ネットリンチ!コロナ感染者を苦しめるのはウイルスだけではない

ネットリンチは熱しやすく冷めやすい。20日もすれば興味を持たれなくなる。

やがて、ロキタに対するあんなに激しかったネットリンチも下火になっていきました。人々の関心は薄れ、攻撃的なツイートは皆の画面から消えました。現在でもかつてネット上で騒動になった件、#PlaneBreakup(訳者注:2015年ノースカロライナ州ローリーから飛び立った飛行機上でカップルが喧嘩して別れたが、その一部始終がツイッターで晒されトレンド入りした騒動)や#CecilTheLion(訳者注:2018年ミネソタの歯科医で狩猟愛好家のウォルター・パーマーがジンバブエで人気のセシルというライオンを殺したことで非難が殺到した騒動)を覚えている人はいるでしょうか。おそらく誰もいないと思います。ローレンス・ガルブスは3月末に退院し、自宅に戻りました。私は7月に彼に電話しました。しかし、彼は今回の騒動に関することを私に話すつもりは無いとして丁重に断りました。ただ、彼は言いました、「私は自分の名前をあれからグーグルで検索したことがありません。おそらく、今後も検索したくなることはないでしょう。」と。私がロンドンでガー・グエンと会った時、彼女はファッションショーが再開されるようになったら、また参加したいと言っていました。でも、そんなに優先順位は高くないとも言っていました。彼女は現在、環境に配慮した化粧品類の開発に没頭していて、今年の年末くらいには発売に漕ぎ着けたいと言っていました。彼女は私に妹ヌウンの近況について教えてくれました。それによると、ヌウンへの攻撃も時とともに下火になっていきましたが、ヌウンが精神的に受けた傷は彼女のものより大きかったそうです。かつてヌウンのことに関して話し合ったことがあるベトナム人ジャーナリストは、もう誰もヌウンのことなど話題にしていないことを教えてくれました。要するに、どんな騒動でも20日も経てば忘れ去られ、次の騒動に人々の注目は移っていくということです。
 ロキタ家の苦痛は続いていました。カロリナによれば、どこの葬儀場もロキタの葬儀をすることを拒否しました。遺体は火葬されましたが、病院関係者からは市外に埋葬すべきだと言われました。まさしく中世のライ病患者と同じ扱いをされたのです。(最終的には、関係の深かった医師が病院を説得したので、病院関係者は考えを変えました。)エコードニア新聞の編集長は、ロキタの死は本当に悲しいことだと私に言いました。編集長はロキタの自殺についての公式な説明は為されていないと言いました。それから次のように言いました、「編集スタッフはあらゆる努力をしたんです。何とかコメント欄の憎悪に満ちた書き込みの影響を最小限にならないか必死だったんです。」と。しかし、ロキタが死んでしまった後も、ネット上でロキタを傷つける投稿を続ける人はいなくなりませんでした。ロキタが自殺したのは、愚かなことで、過剰反応だと言う人もいました。ロキタの死の3週間後、ポーランドで最も権威あるワルシャワのガゼタ・ウィボルツァ新聞が、ロキタ家の苦難を哀悼する記事を載せました。しかし、その記事に対してもネット上ではおぞましく批判するコメントが沢山為されました。ある投稿者は、ロキタはネットで自分が批判されていることを気にするべきではなかったと感じていました。また、非難している連中は皆頭がいかれているんだから、連中の書き込みを気にする必要なんて無かったという投稿をする人もいました。その投稿をした人は、ロキタが自殺したのは他の理由があるのではないかと推測していました。それで「何て悲惨なことだ!おそらく、ロキタは賄賂を受け取っていたんだよ。それが露見しそうになって自殺したに違いない。」というコメントを投稿していました。
 スイスでは、ロキタからウイルスをうつされた人は1人もいません。ロキタと妻と同行した夫妻の4人は、スイスにいる時は健康を保っていました。キェルツェの保健所は、ロキタがどこで誰から感染したのか特定出来ていません。ロキタの妻は1回目の検査では陽性と診断されました。しかし、発症していなかったので再度検査を受けたところ、陰性であったことが判明しました。そのため、現在ロキタのテストサンプルの再評価をしている最中です。何カ月も結果が出ない状況が続いています。カロリナは当地の保健所の無能さを隠すために、隠蔽しているのではないかと疑っています。彼女によれば、キェルツェ市を中心としたエリアでCOVID-19の検査を初めて受けたのはロキタだったようです。ヌウンとガルブスが新型コロナウイルスをばら撒いたのは、故意ではないとはいえ、ほぼ間違いのない事実でしょう。しかし、ロキタは、明らかに誰にもウイルスをうつしませんでした。彼は実際にはCOVID–19に感染していなかった可能性さえあります。