暗号資産業界の凄まじいロビー活動?どんだけお金つぎこむ?無敵やな?逆らえる政治家なんていないわ!

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 コインベースは、アメリカで 5,200 万人が暗号資産を保有しており、その多くがそれを保全するための投票行動をするという調査結果を大々的に宣伝し始めた。各種世論調査によれば、暗号資産所有者の 60% がミレニアル世代または Z 世代であり、41% が有色人種であった。それらの層は、民主共和両党が取り入ろうとしている層と完全に一致している。また、ルヘインは、暗号資産支持団体「クリプト支持同盟( Stand with Crypto Alliance )」の立ち上げにも秘密裏に協力した。その団体は、コインベースの数百万人の顧客がログインするたびに宣伝が表示されるようにして、暗号資産所有者に議員に連絡し請願書に署名することを促した。この団体には現在 100 万人以上の会員がいるという。先ほどのコインベースの幹部によれば、クリプト支持同盟は、オハイオ州コロンバスのような暗号資産愛好家が多く住む都市を特定し、タウンホールミーティングなどの集会を組織するためのプッシュ通知を大量に送りつけるという。その幹部は説明する。「 50 人とか 60 人が集まれば、写真のアングルを工夫すれば数百人いるように見せかけることができる。小さな州や接戦の選挙では、候補者に暗号資産に反対すべきではないと警戒心を抱かせるには十分である」。

 暗号資産に肯定的な有権者は、ルヘインたちが想定しているよりも多いくらいであった。そのことは、攻撃の次の段階である政治家を脅かすという点では非常に役立った。クリプト支持同盟はオンライン・ダッシュボードを構築した。そこでは、すべての上院議員や下院議員に加えて、彼らの対立候補のほとんどについて、暗号資産への支持度合いを確認することができる。スコアは、基本的には「 A(暗号資産を強力に支持)」か「 F(暗号資産に強力に反対)」の 2 つしかない。ただ、スコアの根拠となるデータには時に疑わしいものもある。「実際には、ほとんどの議員たちが明確に賛成や反対の立場を表明しているわけではなかった」と、別のコインベースの幹部の 1 人は語った。「だから、彼らが行ったスピーチや誰と関係が深いのかを見て推定してスコアをつけていた。エリザベス ウォーレンと友人であれば、F になる可能性は高くなる」。

 とはいえ、ルヘインはフェアシェイクには超党派の立場を維持するよう指示していた。ルヘインの助言に従ってフェアシェイクは、民主党と共和党の候補者を同数支援するよう注力し、2024 年の大統領選にはまったく関与しない計画だった。暗号資産業界に助言を与えてきたベンチャーキャピタリストの 1 人は、フェアシェイクが超党派的なスタンスを維持することは必須であると語った。「好ましい規制を導入するには、議会で法案を通過させなければならない。その際には、両党の票が必要になる」。さらに、フェアシェイクの目標は、「暗号資産とテック産業に否定的な議員は党派に関係なく懲らしめる」ことだとその人物は付け加えた。「否定的な態度をとるとどうなるかを知らしめる必要がある」。

 

 それを強調するため、ルヘイン率いるフェアシェイクは、同団体の支出が全米の注目を集めることが確実な選挙を見つけようとした。フェアシェイクは注目度の高い選挙をいくつかリストアップした。カリフォルニア州の故ダイアン・ファインスタイン( Dianne Feinstein )の後任を選ぶ選挙が最上位に挙げられた。明確なターゲットにされたのがポーターだった。彼女の民主党予備選での最大のライバルはアダム・シフ( Adam Schiff )下院議員だった。カリフォルニアは民主党支持が優勢な州である。であるから、フェアシェイクがポーターが民主党予備選で敗れるのに貢献したとしても、その後に共和党候補との本戦が控えておりそこで民主党候補が勝つわけでフェアシェイクが民主党から非難されることはない。さらに、カリフォルニア州の予備選は 3 月 5 日に行われ、この年の長く続く選挙シーズンの初戦であった。要するに、ポーターの選挙活動は多くの注目を集めていたし、フェアシェイクが関与していることを周知し他の州の候補者に恐怖心を抱かせるには最適のタイミングだったのである。ポーターはエリザベス・ウォーレンと親交があったため、事実かどうかは別として、反暗号資産主義者と誤認される可能性が少なからずあった。そして何より重要だったのは、各種世論調査でポーターが予備選で勝つ見込みは低いと示されていたため、フェアシェイクが「多額の資金を投じて大々的な宣伝を行えば、彼女が負ける可能性が高かったことである。フェアシェイクはどう転んでも勝利を収める確率が高いと踏んでいた」と先ほどのコインベース幹部は語った。この計算どおりにことが運んだ。 フェアシェイクの資金力は予備選でポーターを破滅に追い込み、本選挙ではシフ(クリプト支持同盟の評価で A を獲得)が勝利した。ある議員が言ったのだが、ポーターを標的にしたのは完璧な選択だったのかもしれない。「もし暗号資産に少しでも批判的な態度をとれば、選挙で打ちのめされ、政治生命が終焉を迎える」ことを明確に周知できたからである。政治的な観点から言えば、かなり巧妙であったと言わざるを得ない。ポーターは今年末に政界を去ることとなった。

 ポーターの敗北後、かつて暗号資産を軽蔑し批判していた多くの政治家が突然好意的な態度を示すようになった。ポーターが予備選で敗れた 2 カ月後の 5 月には下院で暗号資産推進法案が採決にかけられた。ここ数年、同様の法案は共和党の支持も薄く、民主党の反対が強かったため可決されることはなかった。「 21 世紀金融イノベーションおよびテクノロジー法案( the Financial Innovation and Technology for the 21st Century Act:略号 FIT21 )」として知られるこの新法案に、バイデン大統領は公然と反対の立場を表明した。しかし、同法案は、共和党のほぼ全員と民主党 71 人が賛成し、下院を通過した。先日、上院院内総務のチャック・シューマー( Chuck Schumer )が Crypto4Harris (カマラ・ハリス支持の暗号資産擁護団体)のバーチャル集会に参加し、今年中の同法案の可決は「絶対に可能」だと公言した。「暗号資産は今後も存在し続ける」とも付け加えた。民主党のシェロッド・ブラウン( Sherrod Brown )上院議員は、これまで暗号資産を批判してきた。オハイオ州で再選を目指して立候補している。フェアシェイクは対立候補を支持する広告に 4,000 万ドルを投じている。ブラウンはここのところ、暗号資産業界に対する公の批判を控え目にしている。今年初め、暗号資産業界はロビー活動を活発化させ、暗号資産懐疑論者である現職民主党員ジョン・テスター( Jon Tester )が再選をめざすモンタナ州上院議員選挙に関与する可能性を示唆した。テスターは苦戦を強いられた。その直後、テスターは証券取引委員会による暗号資産の監視を弱める議案に賛成する投票を行った。その結果、クリプト支持同盟から「 C (仮想通貨に中立)」の評価を受けた。C 評価は異例中の異例である。テスターが過暗号資産に肯定的な投票を続ける限り、フェアシェイクはモンタナ州の選挙には関与しなさそうである。メリーランド州でも同様の動きがあった。フェアシェイクが同州の民主党上院予備選で誰か 1 人を支持すると脅した後、主要候補はいずれも暗号資産支持を表明した。