし上げにあいます。英国では、警察がカメラ付きドローンを飛ばしています。犬がいることを口実にして犬と不要な外出をしている者を見つけてつるし上げするためです。フロリダでは、死神の仮想をした男がビーチにいる人たちに距離を保つように呼びかけていました。その男は、ネット上で殺害予告を受けました。
何が正しい行動なのかということについての共通理解がない場合には、ネットリンチは大規模で激しいものになるようです。多くのCOVID-19に関する法令は残念ながらあいまいです。なぜなら、疫学的にまだ分かっていないこともあるからです。日光浴の際にはどれくらい距離を空ければよいのか?フェースシールドで飛沫を封じ込めるのは不可能ではないか?それとも旧来のマスクと同じくらい効果があるのか?といったことについて、人によって言うことが異なります。米国では、専門家を馬鹿にすることで自分を賢く見せて人気を得ようとしている大統領が国を率いています。民主党支持層は驚くばかりですが、大統領はマスクを着用することを拒否しています。それを見ている彼の支持者たちには、大統領がマスクを着用している者を軽蔑している気持ちが透けて見えています。それで、彼らはマスク着用者を激しく非難していました。
テネシー州出身の兄弟2人が、ネットで転売するために1万8000本近くの手指用消毒剤を買い集めた時、ソーシャルメディアのユーザーはそれをこぞって非難しました。ニュージャージー州の女性は、「テネシー州の兄弟は、消毒剤を過剰摂取して死んでくれ。能無しのろくでなしどもは死ね。」とツイートしました。かなりの批判を受けたので、兄弟2人は商品は転売せずに、寄付することにしました。兄弟の片方が謝罪をし、「我々が買い占めたことにより、消毒剤を買おうとした人が買えなくなってしまって本当に申し訳ない。」と投稿しました。ネットリンチによって、人を悔悛させることもあるようです。
スーパースプレッダーが他の人に故意に病気を感染させるているように扱われていることがありますが、実際には、誰かが意図的に新型コロナウイルスを無防備な人々にうつしたという事例は発生していません。3月、ABCテレビがニュースで報じたのですが、極右グループが感染したメンバーをユダヤ教集会に送り込んだり、警察官にウイルスを含んだ液体を噴霧することを計画していました。そのことでFBIが全国の警察署に警戒するよう警告を発していました。しかし、今のところ、故意に誰かをウイルスに感染させるという事案は発生していません。