3.統一教会とは何か
1980 〜90 年代に大規模な合同結婚式が話題となって統一教会の名は知れ渡った。信者からは真のお父様( True Father )と真のお母様( True Mother )として慕われる文鮮明とその妻、韓鶴子( Hak Ja Han:ハク・ジャ・ハン)が、金糸をふんだんに使った純白のローブをまとい、大きな冠をかぶって、数万人の新郎新婦の前に登場する。マディソン・スクエア・ガーデンで開催されたこともある。ドン・デリーロ( Don DeLillo )が 1991 年に出版した小説” Mao II ”(邦訳:マオ Ⅱ )は、そうした合同結婚式の場面が冒頭にある。「永遠の男女( eternal boy-girl )」のカップルが笑顔で列を作り、祝福と真実の預言を切望する様子が描かれている。神が文鮮明の手を操り、世界平和という至福のビジョンを掲げ、その場で見知らぬ男女を人種や国籍を超えてマッチングさせた。彼は韓国語を話していた。韓国語を神の言葉だと信じていた。
文は 1920 年に朝鮮北部で生まれた。日本の植民地支配下であった。長老派教会( Presbyterian )の信者として育てられたが、いつしか終末思想( end-times ideas )にのめり込むようになった。彼が言うには、10 代の頃にイエス( Jesus )から「地上で特別な使命を担うように」との啓示を受けたという。彼はこのことを胸に刻んだが、とりあえずは東京に出て工学を学ぶことにした。帰国してから、自らを第 2 のキリストであり、復帰された人類の真の父母( True Parent of restored mankind )と宣言した。1940 年代には平壌( Pyongyang )で「社会秩序を乱した」として投獄され、拷問を受けた。文は複数の女性と結婚したと伝えられており、後に北朝鮮の指導者となる金日成( Kim Il Sung:キム・イルソン)の目には目障りに映ったのだろう。金日成は自らを神と崇める独特な個人崇拝を強烈に展開していた。文は朝鮮戦争勃発時に釈放され、難民として韓国に渡った。戦争後の混乱の最中に統一教会を創設した。
統一教会は韓国で信者を増やした。しかし、正統的なキリスト教が普及しつつある中で信者の拡大は限定的だった。しかし、日本では信者をより容易に増やすことができた。日本人の宗教心が薄いことが一因だが、文は歴史的怨恨( historical grievance )を巧みに利用した。日本は 20 世紀の大半で朝鮮半島を占領していた。文鮮明が作った統一教会の根本経典の「原理講論( Divine Principle )」では、韓国がアダムで、日本は先に堕落してアダムを誘惑して原罪を犯したイブと位置づけられている。残酷な帝国の末裔である日本人は、特に懺悔と浄化を必要とするとされていた。
1960 年代初頭、文は安倍晋三の祖父である岸信介と親交を深めた。岸は戦犯として有罪判決を受けたことがある。後に首相、自民党総裁も務めた人物である。岸は統一教会や関連団体が主催するイベントに頻繁に出席した。統一教会の人手・動員力を積極的に利用していた。安倍晋三の父である安倍晋太郎もまた著名な政治家である。伝えられるところによると、統一教会信者を自民党の同僚議員の事務所の事務員として働かせるよう手配していたという。1960 年代半ばから 70 年代にかけて、統一教会の多くの宣教師が日本に殺到した。彼らがターゲットにしたのは、大学生、主婦、孤独を抱えているように見える者たちである。誘って一緒に遊んだり世界平和に関するセミナーに参加したりした。いわゆるラブ・ボミング( love-bombing )という手法である。宗教的な側面があからさまになるのは、ずっと後のことである。
統一教会に入信した信者は、高麗人参茶、巻物、花瓶、仏塔の置物など聖別された品々を法外な値段で買うよう指示される。いわゆる「霊感商法( spiritual sales )である。信者は韓国で合同結婚式をするために結構な額の献金をしなければならない。お金が足りない時は、親戚から借りるか、ローンを組むように諭される。また、魚を戸別訪問で売らされたり、路上で安っぽい装飾品を売り歩かされたりした。収益は統一教会への寄付になる。日本の信者は他の国の信者よりも多額の寄付を期待されている。彼らには支払うべき「賠償金( indemnity )」があると考えられていた。(ちなみ、日本の統一教会の広報責任者は、信者に献金や霊感商法への関与を命じていたという報道を否定ている)
こうした資金が文の帝国を支えた。ほぼすべての大陸で企業活動をし、非営利団体を運営している。1970 年代には、文の側近が韓国の軍事独裁者の朴正煕( Park Chung-hee:パク・チョンヒ)のワシントンにおける大規模なロビー活動と影響力行使を支援していた。これは、アメリカ議会委員会の調査で明らかになっている。文はニューヨーク州ウェストチェスター( Westchester )郡に不動産を購入し一族用の邸宅と訓練センターを設立した。いずれも豪奢な造りでそれぞれベルヴェデーレ( Belvedere )とイーストガーデン( East Garden )と名付けられた。彼は保守系の新聞” Washington Times (ワシントン・タイムズ)”を創刊した。これは今でも共和党のお気に入りである。マンハッタンのニューヨーカー・ホテル( New Yorker Hotel )も買収した。ニカラグアではコントラ( Contras )を支援した。ローレンス・オリヴィエ( Laurence Olivier )がダグラス・マッカーサー将軍( General Douglas MacArthur )を演じた朝鮮戦争を題材にしたハリウッドの失敗作にも資金を提供した(多くの映画評論家が、この映画を史上最悪の映画の 1 つと評した)。また、全米の寿司レストランの主要サプライヤーとなった水産複合企業を築いた。「アメリカ人の多くは魚の調理方法を知らない。だから我々が下ごしらえしてやる。アメリカ人はただそれを食べるだけである」と文は説法で語っていた。この「マグロの道( The Way of Tuna )」という思想は、統一教会のアメリカでの展開とビジネスにおいて重要な位置を占めている。
文は脱税もしていた。1980 年代半ばに 16 万ドルを超える所得を申告しなかったとして、コネチカット州ダンベリー( Danbury )で連邦刑務所に約 1 年間服役した。岸は当時の大統領ロナルド・レーガン( Danbury )に文の釈放を求めた。統一教会は、ブラジルからナイジェリアまで世界中に数百万人の信者がいると自慢していたが、この数字は誇張されていた可能性が高い。1990 年代には日本には約 60 万人の統一教会信者がいた。これは韓国の 2 倍である。現在の日本の信者は約 6 万人である。しかし、統一教会の日本での年間献金目標額は高いままである。毎日新聞の取材に応じた元幹部の証言では驚異的な額である。2017 年の日本の献金目標額が 2 億ドルだったという(なお、統一教会側はこれを否定している)。
1987 年に日本の弁護士グループが全国霊感商法対策弁護士連絡会(以下、連絡会)を結成した。彼らは、元信者や親族の利益を代弁し、統一教会の強制献金や詐欺行為を厳しく追及した。依頼者の多くが語っているのだが、一定期間の教化の後、新たに入信した者は孤立した環境に置かれ、外部との人間関係を断たれたという。統一教会の宣教師は信者の自宅や職場までつきまとい、献金を要求した。霊的な脅迫によって信者の自由な意思決定が妨げられた。信者は「カード摂理( card providence )」をするよう諭される(カード摂理とは、信者がクレジットカードを利用して借金を重ね、その資金で多額の献金を行うことを正当化・推奨する統一教会の教義的手法)。多くの信者が高額クレジットカードの管理を統一教会スタッフに委ねた。多額の現金が韓国に持ち込まれた。連絡会は、統一教会に対する約 3 万 5 千件の訴訟を取り扱っている。賠償請総額は 8 億 5 千万ドルである。さらに数千人の被害者が、自ら訴訟を起こしたり、示談交渉を進めたりしている。