ネットリンチ!コロナ感染者を苦しめるのはウイルスだけではない

ネットリンチ!ポーランドの感染者ヴォウチェフ・ロキタの事例

パンデミックが始まった時、ポーランドのキェルツェに住む産婦人科医のヴォイチェフ・ロキタは、地区保健所の顧問もしていました。彼の指導により、その地域の全国で最悪だった新生児死亡率は改善され、最も低くなりました。2018年、彼は52歳でしたが、ポーランドの産婦人科医協会の会長に選出されました。誇り高き完璧主義者のロキタは、部下がミスした際に厳しく叱ることでも有名でした。
 3月8日、まだポーランドではCOVID -19の感染者は確認されていませんでしたので、ロキタは妻を連れて友人夫婦と4人でスイスのアルプスに休みを利用してスキーをしに行きました。ロキタはポーランドでコロナウイルスの感染が発生した場合の産科の感染患者を治療するためのガイドラインの策定に尽力していましたので、スキーリゾートでは、ヨーロッパでの感染拡大状況をチェックするため頻繁にニュースをチェックしました。スイスでの感染が急激に増えていることを懸念して、彼らは予定を切り上げて早めに帰国しました。キェルツェには3月11日に戻りました。彼らがアルプスに行っている間に、ポーランドは初のCOVID-19感染者が確認されました。彼が家に戻ってから3日後の3月14日、ポーランドは国境を封鎖しました。
 ロキタの仕事は患者との接触を伴うため、検査を受けました。結果が出るまでに30時間かかるので、その間、いくつか用事を済ませました。BMWのディラーから妻の修理が終わった車を受け取ったりしました。その日遅くに、彼が陽性であると判明しました。彼は勤務先の病院で隔離されました。地区の保健所に連絡して接触者の名前を伝えました。
 すぐに、エコードニア新聞はキェルツェ地区で最初の新型コロナウイルスの感染者が出たことと、それが医師であることを知りました。そして、そのニュースをネットで流しました。30分も経たない内に、コメント欄では感染したのはロキタだと特定されていました。BMWディーラーの従業員の1人は、ロキタは従業員に対して安全な距離を保っていなかったと主張しました。エコードニア新聞のニュースは、彼がディーラーに行った時点では陽性での結果を受け取っていなかったことには言及していませんでした。ロキタの勤めている病院の看護師の何人かが「ロキタは職場に立ち寄っていました。それは感染防止ルールに違反しています(このコメントは後で削除されました。監視カメラの画像をチェックしたところ彼は立ち寄っていませんでした)。」とコメントしていました。憤慨しているという内容のコメントが急増しました。その中には、彼を個人的に知っている人たちからのコメントもありました。「神に感謝します。こんなの奇跡だわ。先週予約をすっぽかしたんです。彼はわざと私を感染させようとしていたんじゃないかと思います。先週ロキタと接触せずに済んだ幸運な私と違って、不幸な患者が沢山いるんじゃないかと思うととても心配です。」と匿名でコメントをしていたのは病院の事務職員でロキタが診察している患者でもありました。
 エコードニア新聞のサイトには、「誰かロキタの顔に唾を吐きかけてくれ。」と記したコメンターがいました。「ロキタは医者であるにもかかわらず、コロナが流行し始めたのにスキーに行ったんだから、本当の能無しだとしか考えられない。」と記したコメンターもいました。ロキタのスマホには、彼を批判するための着信が膨大だったため、彼の家族は連絡を取ることが不可能な状態でした。家族は誰かに家に放火されるのではないかいう心配をしなければならない状況でした。
 3月14日、ロキタは自発的に病院内に閉じこもっていました。そこから、エコードニア新聞に電話をかけ、嫌がらせをやめさせるように懇願しました。編集長はロキタに言いました。フェイスブックページの彼に関するコメントを制限することは、人々をもっと怒らせるることになるだけだ、と。ロキタの娘カロリナによれば、編集長はロキタにエコードニア新聞の記者の取材を受ける機会を設けるよう説得しました。そうすることにより、彼の評判を取り戻すことが出来るかもしれないと考えたからです。ロキタは検討しますと答えました。2日後、エコードニア新聞は、ポーランドの感染者が734人に達したと報じました。誰もが心配になりましたし、陰謀だと疑う人も少なからずいました。翌日、誰かがエコードニア新聞のフェイスブックページに、「くそったれ、もう陰謀は止めてくれ。隠していることを全部明らかにしてくれ。」と書き込みました。
 ロキタは、家族に困難な状況はすぐに終わると思わせようと振舞っていましたが、人知れず苦しんでいました。娘のカロリナは言いました、「父は圧倒されていました。四六時中非難されていましたし、攻撃的なコメント、メッセージ、電話が膨大でしたし、知り合いやかつて治療した人からも非難されていたことが特にショックのようでした。」と。ロキタは古い友人から短い「気分はどう?」というテキストメッセージを貰い感動しました。それで、「まだ何とか生きているよ。」と返しました。
 その日、彼は病院から娘のカロリナとFaceTimeを使って会話しました。カロリナにはロキタが非常に辛そうな顔をしているように見えました。それで、大丈夫?と彼に問いました。彼は疲れているだけだから問題ないと答えました。その夜、彼の妻は彼の携帯電話に電話をかけましたが、彼は電話に出ませんでした。翌日、エコードニア新聞はロキタが自殺したと報じました。その時、ロキタの家族は誰もその事実を知りませんでした。すぐに、ネット上のコメンターがロキタが首を吊って死んだことを明かしました。
 カロリナは、ロキタが自殺したのは、家族に対する魔女狩りを終わらせることが目的だった考えています。彼女は言いました、「私たちはとても父を心配していたのですが、同じように父も私たちのことを心配してくれていたのです。」と。