6.裁判で語られたもの
山上は大阪拘置所で裁判を待っていた。鈴木は山上に著書のコピーと数通の手紙を送った。鈴木が山上に伝えたのは、自分も安倍首相暗殺に責任を感じていることである。「もしこの凶悪なカルトを解体し、被害者を救えるほど私の活動が成功していたら、おそらく事件は起こらなかっただろう」と記した。
5 月、私は鈴木に同行して東京郊外の多摩市を訪れた。そこで彼は講演を行っていた。統一教会が地元の大学に隣接する広大な土地を購入し、地域住民はそこが関連施設や修練施設として利用されることを恐れ、立ち退き運動を展開していた。「統一教会は水面下で活動している」と多摩市長は私に語り、土地購入者が素性を隠していることを示唆した。「彼らは宗教を装っているが、韓国に資金を送ろうとしているだけの団体である」。市役所の講堂には数百人が詰めかけた。鈴木は 20 年間の取材活動をまとめたパワーポイントのプレゼンテーションをした。あるスライドには、彼の見苦しい顔写真が掲載されたチラシが映し出されていた。これは統一教会が信者に配布したもので、鈴木に話しかけないよう警告するためのものだった。「私は統一教会に『もっと良い写真を使ってもらえないか』と頼んだ」と彼は語った。聴衆が一斉に笑った(ちなみに 2023 年に統一教会は鈴木を名誉毀損で訴えたが敗訴している)。彼は最新の著書「統一教会との格闘、22 年」を掲げた。その安っぽい表紙写真には、東京の街中で肩掛け鞄を肩にかけた彼が写っている。「何かお気づきですか?」と彼は尋ねた。「同じ服を着ている。潜在意識に訴えかけて、この本を買ってもらおうとしている」。
少し前に東京地方裁判所で、文部科学省が統一教会の解散を請求した件で、判断が下された。40 年にわたる悪質な高額献金勧誘によって生じた損害を理由に、統一教会の解散を命ずるものだった。鈴木が多摩市の住民に対して説明したのは、統一教会は税制上の優遇措置を失い、資産は分割される予定であるということである。統一教会側はこの判決を人権侵害であり、「日本の民主主義における恐ろしい転換点」だとして直ちに控訴した。多くの信者が批判にさらされることになる。もし統一教会が消滅すれば、多くの人が仕事もコミュニティも失うことになるだろう。
一方、元信者や信者の親族は、統一教会に対する訴訟で次々と勝訴している。ある訴訟では亡くなった信者の娘が、母親が 86 歳の時に高額献金の返還を求めないという誓約書に署名していたが、損害賠償を求めた。裁判所は 40 万ドルの賠償を命じる判決を言い渡した。統一教会の広報責任者によると、特に高齢の信者は神への献金を守るために自発的にこのような誓約書を作成して提出するという。しかし、世界平和統一家庭連合も自主的な支払いを行うための補償委員会を発足させている。その後まもなく、統一教会日本支部の会長は、高額献金や霊感商法の被害者への謝罪を表明し辞任した。しかし、法的責任は認めていない。
教会の本拠地である韓国では、2024 年 12 月に尹錫烈( Yoon Suk-yeol:ユン・ソクヨル)大統領が起こしたクーデターが失敗に終わり、妻の金建希( Kim Keon-hee:キム・ゴンヒ)が統一教会関係者からダイヤモンドのネックレスと 2 つのシャネルのハンドバッグを受け取っていたことが明らかになった。尹は、カンボジアで統一教会が支援する開発事業に公的資金を流用していたとされている。捜査は急ピッチで進み、文鮮明の未亡人で信者から真のお母様と呼ばれて絶対的な存在である韓鶴子にまで及んだ。彼女は政治資金規制法違反、不正請託、業務上横領等の罪で逮捕・起訴された(なお、金はいかなる見返りも求めていないと否定し、統一教会の広報責任者は韓の逮捕を「宗教的迫害」として非難している)。韓国の二大政党はいずれも統一教会と資金的つながりがあることが明らかになった。新大統領の李在明( Lee Jae-myung:イ・ジェミョン)は、韓国も日本と同様に、組織的かつ計画的に政治に介入する宗教団体の解散を検討すべきであると示唆した。李政権の海洋水産相は、教会関係者から金品を受け取ったとの疑惑を受け辞任した(なお、元海洋水産相は疑惑を否定している)。
国際的に教会の代弁者を務めることが多い米国統一教会は、韓を擁護するソーシャルメディア・キャンペーンに精力的に取り組んでいる。しかし、彼らは私の質問への回答を拒否している。インタビュー可能な幹部の派遣も拒否した。デミアン・ダンクリー( Demian Dunkley )会長からメールの送信があった。「統一教会を、偏見をもって、あるいは否定的な視点で捉える取材には与しない」との記述がある。統一教会は東アジアにおける法的地位を喪失する可能性を非常に恐れている。とはいえ、統一教会と文一族は長期に渡って収益を得られるようにリスク回避策を講じることに余念がない。例えば、西アフリカ統一教会は通常通りの活動を続けている。昨年も合同結婚式や平和セミナーを開催した。また、「天国と人類の両方にとって、より清潔で健康的な空間を作る」との謳い文句でゴミ拾いのボランティア活動も行っている。