4.鈴木エイトが暴いたもの
1995年、仏教的な要素を帯びた瞑想教団であるオウム真理教( Aum Shinrikyo )が東京の地下鉄でサリンガスを撒き、十数人が死亡、数千人が負傷した。この世界を震撼させた事件によって、多くの日本人が衝撃を受け、カルト教団の脅威を認識するようになった。日本政府はオウム真理教に解散命令を出した。教団は事実上破産した。その後、統一教会を含む他の新興宗教の調査を開始した。1999 年に訴訟を起こした元統一教会信者の多田文明( Tada Fumiaki )は私に語った。「統一教会に反対すれば、命の危険を感じることも珍しくなかった」。日本に限らず世界各国で、統一教会の批判者や内部告発者が暴行を受けたり個人情報を暴露される事例が相次いだ。数年前には、アメリカで統一教会の調査を主導した下院議員の自宅が放火されるという事件もあった。統一教会は名称変更し「世界平和統一家庭連合( the Family Federation for World Peace and Unification, )」となったが、合同結婚式の開催を続け、信者への労働力と金銭の提供の強要を続けている。ちなみに、オウム真理教も名称変更してアレフ( Aleph )として復活している。
2002 年、鈴木は大学で経済学を専攻し、パンクやニューウェーブのバンドに加わっていた。たまたまテレビを観ていて、新しい勧誘手法に関する報道を目にした。統一教会信者が、身元を明かさずに、気弱そうな通行人、もっぱら女性に手相占い( palm reading )をしてあげると声を掛けていた(後の裁判で明らかになっているが、手相を見る目的は個人的な不安や家族の心配事を聞き出し、経済状況を探ることにあった。得られた詳細情報は、資金を搾取し、信者の脱退を防ぐために利用された)。その翌日、鈴木は統一教会の東京本部に近い渋谷駅の人混みを通り抜ける際に、それが実際に行われているのを目撃した。「誰かが見知らぬ通行人に手相占いをしてあげると言っている場面に出くわした」と彼は言う。「それで近づいて邪魔をした。『おまえ、統一教会だろっ!』と言ってやった」。彼は定期的にこうした勧誘の妨害を行うようになった。彼は対決の場面を楽しんでいるようだった。半分、悪ふざけだったのかもしれない。
昨年 5 月、私は通訳の内山( Monika Uchiyama )を交えて東京で鈴木エイトに会った。リタイアしたロッカーのようなオーラを漂わせていた。黒ずくめで革サンダル、耳下まで乱れた髪が垂れていた。マッチョな闊歩ぶりだった。「ミュージシャン時代の情熱をジャーナリストの仕事に注いでいる」と彼は言った。彼は、安倍を含む多くの自民党議員が統一教会幹部と結託していた事実を突き止めた人物である。彼より先にそうした事実を認識した人物はほとんどいないのだが、統一教会は信者に自民党に投票させるようにし、選挙のボランティアの人員を出したり、保守的な政策を擁護していたのである。また、彼は統一教会内部に人脈を築き、内部文書を入手しリークしたこともある。バンド活動をしていた時に「社会の観察者でありたい」というテーマで歌詞を書いたこともある。現在、彼はその想いを統一教会の調査に注ぎ込んでいる。
私は彼と彼が住む街を歩いた。彼は、緑豊かなエリアに、ラジオアナウンサーをしている妻と中学生の息子と両親と暮らしている。数年前、庭の隅で育てていたイチゴの苗が何者かに切り倒された。彼は統一教会の信者の仕業だと推定している。「彼らは近所をうろついて、私の動画を撮っている」と彼は言う。安倍首相暗殺の数カ月後、地元警察は彼の自宅近くに臨時の監視カメラを 1 台設置した。
鈴木は、統一教会に関心を持ったのは公平感からであると言う。つまり明白な不正を正したいという願望に駆り立てられたのである。私と数カ月やり取りを続けた後、彼はより個人的な理由を教えてくれた。彼が 10 代の頃、姉がバドミントンの集まりに誘われて参加したという。後に統一教会の勧誘イベントだったことが判明する。「取材を始めてカルト教団の構造を理解するにつれ、不安になった」と彼は回想する。姉を説得し脱会させようとしたが、うまくいかなかった。結局、姉は教会と関係のある慈善団体の宇宙平和連合( the Universal Peace Federation )に就職した。「彼女は政府関係者との連絡係だったので、皮肉なことに、私が最も知りたかった情報を持っていた」と彼は語った。彼は姉についてはあまり語らない。それは、姉と決して親しくなかったからという理由もあるが、統一教会の擁護者たちが彼の調査を姉を奪われたことに対する復讐として片付けようとするからでもある。彼は、姉の関与がジャーナリズムの主要な動機になったことは一度もないと語ったが、私はその言葉を半分しか信じていない。安倍首相が殺害されて以来、彼は姉と話をしていない。
鈴木が東京中で統一教会信者を追跡するにつれ、彼の反宣教師活動はより熱意を帯びるようになった。2007 年頃、彼は統一教会の戦術について書き始めた。ちなみに、鈴木エイトという名前はペンネームである。「彼らは信者から単に金銭を奪うだけではない」と彼は語った。「彼らは信者を脅迫して契約書に署名させているのに、自発的に署名していると主張している」。2009 年、彼は統一教会のために儀式用の印章などの製品を販売していた企業に対する当局の家宅捜索を取材した。その企業の従業員数名が、商取引における脅迫を禁じる法律に違反して逮捕された。「統一教会の霊感商法に関与する企業の多くが家宅捜索を受けた」と鈴木は語った。「家宅捜索は統一教会本体にどんどん近づいていった。統一教会は解散の危機に瀕していることを認識するようになった」。その数年後に文鮮明が亡くなった。未亡人の韓鶴子と 12 人の子供が、統一教会と積み上がった財産の支配権をめぐって争いを繰り広げた。息子の 1 人は既に家庭連合の金庫から 30 億ドルを吸い上げており、現在も訴訟が続いている。別の息子は、MAGA に近い分派団体「ロッド・オブ・アイアン・ミニストリーズ( Rod of Iron Ministries:現在はサンクチュアリ教会に改称)」を設立した。別の息子は、統一教会がアメリカに拠点を置く企業の中の 1 つである拳銃製造会社カール・アームズ( Kahl Arms )に CEO として留任した。韓鶴子が夫の後継者となった。
2013 年の参院選の直前に朝日新聞が統一教会の内部文書を入手した。文書は、特定の候補者を支援するべきと指示するものであった。特定の候補者とは、当時首相として 2 期目にあった安倍晋三が個人的に指定した候補者である。これは「私たちの組織にとって死活問題である」と文書には記されていた。安倍の官房長官、菅義偉( Yoshihide Suga )は統一教会の礼拝に何人もの候補者を派遣するようになった。演壇から集まった信者に挨拶させたのである。2015 年に鈴木が突き止めたのだが、安倍と側近連中が他の政府関係者や多くの市民団体の反対を押し切って教会の名称変更(世界平和統一家庭連合への)を承認した。2016 年に鈴木は安倍が統一教会の日本支部の会長と個人的に会ったことを最初に報じた。元々の反共産主義運動から転向した統一教会が自民党に働きかけたのは、同性愛者の権利運動に反対することと、出生前教育( pro-natal education )を推進することである。「統一教会は LGBTQ 権利運動に反対する主要な保守派団体であった」と、立命館大学の人類学者、山口智美( Tomomi Yamaguchi )は私に語った(なお、統一教会の広報責任者は、政治には一切関与していないと述べている。その人物は、2009 年の家宅捜索と 2015 年の名称変更に関する鈴木の報道は「悪意のある、根拠のない噂」であると主張する)。
統一教会は霊感商法を止め、ソウル北部にある白いドーム型の聖堂群において、手の込んだ費用をかけた儀式を推進するようになった。多くの信者がほとんど眠らずに何千ドルも払って祈りを捧げ、自分の体をたたいた。信者がより多くのお金を払うほど、より多くの先祖と子孫が救われるとされている。統一教会の家庭で育った日系アメリカ人の H から話を聞くことができた。私が話を聞いた多くの元信者と同様、彼は報復を恐れて匿名を条件にした。彼は韓国の施設に何度か行ったことがあるという。彼は「悪霊を追い出すために自分の体を叩きながら、同じ歌を何度も何度も歌わなければならなかった」と回想している。スケジュールは午前 5 時半から午後 10 時半までで厳格に管理されていた。「手は血だらけになった」と彼は言った。「皆、白い服を着ていたが、血で汚れていた」。