プーチンはモスクワのテロを悲しんでいない?むしろウクライナ攻撃の大義名分をでっち上げれるので喜んでいる!

News Desk

How Will Putin Respond to the Terrorist Attack in Moscow?
プーチン大統領はモスクワでのテロにどう対応するか?

The Russian President has a long history of spinning lapses in security for his own political gain.
プーチン大統領は、安全保障上の失策を自らの政治的利益に転じてきた長い歴史がある。

By Joshua Yaffa March 24, 2024

 金曜日( 3 月 22 日)の夜、モスクワ北西部郊外のコンサート会場、クロッカス・シティ・ホール( Crocus City Hall )に少なくとも 4 人の男が押し入った。洞窟のような狭いロビーで、多くの観衆が撃たれた。悲鳴を上げながら逃げまどっていた。ホールに閉じ込められた観衆の多くが、スマホで凄惨な光景を撮影していた。そこには、扇状に広がってサブマシンガンをぶっ放すテロリストが映っていた。床には死体が幾重にも重なっていた。テロリスト集団は次に火を放ち、炎は瞬く間に燃え広がった。建物全体が煙と炎に包まれた。テレグラム・チャンネル(ロシアの治安当局に近い)によると、警察は 1つのトイレで 28 人の遺体を発見し、非常階段で 14 人の遺体を回収したという。トータルの死者数は 137 人だった。ロシアでのテロ攻撃による死者数としては、2004 年に過激派がベスランの学校を占拠して 300 人以上が死亡して以来最多となった。

 このテロは、過去の残忍なテロを彷彿とさせるものである。2015 年にパリのバタクラン劇場が襲撃され 130 人が殺害された事件など、近年ヨーロッパ各地で凶悪なテロ行為が頻発している。ロシアでは、24 年間君臨するウラジーミル・プーチンが先週行われた選挙でさらに任期を 6 年延長し、ウクライナと戦争を開始してから 2 年が経過した。今回、ロシアでテロが発生したのは偶然ではない。ロシア特有の政治的背景がある。

 治安の悪化は、強権を振るおうとする者にとって重大な問題である。結局のところ、ロシア国民がプーチンの統治を嫌々ながらも受け入れている根底には、多くの国民がプーチンの強権的な手法を恐れていること、まがりなりにも国がバラバラになることを防いでいること、資源に恵まれているということがある。そもそもプーチンは、チェチェンでの反乱を残忍な手法で制圧したことをきっかけに権力の座を上り詰めた人物である。現在、彼はウクライナとの紛争に多くの国民を投入している。それだけでなく、西側諸国に対する闘争にも全国民が参加するよう訴えかけている。彼は西側諸国との闘いに国の存亡がかかっていると信じている。

 金曜日( 3 月 22 日)の夜のテロは、筆舌しがたい不快なものだった。数時間後に、ISIS の関連組織である ISIS-K(” K “はホラサン州の頭文字でアフガニスタンやイラン東部を指す)が犯行声明を出した。同組織の戦闘員が数百人を殺傷し、大きな破壊を引き起こした後、安全に拠点に撤退したと主張している。 「アフガニスタンとイランでテロ攻撃を行ってきた ISIS-K は、以前からロシアを標的にしてきた。ロシアが ISIS-K から恨みを買っていた理由は、シリアで大規模な空爆作戦を行ったことや、イスラム教徒が多い北コーカサスでイスラム過激派を攻撃していることにある。今月初め、ロシアの治安当局は、2 人の男を殺害した。当局の説明によれば、2 人は ISIS-K の戦闘員でモスクワのシナゴーグ襲撃を計画していたという。先週末、ISIS がネットに流した動画は、ボディカメラで撮影したテロリスト集団が劇場内の観衆に向けて発砲する凄惨な映像だった。テロリスト集団の 1 人は「殺すぞ!情けをかけるな!異教徒を駆逐せよ!」と叫びながら、負傷して倒れている者に近づき喉元を切り裂いた。

 今回のテロは、アメリカの諜報機関が数週間前から警告していたシナリオと合致しているように見える。3 月初旬に在ロシアアメリカ大使館は、アメリカの国民に対し、「過激派がモスクワでコンサートなどの大規模な集会を標的にする差し迫った計画があるとの報告がある」として注意を促していた。金曜日( 3 月 22 日)、国家安全保障会議のエイドリアン・ワトソン報道官は、そのような情報が存在していたことを肯定し、ロシア当局と情報を共有していたと明言した。ロシアへの情報共有は長年の警告義務政策に従ったものだという。

 しかし、プーチンはこの警告を策略か挑発と見なしたようである。テロ攻撃の 3 日前、プーチンは FSB(ロシア連邦保安庁)幹部との会合で、西側諸国諜報機関からの警告について言及した。「西側諸国の警告はすべて、明白な脅迫であり、ロシアを威嚇し、不安定化させる意図に満ち溢れている。」と彼は述べた。FSB 幹部との会合で、プーチンはウクライナ戦争により重点を置くよう指示し、「今日のあなたたちの最も重要かつ集中的な任務は、間違いなく特別軍事作戦である。」と語った。また、テロの脅威に関する直近の警告を西側諸国によるロシアを弱体化させる企てであると断定していた。

 残忍で、そしてある意味では予測可能であったロシアの首都の安全を脅かす ISIS のテロ攻撃は、プーチンが最も忌み嫌うものである。ロシアの巨大な治安当局は、何よりも体制の維持を最優先している。当然、治安維持も重要な任務である。ロシアは監視が必要なテロ組織や過激派組織の一覧表を作成している。ISIS もその一覧表に含まれているし、先月ロシアの流刑地で死亡したアレクセイ・ナワリヌイを支持していたグループも含まれている。テロのあった金曜日( 3 月 22 日)、ロシア公安当局は LGBT など性的少数者の権利擁護組織を過激派と認定し、その一覧表に加えた。

 2 月にロシアを拠点とする非営利の独立系調査メディアのプロエクト( Proekt )が出した報告書によると、プーチン大統領の現在の任期( 6 年)の間に政治犯として刑事訴追された者の数は 1 万人に達するという。これは、ソ連時代の指導者ニキータ・フルシチョフやレオニド・ブレジネフの時代よりも多い。ロシアの軍事作戦を取材したことにより欠席裁判で有罪判決を受け、現在はアメリカに拠点を置くルスラン・レビエフは言った。「この国がテロ対策の特殊部隊の人員を総動員して追跡しているのは、プーチンを批判したりブチャの虐殺に言及するネット上のコメンテーターである。ここではテロリストは常に自由に行動できると感じているだろう」。

 驚くべきことに、プーチンは ISIS のテロとウクライナを結びつけようとしている。かなり無理がある。プーチンは全国民に向けて土曜日( 3 月 23 日)に演説した。「恐ろしく残忍なテロ行為」について言及したが、犯行声明を出した ISIS には言及していない。「彼らは逃亡を試み、ウクライナ方面に向かっていた。」と彼は 4 人の容疑者について述べた。「ウクライナ側には国境を越えるための窓口が準備されていた」。ロシア連邦保安庁( FSB )は声明を出し、容疑者たちはウクライナと接触した可能性があると主張している。ロシアの独立系メディアのメ゙デューサ( Meduza )は、プーチン政権が国営メディアに対し、ウクライナがテロに関与している痕跡があることを強調するよう指示したと報じた。

 ロシア国内でのあらゆる攻撃を偽旗、つまりロシアの治安当局が仕掛けたおとり作戦であるとレッテルを貼る者が増えている。ウクライナ軍の情報機関はこの説を支持しており、金曜日( 3 月 22 日)のテロは「プーチンの命令によるロシア軍特殊部隊の計画的かつ意図的な挑発」であると主張している。プーチンが大統領になる道を開いた 1999 年の高層アパート連続爆破事件もロシア政府の自作自演であると推測されている。ロシア連邦保安庁( FSB )が関与したという決定的な証拠こそ無いものの、説得力のある証拠がたくさん存在している。それから何年も経って明らかになったことがある。それは、ロシアが信じられないほどのリソースを国土を守るために振り向けているということである。実際、国防能力は非常に高い。しかしながら、国民の命を守る能力は非常に低い。おそらく、守る必要があると認識していないのだろう。

 プーチンが今何をしているかを知るためには、2004 年のベスラン学校占拠事件が参考になる。この凄惨なテロの際には、プーチンは即座に民主的改革を後退させる方向に舵を切った。治安機関の改革には着手しなかった。治安部隊が体育館で砲撃するという判断を下したことに関して独立した調査も行なわなかった。プーチン政権は、直接選挙による知事選を廃止し、大統領が任命する形に変えた。また、国会議員選挙では 1 人区を廃止した。少数意見を排除するためである。これまでプーチンはテロ攻撃を契機として、さまざまなことに着手し、権力基盤をより強固にしてきた。テロがプーチン政権の自作自演であろうがなかろうが関係ない。いずれにしてもプーチンはそれを政権基盤の強化のためにとことん利用する。

 今後、プーチン政権はさらに FSB の権限を強化するのか?民主主義制度をさらに蝕むようなことをするのか?予測不可能である。また、ロシアは金曜日のテロの直前にウクライナ全土の発電所等をミサイルや無人機で集中的に攻撃したが、今後はウクライナ都市部や民間施設への攻撃をエスカレートさせるのか否かということも予測不可能である。プーチンは、何とかしてクロッカス・シティ・ホールでの惨劇への国民の関心を薄めさせようとし、メディアを統制するだろう。当局の不手際に批判が集まるような事態になれば、プーチンは困難な問題に直面することとなるかもしれない。また、テロを起こした組織に報復するのではなく、全く関係無いウクライナに適当な理由をつけて矛先を向けるかもしれない。いや、テロの数時間後に彼がウクライナが関与していると言及していたことから推測すると、間違いなくそうするだろう。戦時下には、どこの国も都合の良い大義名分をでっち上げるものである。それは、独裁者が独裁体制の存続に執着する国家において特に顕著である。プーチンは、テロを実行した組織と全く関係がないことが分かっていても、ウクライナに対して無慈悲な対応をとる可能性がある。♦

以上