The Obscene Energy Demands of A.I.
AI の多大なエネルギー消費
How can the world reach net zero if it keeps inventing new ways to consume energy?
新たにエネルギー消費の激しい技術が開発され続けた場合、排出量ネットゼロの達成は見通せなくなる?
By Elizabeth Kolbert March 9, 2024
2016 年にアレックス・デ・フリース( Alex de Vries )は、1 回のビットコイン取引でアメリカの平均的な家庭が 1 日に使用するのと同等のエネルギーが消費されるという記事をどこかで目にした。当時、オランダ人のデ・フリースはコンサルティング会社で働いていた。趣味で、暗号通貨への投資のリスクに関する「デジコノミスト( Digiconomist )」というブログを書いていた。彼は暗号通貨のエネルギー使用量を調べることにした。
「率直に言って、膨大な量のエネルギーを消費しているのに、なぜ誰も話題にしないのだろうと思いました。」と彼は言う。「そこで、データを調べようとしたんだけど、何も見つけられなかったんだ」。当時、デ・フリースは 27 歳だった。自分で情報を見つけ出すしかないと考えた。彼はビットコイン・エネルギー消費指数( Bitcoin Energy Consumption Index:略号 BECI )を考案し、デジコノミストに投稿した。この指数の最新の数字によると、現在、ビットコインのマイニングで、年間 1,050 億キロワット時の電力が使用されているという。オランダ全体で使用されている電力よりも多い。それだけの電力を生み出すためには 8,100 万トンの CO2 が排出される。モロッコの年間排出量よりも多い。その後、デ・フリースは、ビットコインのマイニングで発生する電子廃棄物の量(取引のたびに iPhone 1 台分発生)と水の使用量を追跡し始めた(水はマイニングに使われるサーバの冷却に使われ、電子廃棄物は古くなったサーバから排出される)。
昨年、デ・フリースは他にもエネルギーを大量消費するものがあることに気づき懸念を抱いた。AI である。「 AI も同じようにエネルギーを莫大に消費する。そのエネルギー消費量は、今後数年間で暗号通貨と同様に急激に増え続ける可能性がある。多くの人たちに AI はエネルギー集約型のテクノロジーであることを認識してもらいたい。」と彼は主張する。彼はデジコノミストに新たに「 AI 持続可能性( AI sustainability )」というタブを追加した。昨年秋にデ・フリース(当時はオランダの中央銀行に務めていた)の論文が、持続可能エネルギーの専門誌「ジュール( Joule )」に掲載された。それによれば、もし Google が検索エンジンに生成 AI を搭載した場合、電力使用量は年間 290 億キロワット時にまで増えると推定されるという。これは、ケニア、グアテマラ、クロアチアを含む多くの国が消費する電力よりも多い。
「このテクノロジーと持続可能性には根本的なミスマッチがある」とデ・フリースは言う。先日、世界で最も著名な AI 推奨者である OpenAI の CEO であるサム・アルトマンも、別の言い方ではあるが、同様の懸念を表明した。「私たちはこのテクノロジーが必要とするエネルギーの膨大さを理解できていないと思う。」と、アルトマンはダボス会議で発言した。「ブレークスルーがなければ、必要な電力を賄うことはできない。核融合技術の確立が必要である。あるいは、例えば、非常に安価な太陽光発電と蓄電装置を組み合わせることなどが必須である。それを誰も想像できないような規模の大きさで行う必要がある」。
先週、国際エネルギー機関( IEA )は、2023 年のエネルギー関連の世界 CO2 排出量が再び増加し、370 億トンを超えたと発表した。全世界が排出量ネットゼロ( net-zero emissions:排出量を正味ゼロ化すること)の達成に向けて協力している中で逆に増加してしまったわけだが、控えめに言って世界的な取り組みが全く十分ではないことを示している。排出量増加の多くは中国によるものである。そのほとんどは内燃機関など 100 年以上前のテクノロジーによるものである。つまり、データセンターは少なくとも今のところ、この問題のごく一部でしかない。それでも、AI の利用が拡大し、ビットコインの価格が新たな高みに向かっている中で、疑問に思うことがある。それは、エネルギーを消費する新たな方法が発明され続けるのであれば、どうやってネットゼロを達成するのかということである。ちなみに、現在、アメリカではデータセンターが電力消費の約 4% を占めている。2026 年までに 6% まで上昇すると予想されている。
ビットコインのような暗号通貨のマイニングは、システムの設定方法によって電力使用量が左右される。ビットコイン(および同様の仕組みに依存する他の暗号通貨)を獲得するために、マイナー(マイニングを行う人、企業)は競って暗号の謎に答える。この競争に勝つには、膨大なコンピューティング・パワーが必要である。その結果、暗号マイニングに専念するサーバファーム( server farms:多数のサーバを集積したもの)は、世界中の電力が安価な地に設置される傾向がある。以前は中国が暗号通貨のマイニングで世界をリードしていた。しかし、2021 年に禁止令が出され、現在はアメリカが 1 位である。数カ月前、アメリカエネルギー省はマイニング関連企業にエネルギー使用量の報告を義務付けようとした。しかし、2 月にテキサス州の判事が一時差し止め命令を出し、阻止された。アメリカ合衆国科学技術政策局によると、アメリカで暗号通貨のマイニングに使われる電力は、家庭用コンピュータの合計とほぼ同量であるという。現在、ビットコインの価格が上昇し続けている。3 月 5 日には 6 万 9,000 ドルの史上最高値まで上昇した。マイニングに対する金銭的インセンティブが高まっている。それにつれて消費されるエネルギーも増えている。
同じ理由から AI も大量の電力を必要とする。ChatGPT を生み出した機械学習の一種は、膨大な量の情報を処理するモデルに依存しており、あらゆる処理でエネルギーが消費される。ChatGPT が情報を吐き出す時(あるいは誰かの高校時代のエッセイを書く時)も、多くの処理が実行され、エネルギーが消費される。ChatGPT は 1 日あたり 2 億のリクエストに応答しており、そのために 50 万キロワット時以上の電力を消費していると推定される。(参考となるかわからないが、アメリカの平均的な家庭の 1 日 の電力使用量は 29 キロワット時である)
AI は、AI が悪化させている問題のいくつかを軽減するために利用できる可能性がある。例えば、再生可能エネルギーの発電効率を向上させることができるかもしれない。そうすれば、サーバファームの温暖化ガス排出量を削減することができるかもしれない。しかし、そうした削減は、AI の電力使用量の増加のスピードの凄まじさを考慮すると、微々たるものである。おそらく、これがアルトマンが技術的なブレークスルーが必要だと主張する理由であろう。
デ・ブリースは、AI が機械学習で急速に発達しつつある中で人間の学習速度が緩やかであることに落胆している。「現実的な施策は、少なくとも短期的には、エネルギー使用量の報告義務化だけであると思う。」と彼は言う。「暗号通貨に関しては、報告の義務化が必要であると理解するまでに非常に長い時間がかかった。AI に関してももっと早くそうするべきだった。暗号通貨のマイニングの電力使用量が膨大であることが判明した時点でエネルギー使用量の報告義務化が必要であると気づいたわけですが、その知見を同じようにエネルギー消費量の多い AI に適用するのに何故か時間がかかってしまった」。♦
以上
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