暗号資産業界の凄まじいロビー活動?どんだけお金つぎこむ?無敵やな?逆らえる政治家なんていないわ!

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 クリス・ルヘイン( Chris Lehane )が、ビル・クリントンとヒラリー・クリントンを貶めようとする共和党の策略を説明するために「広大な右翼の陰謀( vast right-wing conspiracy )」という概念を思いついたのは、彼が 30 歳を目前にした時だった。それは非常に響く言葉のように思えたので、ヒラリー・クリントンはそれを自分の決め台詞の 1 つとして多用した。当時、ルヘインはクリントン政権で法務担当責任者で、スキャンダルの嫌疑から政権を守る任務を負っていたが、政治的な議論を掌握し、共和党を守勢に立たせる派手な方法を見つけることに特化していた。クリントンが保守派の陰の組織の犠牲者であると宣言するなどの戦術は非常に効果的だった。後にタイムズ紙( Times )は、ルヘインのことを現代の「政治の闇の世界の達人( master of the political dark arts )」と評した。

 ホワイトハウスでの勤務を経て、ルヘインは報道官としてアル・ゴア( Al Gore )の大統領選キャンペーンに参加し、ゴア敗北後はサンフランシスコに事務所を構えた。カリフォルニア州は選挙人の数が多く選挙での重要度も高いが、ワシントンから遠く離れているため、選挙キャンペーン推進者の多くは同州を軽んじているところがあった。しかし、1996 年の電気通信法( Telecommunications Act of 1996 )制定に携わっていたルヘインは、シリコンバレーこそが未来だと確信し、すぐにカリフォルニアの富裕層に自身の黒魔術( dark arts )を提供するビジネスを立ち上げた。同州の医療過誤の賠償金上限を引き上げようとした何人かの弁護士はルヘインを雇い入れた。ルヘインは死体のつま先に付けるタグのようなチラシを有権者に送った。医師が酔った状態で手術をしているかもしれないと示唆する広告であった。数年後、ある著名な環境保護活動家がキーストーン XL パイプライン( Keystone XL Pipeline )の反対キャンペーンを行うためにルヘインを雇った。彼は活動家たちに原油流出事故の汚油が入った小瓶を持たせて記者会見に臨ませた。その汚油の毒性が強かったため、報道陣は一斉に部屋から逃げ出した。また、オサマ・ビンラディン( Osama bin Laden )殺害に協力した海軍特殊部隊( Navy SEALs )の 1 人を雇い、多くのジャーナリストと話をさせた。パイプラインが承認されればテロ攻撃でネブラスカ州がアメリカ史上最大級の原油流出に見舞われる可能性があることを説明した。ルヘインはある記者に、市民的対話に関する持論を説明した。「私は議論が巻き起こるようにしているだけである。こちらから口撃しなければ、相手も黙っている。口撃すれば、相手も反論して議論になる」。

 しかし、ルヘインの努力は概してテック業界に感銘を与えることはできなかった。何十年もの間、シリコンバレーのハイテク企業は選挙や政治とは無縁で距離を置いていた。あるハイテク企業の幹部が私に説明してくれたように、2010 年代半ば頃までは、「もしあなたがベンチャーキャピタリストや CEO なら、政治家と話したり、噂話をしたりするためにロビイストを雇うかもしれない。しかし、シリコンバレーの企業の幹部たちのほとんどは政治家を見下していた」のである。しかし、ルヘインが西部に移ってから 10 年も経たないうちに、新しいタイプのテクノロジー企業が台頭した。ウーバー( Uber )、 Airbnb 、タスクラビット( TaskRabbit )などのいわゆるシェアリングエコノミー企業である。これらの企業は、輸送、看護や介護、派遣労働など、長く無風であったセクターを破壊した。政治家は長い間、これらのセクターを規制することは彼らの特権であると考えていた。これらのスタートアップ企業の時価評価額​​が数十億ドルに達し、政治家はそれらも同様に規制すべきだと考えるに至った。Uber のような企業がささやかな規制さえも守ろうとしないことに、彼らは侮辱を感じた。Uber 以外のスタートアップ企業はより穏便なアプローチを試みた。しかし、やはり地方の議会の分裂や自治体の官僚主義に巻き込まれることとなった。いずれにせよ、「政治を理解しないことは、存在そのものを脅かすリスクになった」と、別のテック企業の技術担当責任者は語った。「望むと望まざるとにかかわらず、政治に関与しなければならないという認識が広まった」。

 2015 年、サンフランシスコ市で住民投票が行われた。短期住宅賃貸の規制強化条例案の是非を問うものであった。規制肯定派も反対派も、実質的に Airbnb がターゲットであることを認識していた。この条例案は、多くの市民の蓄積された不満から生まれたものだった。サンフランシスコ市民の中には、多くのビルが実質的に無許可のホテルと化していることに不満を持つ者もいた。大音量で音楽を垂れ流し、ゴミを片付けず、マリオットに宿泊した場合に市が徴収するはずの税金を支払っていないパーティー好きの観光客を受け入れていることが不満の種だった。また、Airbnb の存在によって、手頃な価格の住宅を見つけるのが難しくなっていると主張する住民も少なくなかった。なぜなら短期滞在者に貸す方が長期滞在者に貸すより儲かるからである。この条例案は、Airbnb が年に数週間以上、多くの住宅所有者と協力することを実質的に不可能にするものであった。初期の世論調査では、この条例案が好評であることが示された。他の多くの都市も同様の条例案を検討していた。Airbnb の本社があるサンフランシスコ市の議会は注目された。時価総額 250 億ドルのテック業界の巨人を制御できるか否かに焦点が集まった。

 パニックに陥った Airbnb の重役たちはルヘインに電話をかけ、本社に来るように頼んだ。ルヘインは電話を受けた数分後に駆けつけた。息子のリトルリーグの試合を観戦していたが切り上げたのである。ルヘインは、かなり引き締まった体格をしている。見ただけで厳しいトレーニングをしていることがわかる。毎日走っている。日によっては 15 マイル( 24 キロ)を一気に走る。その際、奇妙な句読点のついた電子メールを送ったり、意識の流れをそのままボイスメールで発したりしている。Airbnb の重役たちからすると、彼はロビー活動の第一人者には見えなかった。しかし、ルヘインは一息つくと、威勢のいいスピーチを始めた。あなたがたはこの状況を見間違えている、と彼は言った。サンフランシスコの条例案は危機ではない、サンフランシスコ市の政治情勢を変え、これまでの常識を覆すチャンスであると力説した。彼は幹部たちに重要なことを列挙して教えた。バラク・オバマの大統領選と同じくらい洗練されたキャンペーンを条例案に対して行うこと、途方もない金額を投じること、多くの政治家に Airbnb を支持する有権者が膨大に存在すること、そうした支持者を裏切ってはいけないと警告することである。彼は 3 つの戦略を提案し、政治家が最も欲しているのは再選されることであると幹部たちに説明した。Airbnb が反 Airbnb の姿勢を貫くと再選が難しくなることを示すことができれば、ほとんどの政治家は簡単に友好的になるであろう。早速、ルヘインは Airbnb のグローバル政策・広報担当責任者に任命された。

 この役職に就いて彼が最初にしたことは、Airbnb の生粋の支持者、つまり自分の不動産物件を貸し出して利益を得ている住宅所有者と、同社のサービスを使って高価なホテルの部屋を避けていた旅行者を動員することだった。2015 年末時点でサンフランシスコでは 13 万人以上が部屋を短期滞在者や旅行者に貸していた。ルヘインは、オバマの大統領選のスタッフ経験者数人をスカウトしてチームリーダーに起用した。それで、Airbnb を利用して家賃を得ている住宅オーナー数万人に電話をかけ、条例案が可決されれば損害を被ると警告した。また、チームメンバーは、住宅オーナーたちに条例案に関する公聴会に出席し、近隣住民を説得し、当局に抗議の電話をするよう促した。この間、同社は偶然にも(同社によれば、誤って)、カリフォルニア州で Airbnb を利用して宿泊したことのある人全員に、カリフォルニア州議会に抗議のメールを送るよう促す E メールを送ったという。同州議会には世界中からメッセージが殺到した。上院臨時議長はルヘインに電話をかけた。大量のメッセージが届いたことを伝え、猛攻撃を止めるよう懇願した。

 次にルヘインが実施した戦略は、多額の資金を使ってサンフランシスコ市の議員に圧力をかけることだった。同社は何百人もの人員を雇い、市の人口のおよそ 3 分の 1 に該当する 28 万 5,000 人の家を訪ね、地元選出の議員に連絡を取り、Airbnb に反対することはイノベーション、自由な経済活動、アメリカの理想を阻害することに等しいと言うよう促した。この執拗なキャンペーンは、議員に十分な脅威を与えた。現職議員が条例案を支持した場合、Airbnb に選挙で対抗馬を立てられるかもしれないからである。「私たちは明確に主張した」とキャンペーンスタッフの 1 人は語った。「目的は脅迫で、私たちを裏切ると後悔することになるということを知らしめた」。Airbnb はこのキャンペーンに 800 万ドルを費やしたが、これは条例案の支持者が投じた総額の約 10 倍にあたる。「私がこれまで手がけたキャンペーンの中で最も馬鹿げていた」とそのスタッフは言った。「常軌を逸したレベルで、とても過激だった。一都市の条例案の住民投票にそんなにお金をかけるべきではない」。とはいえ、そのスタッフは Airbnb での時間をとても気に入っていた。「政治関連のキャンペーンで稼いだお金の中で最高額だった」。

 3 つめのルヘインヘンの戦略は、代替案を提案することによってサンフランシスコの条例案をめぐる議論を覆すことだった。それをしなければ、Airbnb は他の都市でも同様の条例案に直面することになると、ルヘインと Airbnb の CEO のブライアン・チェスキー( Brian Chesky )は考えていた。「条例案に闇雲に反対すればいいというものではない」とルヘインは Airbnb の経営陣に語った。「市側に友好的な姿勢も示さなければならない」。 友好の証として、Airbnb は同市の短期滞在者にかかる税金相当額の支払いを自主的に始めた。また、毎月の宿泊者数など、Airbnb の社内データを共有することも申し出た。これは、同社のサービスが地域社会に与える影響を地元当局が監視するのに役立つだろう。さらに Airbnb は、サンフランシスコ市当局が住宅所有者を登録し、賃貸実績を追跡できるウェブインターフェースの構築を申し出た。この解決策は、Airbnb の活動を監視するために市を Airbnb に依存させるという点で、利己的なものだった。しかし、この提案は例の条例案の提出を促した不満の多くに対処するものであり、さらに重要なのは、サンフランシスコ市に毎年数千万ドルの税金を保証することであった。最終的にこの条例案は投票にかけられたが、圧倒的大差で否決された。

 Airbnb の政治的対立を利用するアプローチは成功を収めている。対照的であるが、世界で最も価値のあるスタートアップ企業となった Uber はさまざまなタクシーに関する規制に反抗的だったため、すぐに多くの都市や国から非難を浴びるようになった。Airbnb の戦術には、政治家の崇高な理想に訴えかけることも含まれている。サンフランシスコ市の条例案への反対工作の後、ルヘインは Airbnb の賃貸物件を清掃する労働者を組合化するため、全米最大級の労働組合である SEIU( Service Employees International Union )との提携に取り組んだ。これは結局実現しなかったが、サンフランシスコ市とニューヨーク市などの労働組合との関わりが深い政治家の多くが、Airbnb を潜在的な同盟者として見なし始めることとなった。

 とはいえ、組合と関係無い政治家にとっては、ルヘインの戦術は画期的とは思えなかった。しかし、シリコンバレーの企業の経営者たちにとっては、彼のアプローチは衝撃的だった。「比較的少額の出費で大きな効果があった」とあるハイテク企業の経営幹部は言った。「 ROI(投資利益率)の視点で見ると、政治的な成果は、誰もが予想していたよりもはるかに高いことがわかった」。

 サンフランシスコの条例案が否決された後、サンフランシスコの監督委員会は最終的に Airbnb の提案の多くに同意した。そのころには、ルヘインは他の場所に移っていた。彼はバルセロナ、ベルリン、ニューヨーク、メキシコシティなど、他の数十都市でも Airbnb のために同様のキャンペーンを展開した。2016 年にワシントン DC で全米市長会議が開催された時、ルヘインはミシェル・オバマに続いてスピーチするよう請われた。「重要なことを申し上げたい」と彼は聴衆に語りかけた。「私たちは税金を喜んで収める」。Airbnb はすぐに 100 以上の都市と協定を結んだ。そうした都市の議員たちが Airbnb の誘いに乗り気でないことが判明することもあった。例えばテキサス州のオースティン( Austin )では多くの議員が Airbnb の誘いに乗り気でないように見えた。そんな時、同社は彼らの頭越しに行動した。Airbnb はテキサスの州議会を説得し、州内の自治体が短期賃貸を禁止することを困難にするようにした。現在、Airbnb は何千もの都市と協定を結んでいる。

 ルヘインが Airbnb に加わった数年後、あるベンチャー・キャピタリストがパーティーで彼に話しかけた。「かつては、企業が上場するためには有能な CFO を雇うことが最も重要だった。しかし、あなたは政治工作ができる人物も同じくらい重要だと証明した」。しかし、ルヘインはもっと深い洞察力を持っていた。彼のキャンペーンは、ハイテク企業、特に Airbnb のように他の方法ではお互いを見つけることが困難な人々を結びつけるプラットフォームを持つ企業が、今や政治において潜在的に最も強力な集団となりうることを明らかにした。「かつては、労働団体や政党のような組織は、大勢の有権者を組織化する能力を持ち、大量動員する能力も持っていた」と彼は言った。今日では、インターネットプラットフォームの方が影響力が大きく、テック企業はボタンをピッと押すだけで何億人もの人々とコミュニケーションをとることができる。「 Airbnb がある都市で 1 万 5,000 人の住宅オーナーを取り込むことができれば、市議選や市長選の勝敗に影響を与えることができる」と彼は言った。「市議会や上院の選挙では、5 万票は大きな違いを生み出す可能性がある」。もちろん、単に巨大なユーザーベースを持つだけで Airbnb が望むものをすべて手に入れられるわけではない。有権者は説得力のある誘惑にしか反応しない。しかし、Airbnb のような企業は、ほとんどの政党や他の特別利益団体( special-interest group )よりも迅速かつ効率的に議論を展開でき、これが大きな力の源泉となっている。ルヘインはそのことをよく理解していた。「現在、プラットフォームは、すべての人に語りかけることができる唯一の手段である」とルヘインは言った。